【3261】もう在宅でみるのは限界だと思います(【2306】のその後)

Q: 今から4年前、2012年に【2306】病院や保護者に対する被害意識が強い統合失調の家族についてにてご回答いただきました者です。その節は統合失調患者への対応について端的なご回答をありがとうございました。先生のご意見を頂き、当時ずいぶん気持ちが落ち着きました。

◆まずその後の簡単な経緯を記載いたします。
患者(私の妹)は30代後半、相談者である私(姉)は40代となりました。患者は前回相談時の病院に数度の入退院を繰り返した後、うちではこれ以上引き受けられないと言われて他院に転院し、入退院を繰返しております。病院と保護者に対する被害意識は相変わらずです。実家と少し離れた場所にマンションを借りつつ、調子が良いときは実家の自室で過ごして父と食事をしたり、父がマンションに時々様子を見に行ったりしておりました。父への被害妄想が出やすいことと一人で暮らしたいという本人の強い訴えから、実家に完全に同居させることは困難でした。
昨年初めには某タレント事務所の陰謀により殺される等の長文の手紙を書いて寄越した後、閉じこもってまともに飲食していない様子であったため、閉じこもっているマンションの鍵を壊して強制的に連れ出し医療保護入院となり、夏に退院後、実家で静養するも1ヶ月間入浴も着替えもせず(着替えを手伝おうかと声をかけると性的ハラスメントだと拒否する)、飲水過多や食欲不振等もあって再入院となりました。昨年は全体的に余り状態が良くなく大半を病院で過ごしました。
夏に訪問看護の手配もしましたが、本人が些細なことを理由にすぐ断って継続できず。

 
◆今回質問させて頂きたいのは、4ヶ月前の退院後、以下のような本人の行動があり、今後どう対応していったらよいかです。

・退院後、本人は父親に対する被害意識から役所にて戸籍の分籍手続きを行っていた。
・また、退院直後に実家から離れたA県に赴いて賃貸マンションを借り、家族に黙って引越していた。契約に際してはこれまで働いていた貯金が十分あると話し(実際には父の収入で生活)、連帯保証人として相談者の名を勝手に記入、相談者の実印と偽り全く違う印鑑を押していた。事情があるため実家には絶対に連絡するなとも不動産会社に伝えていた。
・2度目の訪問看護サービスも引越しが決まったと言って本人が打ち切った。
・2月になって家族にメールが届き「B県(実際に引越したA県とは全くかけ離れた地名)に引越した、やりたいことを見つけ某大学某学部に合格したので将来に向け頑張りたい、某病院に通院しているので心配無用」と実在のアパート名や大学名、病院名が記され、それまで本人の住んでいたマンションはもぬけの空になっていた。連絡してきた新住所は架空のものとすぐ判明するも、本人は絶対間違いないと言い張り話を逸らす。家族に来られたくなくて住所を隠すのだろうが、それだけやりたいことを見つけたのならこれから良い方向に進んでくれるのではないかと父は考え、大学や携帯電話、銀行口座等からいざというときは住所を知ることもできるだろうと考えていた。
・本人はメールで父に「この年齢の平均収入が幾らだから私は月額幾ら貰うのが当然だ」と大幅な仕送り増額を求め、別途学費や書籍代として次々に合計200万近くの振込みを急かし、父が意見をしても主張をまげず攻撃的な非難メールが続くため父も対応に疲れて要求額を送金。
・しかし今月に入り、A県マンションで本人不在中に煙草の不始末と推定される火災が起き、警察からの連絡で住所が判明。B県で某大学に通っているというのは全くの嘘だった。
・出火当日は本人と連絡取れず、翌朝に本人が焼けた室内に座り込んでいたのを消防・警察が発見。口をきかず動かないことから救急車を呼ぶも、入院したら虐待される、性的暴行を受けると本人が断固拒否して搬送できず。
・相談者が現場に到着して関係者とやりとりする間に「私は一人でどこかへ行きます」と突然その場を離れ、追いかけると走り出して電車やバスに飛び乗ることを繰り返し行方が分からなくなる。警察に翌日保護され、A県の精神病院に入院。
・警察官の声かけにはほとんど答えず恐ろしい眼つきで「刃物で刺して殺してください」等と何度も訴えるが、医師の前では急に態度が変わり、笑顔を見せて多弁となる。
・医師に「現在通院はしていないが溜めていた薬をきちんと服用している」
「自覚症状は全くないし服薬や治療を行っても何も変わらないが、服薬しないと入院させられるから内服している」と苦笑するように話す(実際に焼け跡で薬の束を発見)。
・また「A県に引越し後は体調不良でほとんど寝ていた」と話すが、火災当日は出火した午前から深夜まで帰って来ず、警察・消防には「当日の行動は全く覚えていない」と言って実際の行動は不明。本人所持の予定帳に2ヶ月分は趣味活動含む予定がびっしり書き込まれていたが、それ以降は全く空白。
・医師が自殺を考えたことがないか尋ねると「前は考えたこともあるが、自殺すると言うと状態が悪いと言われて薬を増やされるだけなので病院ではそういうことは言いません」と。
・医師とは会話が成立し興奮等の様子もないため、閉鎖病棟に任意入院の手続きとなる。本人は相部屋の方が落ち着くと希望するが、まず個室で鍵は掛けず様子を見ることに。
・家族を勝手に連帯保証人に仕立てて賃貸契約を結んだことに話が及ぶと「私が犯罪者であるかのように言うが、それ以前に私がどれだけ虐待されてきたか分かっているのか」と激昂。学費と偽り多額の送金を要求したことについてはそんなに高額ではないと主張し、煙草の不始末などはでっち上げだと言って火災で多くの人に迷惑をかけた等の意識は皆無、後始末についても他人ごとのよう。
・高齢の父に代わり火災の後始末や入院手続等を相談者が行ったためか、相談者に対しても被害妄想が現れている。「私が鉄格子のなかで性的暴行を受けていても姉は平気な顔をしていた」「父と姉から逃げるためにB県へ行くと嘘をついてA県へ来た」等と医師に述べる。(昨年までは父から逃げて姉の元へ行きたいと話しており、火災直後も消防員に姉を呼んでくれと言っていた)。

◆その他参考情報
・以前に精神障害者手帳2級を取得しているが、引越し前に本人が障害者年金の停止手続きを行っている。病気を認めたくない気持ちや年金を受けることで居場所が知れると考えた?
・本人は姉や従兄弟のように資格を取ったり働きたい気持ちがあるようで、昨年面会時には難関医療資格を目指す、労働問題の研究を行いたい等、現状から大きく飛躍したことを頻りに話す。在宅時に幾つかの大学院の研究室訪問に行き、会話のおかしさから婉曲に断られたりもしていたようだと父の談。相談者が「まず生活を整え、焦らず少しずつ段階を踏んでいこう」と話すと頷いていたが、火災現場には有名私大の受験願書や問題集も散らばっていた。
・以前から金銭感覚が麻痺した部分があるが、将来への不安からか金銭への強い執着も生じている様子。相談者へのメールで父の死後の手続きにやたらと言及したり、面会時に相談者の収入を詰問調で尋ねることがあり、予定帳には相談者の所有口座を探ろうとする記載や相続権に関するメモも見られた。
◆現在の悩み等
以前の担当医から、統合失調症患者にしてはかなり知能が高いと言われたことがありますが、今回はそれが悪い方に向かい、かなり周到な情報収集の上で行方をくらますための嘘を重ねております。また、退院直後に行動を起こしていることからも以前からの計画と思われます。
今後のことは入院先の相談員ともまた話をしなければなりませんが、このような患者を在宅で見るのは限界ではないかと感じております。高齢の父は仕事や祖母の介護の傍ら患者の面倒を見ることに疲れており、他県に住む相談者も患者のために頻繁に仕事を休むことは困難で、今後も高額の金銭的援助などは不可能です。病気のせいとはいえ、歪んだ主張と相手を小馬鹿にした発言で不快にさせられることも多くなってきました。
今後本人をどこに落ちつけてどうしていったらよいのか、どう接したらよいのか、父も私も悩んでおります。グループホームなど誰かの目の届くところで生活しながら職業訓練などできないだろうかとも思いますが、実際問題としてこのような患者に対し現実的な援助手段とはどういったものになるのでしょうか。

非常に長くなってしまい申し訳ありませんが、今後の方針や対応について何かご助言を頂けましたら幸いです。

 
林: 詳しい経過をご報告いただきありがとうございました。重い統合失調症を身内に持つご家族として、最善を尽くされ、また、大変ご苦労されてきたことをお察し申し上げます。

医学的な見解としては4年前の【2306】の回答と変わるところはありません。回答からそのまま引用しますと、妹さんは、

重い統合失調症であると認識すべきです。これが出発点であり、到達点でもあります。

もちろん質問者はこのことは十分にご認識したうえでのあらためてのご質問であると思います。
そして

このような患者を在宅で見るのは限界ではないかと感じております。

というご見解には私は基本的に異論はありません。
「基本的に」という意味は、社会的なサポート体制の充実程度によって、在宅でどこまで見られるかは大きく変わるからです。社会的サポートがない状態ではとても無理でしょう。すると事実として社会的サポートがどれだけ期待できるかということになります。したがって、

グループホームなど誰かの目の届くところで生活しながら職業訓練などできないだろうかとも思います

とお考えになることは理にかなっています。
但し今回のご質問のポイントはその先、すなわち、

実際問題としてこのような患者に対し現実的な援助手段とはどういったものになるのでしょうか。

になりますが、これに対する答えは
お住まいの地域によって異なる
ということになります。在宅精神障害者へのサポートは、地域によって大きく異なります。それは公的サポート(その地域の保健所、精神保健福祉センター等)、私的サポート(その地域の私立精神科病院)いずれにも言えることです。
したがいまして、

今後のことは入院先の相談員ともまた話をしなければなりませんが

それが最も適切だと思います。残念ながら、ネットで具体的に適切な回答を呈示することは不可能です。理由は上記の通り、地域によって大きく異なるというのが現実だからです。

(2016.8.5.)

05. 8月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症