【3155】母にだけ聞こえる獣の声の原因と母にしてあげられるフォロー

Q: 67歳になる私の母のことで、ぜひ林先生のご意見をお聞きしたくメールさせていただくことにしました。

母が今日、私に「3週間くらい前から始まった不可解な出来事」として話したのが以下の内容です。

*寝ようとしてベッドに横になると、枕元の床下から、産まれたての仔犬の鳴き声が2〜3回程聞こえた。その後「フゥー」っと大きく息を吸い込むような音がしたの で、フクロウが床下に仔犬を運んできて食べてしまったのだと思った。

*翌日の晩は、得体の知れない獣が苦しそうなうめき声を上げたあと「ほっ」っと一声あげたので、ベッドの枕元(頭の上側)にあるテーブルの下で猫が出産したのだと考えた(ものが沢山積み重ねてあって容易にテーブル下は覗けない)
明け方「ほっほっほっほー」と笑うように鳴く声で目が覚めた。この時は気楽そうな鳴き声だったので、猫やフクロウではない、なにか得体の知れない生き物が枕元のテーブル下に入り込んだのだな、と考えた。

家の中で、しかもベッドの枕元にあるテーブルの下に動物が入り込んだと思ったので、これは大変なことになったと思い、妹夫婦と共に家の周りをくまなく調べてみたが、縁の下に動物が入り込むような隙間はなく、土を掘って入り込んだような形跡もなかった。

しかし、眠ろうとベッドに横になると必ずケダモノの大きな咆哮が聞こえる。
枕元(頭の上側)に置いているテーブルにお気に入りの洋服を入れた籠があるのだが、ある晩は大きな咆哮と共に、サイドテーブルと籠が下からズンと突き上げられた。
サイドテーブルの下は畳半畳ほどの空間があって、何らかの生き物が入り込むスペースはあると思う。もし動物がテーブル下に入り込んだのだとしたら、震災の影響で閉まらなくなっているベッド横の押入れから入ったのだと思う。
(しかし外からだろうと押入れからだろうと室内に侵入できるような隙間はなく、物理的に無理であろうと家族は考えている)

テーブルが突き上げられた晩から怖くなって、ベッドの下に刃渡の大きな鎌を用意して用心している。

自分のベッド以外で眠る時には唸り声は聞こえず、安心して休める(たとえば長女の家に泊まったときなどは獣の声も物音も気にならない)

ある晩は、「はぁー…」と息も絶えだえのような声が3回聞こえた。段々消え入りそうな声になってしまったので、ああ、枕元のテーブルに重ねていた衣類に挟まれて子鼠が死んでしまったのだなと思った。

その晩以降も、大きな動物があげるような唸り声、咆哮が聞こえる。
床下から突き上げてテーブルが揺れるくらいだから、体も大きな動物ではないかと思っている。

不安を解消するために、枕元のテーブル下の空間を確認すればいいのだが怖くてできない。

息子(長男44歳)が家に泊まってくれる日に、唸り声を確認して貰おうと試みたが聞こえないと言われた。
娘(長女46歳)に話しても幻聴だと思うと言われた。

私も、母は物音に敏感に反応する犬と寝ているのに、難聴の母の耳にでさえ、しっかり聞こえたという唸り声の時でも犬が無反応で眠っていたことや、母本人から聞く、例えば不可解な生き物がいた場所も、床下→枕元のテーブルの下→枕元のテーブルの上に重ねて置いた服の下など変化していったり、姿も見ていない生き物を「フクロウが仔犬を食べてしまった」とか「服の中で死んでしまったのはネズミ」など、 確信している様子で話す母の姿に違和感がありました。

母は、下から突き上げられるような振動を感じたり、頭の中ではなくちゃんと外から耳に入ってくる音なので、自分では幻聴だとはとても思えないという。

寝ようとすると音や恐ろしい唸り声が聞こえるので参っている。

私が「変な声が聞こえるようになって以来、毎晩同じようなことが起こるの?」と母に聞いたところ、「そう言われてみれば、確かたった1日だけ唸り声が聞こえない日があった」と言うので、具体的にその日はどんな1日だったのか聞いたところ、その日は心身ともに充実した1日を過ごせた日だったとのことでした。

母には5年前に統合失調症で自死した妹がいるため、母も統合失調症の可能性があるのかとも一瞬考えたのですが、母は67歳と高齢ですし、認知症や妄想性障害の可能が高いのだろうか、もしくは寂しくて無意識のうちに「幻の同居人」みたいなものを作り上げてしまったのか

たしか精神科のお医者さんが書いた書籍で「屋根裏にだれかいるんですよ」というタイトルの本を何度か読んだことがありまして、一人暮らしの、特に女性では、無意識の寂しさから「幻の同居人」を作り出してしまうことがある、というようなことが書かれていたように記憶しています

母の話では日がな一日陽の光も差さない家の中で物に埋もれ、1日の大半を寝て過ごすことが日常のようです。今では何に対する意欲もわかず、あんなに好きだった化粧も買い物にも興味を示さなくなり心配です。

母の症状が寂しさの表れなのであれば、姉と交代で週に2〜3日母をお互いの家に泊まってもらうことを提案しようと考えています。
毎回母を泊めた当日は、毎回呂律が回らないような喋り方なのも気になります。1日過ごすうちに滑舌も少しずつよくなってはくるのですが、、、

(実は同居も提案しているのですが、実家に詰まっている荷物も家も手放す気はない!全部必要で買った物なんだから!とのことだったので、姉妹宅交互にショートステイさせて母に気分転換してもらう案は苦肉の策です)

近々私が母に付き添って、上記の件を主治医に話してみようと考えていますが、林先生のご意見もお聞かせいただけると幸いです。

↓『以下は参考までに』↓

(私のこと)
私は20年近くうつ病の診断で精神科に通院しており、昨年から統合失調感情障害と診断名が変わりました。今現在も精神科に通院服薬しており、状態は安定していると思います。

(両親のこと)
私の父は、いわゆるアルコール依存症で、21年前にクモ膜下出血で他界しています。
晩酌で、アルコールが入ると殴る蹴るの暴力を振るうことが日常茶飯事でした。警察のお世話になることも度々でしたが、自営業である仕事には真面目に取り組んでいたと思います。

母は昔から頑固で勝気、高圧的な態度で人の意見など聞くに値しないと公言するタイプです。母は5人姉妹の長女ですが、昔から自分の両親と母に頼りきりで従順な妹夫婦以外の人とうまく関わることが難しい人だったと私は記憶しています。

母は幼い頃から、母親(私の祖母)の浪費癖、借金癖、男グセの悪さ、育児放棄と身体的虐待に悩まされ、苦労して育ったと聞いています。

母は若い頃から買い物が好きでした。父に内緒で外商さんを呼び、高価な着物や宝飾品を買うこともありました。やがて私たちが家を出て、母が一人暮らしするようになるとまもなく、5LDKの実家は、部屋だけに留まらず、あらゆるスペース、廊下や壁という壁、窓という窓一杯、天井まで届くほど買った物が買った状態のまま積み上げられていくようになりました。日が全く差さなくなったその中の、わずかな隙間で現在も1人(と室内犬一匹)で暮らしています。

母は自身が買い物依存の傾向があることは自覚していますが「幼い頃あまりに貧しく惨めな思いをしてきたので」欲しいものは必ず手に入れるようになったのだ、と自己分析しているようです。例えば洋服のお店で、一心不乱にあれもこれもと左腕一杯に洋服を積み上げていく様は娘の私から見ても異様な光景です。

私は父が他界した辺りから「我が家がよそと違うのは父親のアルコール問題だけではなく、もしかして母にも父と同程度の原因があったからなのではないか」と考えるようになりました。私の苦しみの原因である父が死んだのに、ますます苦しくなるのは何故なんだろうと悩み、私はその頃(20代前半)から精神病院に通院するようになりました。
やがてACの自助グループにつながったことをきっかけに、20代後半で私は逃げるように家を出て、母とは一切の連絡を絶っていました。
私が家を出た後しばらくして、母も近場の心療内科にかかるようになりました。
症状や病名はわかりません。薬は飲んでいます。

私は3年前辺りから姉(45歳)に頼まれ、年に1〜2回母と会って話す機会ができてきたところです。

母は5人姉妹の長女ですが、妹(四女)が4年前に(48歳)、首吊りで自死しています。
叔母がなくなる17年ほど前、出産直後に様子がおかしくなり本人の希望で精神病院にかかりました。
そのときはたしか「強迫神経症」と診断されました。以降は死亡する直前まで、母が通っている心療内科に転院し通院していました。亡くなる前の診断名は統合失調症です。
母の姉妹で、今精神科にかかっていないのは1人(三女)だけです。
また、母の母である祖母も、母から聞いた話では「精神が普通ではなかった」そうです。
また、私だけでなく、姉も兄も精神科にかかっています。兄の診断名はパーソナリティ障害だったように記憶しています。(私のなにかが兄の逆鱗に触れたようで、数年前から私は兄から絶縁されているため、正確な診断名なのか確認できない)

自死した叔母や私が精神科にかかったとき、偏見をもって反対していたはずの身内が、結局ほぼ全員精神科のお世話になっています。
脳の病は、やはり遺伝するのだから、適切な治療を受けて生活していきたいと思いました。

長々と余計な事を書き連ねてしまいました。
このメールがQ&Aに掲載されなくても、林先生が目を通して下さるということだけでも充分です。

長文駄文を読んでくださり、ありがとうございました。

 

林: これまでは明らかな精神疾患に罹患していなかった方が、67歳になって初めて幻覚と思われる症状が出て来た。この経過と、このメールに記されている幻覚の内容からは、第一に考えられるのは認知症の始まりです。認知症の種類まではわかりません。さらに、軽いせん妄ということも十分にあり得ます。
けれどもこの【3155】のケースは、精神病の家族歴が非常に濃厚ですので、この年齢になって初めて精神病(統合失調症など)を発症する率は、一般的に考えられる率よりはるかに高いということができます。
したがいまして、結論は「あらゆるものが考えられる」ということになります。認知症と精神病のどちらかである疑いは濃厚です。脳の画像検査(CT, MRI)を含めた検査を受けることが必要でしょう。

近々私が母に付き添って、上記の件を主治医に話してみようと考えています

是非そうされることをお勧めします。

(2016.3.5.)

05. 3月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 認知症 タグ: |