【2793】描く絵が変わってきたころから意味不明なことを言うようになった

Q: 私の母(50代)は昔からよく絵を描く人でした。
美大を出ていることもあり絵はそこそこ上手く、小さい頃は綺麗な風景画の絵も見せてもらったこともあります。

しかし、母が油絵の抽象画を描くようになって家がシンナー臭くなってきたころに母の様子が少しずつおかしくなってきました。
「自分は政府の犬に金を出せと脅されている」「自分の絵は数億の価値がある、だから将来は心配するな」など意味不明な虚言癖が目立つようになってきました。
この前母がいる実家に帰省した時にはルーズリーフ三枚分にわたって自分の絵が何億の価値がある、拷問身代わり料として総理大臣に一億払う、など妄想がびっしりと書かれてありました。

母親はこの妄想話を私と、私の姉に度々話しますが、その度にうんざりして聞き流しています。母親と二人っきりになった時はほぼ確実に話してきます。
幸いなのはこの妄想話を母が働いている会社の人など他人には話していないみたいだということです。

この話を話したところ、統合失調症かもしれないと言われました。
林先生から見てもこれは統合失調症だと判断できますか?

林: 統合失調症か妄想性障害でしょう。

「自分は政府の犬に金を出せと脅されている」「自分の絵は数億の価値がある、だから将来は心配するな」など意味不明な虚言癖が目立つようになってきました。

これらは虚言ではなく妄想です。

なお、発症の時期については、

しかし、母が油絵の抽象画を描くようになって家がシンナー臭くなってきたころに母の様子が少しずつおかしくなってきました。

とのこと、ここには「油絵の抽象画を描くようになって」と「家がシンナー臭くなって」の二つの情報が書かれています。するとシンナーによる脳への影響も一応考えなければなりませんが、シンナーによってこのような妄想が出ることはまずないので、シンナーが原因ということはまずあり得ません。
もちろん「油絵の抽象画」が原因ということもあり得ません。
しかし、「油絵の抽象画」が、精神病発症の結果ということは十分にあり得ます。
精神医学の文献にも、統合失調症を発症した画家の作品が変化し、乱れていくという経過を取ったケースがあります。
この【2793】のケース、「抽象画」とのことですが、文脈からは、それまで具象画が主だったのが、ある時期から抽象画に変化したように読めます。「抽象画 = 乱れた作品、統合失調症発症」などとはもちろん言えませんが、芸術的な抽象画と、単にわけのわからない絵とは、素人目には区別がつかないこともしばしばありますので、この【2793】では、同じ時期から妄想が目立っていることとあわせ、作品の乱れ(変化)は、統合失調症等の発症の結果であるという推定が可能です。
もう一つの可能性は、「自分は抽象画の天才で、自分の描く作品には莫大な価値がある」という妄想の発生がまずあって、その結果として抽象画を描くようになったというものです。これも、「油絵の抽象画を描くようになっ」たことは統合失調症等の発症の結果ということになります。
このように、生活上の何らかの変化が、統合失調症等発症のサインであることは、しばしばあるものです。

(2014.10.5)

05. 10月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症