【3123】私の強迫障害の傾向は、病気といえる範囲でしょうか

Q: 31歳の女性です。
もともと親が潔癖と言えるくらいの人で、特に私はベッドを清潔に保つことにこだわりを覚えるようになりました。ベッドには汚れた服は置いてはならず(この価値観は母親も持っていた)、自分も綺麗な状態でなければならないので、高熱があってもお風呂に入らないとベッドに入れなくなりました。次第にベッド、特に私が小さい頃から持っていた赤ちゃ ん用の毛布を神聖視するようになりました。
10歳ぐらいの頃、自分の周りの人に悪いことが起きることが怖くなり、寝る前に「お祈り」をしていました。最初は神様の名前(ニポポ、北海道で買った置物の木像を枕元に置いていました)の名前を唱えていただけでしたが、次第に悪化し、最後は指で空中に三角形を描きながら「ニポポ」と90回唱えるようになりました。苦しくて仕方がなかったのは覚えていますが、どうやってその習慣を止めたのかは覚えていません。

15歳になると高校がきらいでたまらず、高校から帰ったらすぐに制服を脱ぎ捨て、お風呂に入るようになりました。制服は汚(けが)れたものなのでお風呂から出たあとは触ってはならず、また洗濯したばかりであっても「神聖な」ベッドの上に置かれるとパニックになり、親に泣きながら怒鳴りつけて(ベッドからはたき落とした記憶がある)抗議しました。大学に入り勉強を楽しむようになると、家に帰ってすぐにお風呂に入らなくて済むようになりましたが、引き続き着用済みの洋服をベッドの上に置いたり、お風呂に入らないままベッドに入ることはできません。

17歳頃、大学受験が近づいてくると、自分に「信号が赤になる瞬間を見てはいけない、見ると受験に落ちる」という習慣を課し始めました。赤になる瞬間を見てしまったら、信号が青になる瞬間を(出来ることなら2回)見ないとその悪運を取り消せないと思ってしまい、周りから奇妙に見えないように注意しながら、信号をわたらず青になる瞬間を待ったり、振り向き振り向きしながら歩いてどうにか青になる瞬間を目にするようにしていました。苦しくてたまらず、一年ぐらい信号が変わる瞬間に顔を伏せるようにしていたら、あまり信号のことが気にならなくなり、普通に過ごせるようになりました。ただ、今でもなるべく赤になる瞬間は見ないようにしています。

こういった習慣が苦しかったことはほとんど忘れていたのですが、最近、お風呂に入ったあとにお風呂に入っていない夫に触られることや、夫がお風呂に入ったあとであっても陰部が私の体に触れることが非常に苦痛に感じられるようになりました。キスすること、性行為をすることにも嫌悪感があり(夫に嫌悪感があるわけではなく、人のヨダレが自分に触れることが嫌、ディープキスのあとは歯を磨かなければならない)、また寝る前に「夜中にトイレに起きたら睡眠時間が減る」という恐怖感が芽生えると(毎晩ではない)、トイレに行った直後であってももう一度便座に座り、少しでも尿が出ないと寝られないようになりました。この間はお風呂に入った後の夫が陰部を私のパジャマにあてた(嫌がらせではなくスキンシップとして)際、パニックで泣いてしまいパジャマを変えました。私の中では「陰部=汚い、たとえお風呂後であっても」と論理が通っている気がするのですが、夫にとっては常軌を逸した行動に思われたようで(その気持ちもわかる)、診察を受ける必要性を示唆されました。

こうした中で自分の半生を振り返り、上に述べたような「自分でも苦しい、変だと感じる」行動を過去に繰り返していたことに思い当たりました。少し心配なのは、近年、これらの傾向が少しずつ悪化しているように感じられることです。

質問:
1.私が過去に苦しんでいた症状は、強迫性障害だったのでしょうか。もしそうであれば、なぜ自然に乗り越えることができたのでしょうか。
2.今私が抱えている症状?は、病的と呼ぶべきものでしょうか、それとも常識の範囲内でしょうか。病的であれば、医師の診察を受けるべきものでしょうか、また自然に乗り越えられるのを待つべきでしょうか。
3.何度にも渡るこれらのエピソード(という呼び方があっているのか不明ですが)は、今の状態が強迫性障害と呼ぶべきものでなかったとしても、私が強迫性障害に陥りやすいという傾向を示すものでしょうか。

11年前の1年間、8年前から5年前の3年ほど、うつ病との診断を受けこの期間中SSRI系の薬、citalopramの処方を受けていました。上の症状と合わせて、自分が精神科的意味で脆弱な人間だと思うと悲しいです。これ以降、この状態が悪化したり、統合失調症など違う疾患を発症したりすることへの恐怖感があります。ご回答をいただけなかったとしても、林先生が私の症状を読んで、知ってくださったことへの安心感を感じています。

 
林: 強迫性障害です。精神科での治療が必要です。

1.私が過去に苦しんでいた症状は、強迫性障害だったのでしょうか。

はい、強迫性障害です。

もしそうであれば、なぜ自然に乗り越えることができたのでしょうか。

強迫性障害は、症状に波があることは少なくありませんので、この【3123】の経過は特異なものではありません。

 2.今私が抱えている症状?は、病的と呼ぶべきものでしょうか、それとも常識の範囲内でしょうか。

病的です。

病的であれば、医師の診察を受けるべきものでしょうか、また自然に乗り越えられるのを待つべきでしょうか。

精神科で治療を受けるべきです。
自然に軽快することもあり得ないとはいえません。しかし実生活にかなりの支障が出ていますので、自然軽快を期待することは勧められません。

 3.何度にも渡るこれらのエピソード(という呼び方があっているのか不明ですが)は、今の状態が強迫性障害と呼ぶべきものでなかったとしても、私が強迫性障害に陥りやすいという傾向を示すものでしょうか。

はい、そうです。

そして、この【3123】のケースでは、過去に受けていたうつ病とも関連性があるとみるべきです。強迫性障害もうつ病も、脳内のセロトニンとの関係が深い病気であり(但し言えるのは「セロトニンとの関係が深い」までです。このことを過剰に解釈して、セロトニンの状態を変えればうつ病や強迫性が治ると考えるのは間違いです)、どちらも抗うつ薬(セロトニンへの作用がある抗うつ薬)が有効な治療薬です。
強迫性障害は、必ずしも薬が必要とは限りませんが、この【3123】では、少なくとも症状が悪化している時期には、抗うつ薬で治療すべきで、また、その効果は充分に期待できると思います。

これ以降、この状態が悪化したり、統合失調症など違う疾患を発症したりすることへの恐怖感があります。

このままですと強迫症状が悪化するおそれはあります。統合失調症を発症するおそれはありません。

なお、強迫という症状のレベルについては
【3122】極度の心配性の夫への適切な対応は? 
【3124】強迫性障害でしょうか、ただの心配性でしょうか
もご参照ください。

(2016.1.5.)

05. 1月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 強迫性障害, 精神科Q&A