【2387】統合失調症の前兆のような徴候が出てから10ヶ月が過ぎました。手遅れでしょうか。

Q: 私の20歳になる息子のことです。私の母(息子の祖母)が亡くなってから息子の行動がおかしくなりました。 物を片付ける時も何度も何度も同じ事を繰り返します。一度片づければ済むにもかかわらず、また取り出してまたしまって・・・の繰り返しです。 当初は「何度も同じ事してないでさっさと片付けなさい!」と叱りつけていました。洗濯物は所定の場所に出せなかったり、大学で配布されたであろうプリントも衣服のポケットのあちらこちらから出てきます。 自分の頭を強くたたきます。あまりにもひどくたたくので「なぜなのか」聞いたとところ「頭の中に悪い自分がいて、行動を全て否定してくるから、それを紛らわすためにたたく」と言うような事でした。 それですぐにカウンセリングや受診をしたらよかったのですが、本人は自力で元の自分に戻りたいので行くのは気が進まないとの事でした。おかしい?と思ってから10カ月ほどして本人もやっと受診の決意ができ、通院を開始しました。もう2ヶ月通っています。しかしながらまだ病名をはっきりとは聞いていません。お薬はジプレキサでしたのでその後ネットで自分であれこれ調べ「統合失調症」なのだろうと考え始めました。次回の受診時にはドクターに確認をしてみますが、受診に至るまでの10ヶ月は長過ぎたのでしょうか、手遅れであるとかそういった事も心配です。

林: 最も可能性が高い診断名は統合失調症だと思います。統合失調症は、発症してから治療開始までの期間が短いほうが、その後の経過は良くなるという研究データは多数あります。逆にいえば、発症してから治療開始までの期間が長くなれば、その後の経過は悪いということです。
 そうしますと、

受診に至るまでの10ヶ月は長過ぎたのでしょうか、手遅れであるとかそういった事も心配です。

という質問者のご心配はもっともであると言えそうです。けれどもそうは言えません。
なぜなら、

・「統合失調症は、発症してから治療開始までの期間が短いほうが、その後の経過は良くなる。発症してから治療開始までの期間が長くなれば、その後の経過は悪い」といっても、それはあくまでも統計的なデータではそうだということです。個々のケースに目を向ければ、データにあてはまらない例はたくさんあります。
・上記統計データを出した研究の多くは、「統合失調症の発症」を、「症状が統合失調症の診断基準を満たした時点」と定めています。ということはつまり、前駆症状の時期については何とも言えないということです。この【2387】でいえば、

物を片付ける時も何度も何度も同じ事を繰り返します。一度片づければ済むにもかかわらず、また取り出してまたしまって・・・の繰り返しです。

これらは、後から振り返れば統合失調症の前駆症状であったといえますが、リアルタイムの時点では、強迫性障害ということにおそらくなるでしょう。これを統合失調症の発症であると判定することは、リアルタイムでは非常に難しく、したがって研究データとすることも非常に難しいことになります。そうしたこともあって、「統合失調症の発症から治療開始までの期間と、その後の経過の関係」についての研究では、統合失調症の発症を、統合失調症の診断基準を満たした時点とせざるを得ないのです。
この【2387】、

受診に至るまでの10ヶ月は長過ぎたのでしょうか、

とのことですが、それは前駆症状が認められてから10カ月ということですから、これまでの多くの医学研究データはあまり参考にならないと言えます。(もちろん、前駆症状が認められてから治療開始までの期間も短いほうが、その後の経過は良くなると推定できますが、信頼できるデータが存在しない以上、それは推定にすぎません)

・発症してから治療開始までの期間が長くなれば、その後の経過は悪い といっても、それはそのまま「手遅れ」を意味するものではありません。【2384】で解説したような、慢性化して人格荒廃が進んだ場合を除いては、手遅れということはできません。

(2013.5.5.)


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03. 5月 2013 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症