【2384】異様な生活を続けている統合失調症の叔母は本当に治るのでしょうか
Q: 20代の女子学生です。こちらのサイトで林先生のQ&Aを拝見して、少しばかり統合失調症という叔母の病気について理解できたように思います。ありがとうございます。 今回、統合失調症と診断を受けている叔母(45歳)についてお尋ねしたいことがございましたので、メールさせて頂きました。叔母は、高校生頃に診断を受けたようです。当時、私はまだ生まれておりませんので、詳しく年齢等は分からないのですが、およそ30年は病気と付き合っていることになると思います。叔母は当時から現在まで、祖父母の介護を受けて暮らしております。 私の覚えている限りの記憶では、20歳そこそこだった叔母はまだまともな面もあり、引きこもりがちではあったものの、自由に歩くこともできました。ところが、近年祖父母宅に長期滞在すると、叔母はほとんど一日中布団の上で正座をして猫が座るような姿勢(香箱座りと言えばいいのでしょうか)で過ごし、ぶくぶくに太りきって、歩くこともままなりません。そのため、介護用おむつを着用しているのですが、履き替えることも少なく、頻繁にお漏らしをしてしまい、祖母は老体に鞭打って毎日のように洗濯をしております。そして、ズボンやスカートを穿くと意識がのっとられると言って、普段は下半身はおむつむき出しで生活しております。また、妄想からか風呂に入ることも、着替えることも月に一度あるかないかといった状況です。 叔母は、自分は皇室の人間であるとか、スペインの皇女であるとか、私の実の母親であるとかいった妄想を信じきっており、自分が病気であるとは理解していません。また、今はアメリカと戦争しているから米は食べないとか、カーテンを閉めるなとか叫ぶこともあります。更に、これは口にしてはいけないと、食べ物をゴミ箱へ捨てることも多々あります。(おでんなども鍋ごと捨ててしまいます)更に、叔母は一人で何役もこなして会話しております。例えば、「あや(身内にこの名前はおりませんので、妄想上の人物)ーなんだー?布団かぶっていいかーいいよー何枚?一枚」「全員皆殺しだ!許してください」などと、会話を続けております。 また、薬を常時22種類も服用しており、そのうちの多くはロキソニンやPL顆粒といった病気には直接関係のない薬です。妄想から、この薬を飲まないと世界中の命が助からないと信じきっているようで、飲む人数分ハサミで細かく袋に線を入れて切り分け、薬の袋を切ったものを箱に入れて大切に保管しています。これを溜めてしまうと大変なことになるため、時々こっそりと捨てるのですが、捨てられたと分かったら家中のゴミ箱を探し、夜中でも構わず叫び続け、紙おむつ一枚で外にごみを拾いに飛び出したこともあります。また、薬をもっとくれ!(病気に関係のない薬、主にPL顆粒)と、時間を気にせず騒ぎ立てることもしばしばです。そのため、祖父母は夜間にまともに睡眠をとることができません。 私はこんなに多くの薬を処方する主治医(月に一度往診に来て頂いています)の先生を心から信用することは出来ずにいます。ですが、祖母は「長年みてもらっているから」と、他のお医者さんで見ていただくことは考えていないようです。更に、ホルモンの影響で病気になっているから、歳を取ったら統合失調症は治ると言われたということで、祖母はそれを信じきっています。私も最初はそういうものなのかな、と思っていたのですが、Q&Aを拝見しておりますと、ご高齢になってから発症される方もおられるので、これも嘘ではないかと思っております。叔母の病気は本当に治るのでしょうか? 私は、祖父母の力では薬を規則正しく服用させることが出来ないため、(錠剤を口に入れて舐めたり、缶ジュースに粉薬を溶かして放置する、飲まずに隠して置いておくなど、正しく服用しているところを見たことがありません。また、前述の通り薬の袋を細かく切るため、飲むのにも時間がかかり、寝ているとき以外は薬を切っているような状況です)入院して治療を受けることが望ましいと思っているのですが、祖母は断固として認めたがりません。曰く、昔入院させた時に牢獄のような部屋に入れられて折檻を受けていた。親として子供を捨てるわけにはいかない、とのことです。叔母は入院するのが望ましいというのは私の素人考えなのでしょうか? 大変長い文章になってしまいましたが、読んでいただけたのなら、また、先生のご意見頂戴できましたら幸いです。
林: 統合失調症は、慢性化すると、人格が荒廃し、人格水準の低下と呼ばれる状態になることがあります。かつて、まだ統合失調症の治療薬がない時代には、非常に多くの統合失調症の方がそのような経過をたどっていました。ですから古典的な本には慢性化した統合失調症の精神症状の実例がたくさん描写されています。現代の統合失調症の本には、そのような実態はほとんど書かれていませんが、統合失調症という事実 の「3章 無治療」には、古典からの引用症例を含め、人格水準が低下した実例をいくつもご紹介してあります。
この【2384】の症状は、それらの実例に非常によく似たものです。そして、慢性化して人格水準が低下してしまった統合失調症は、完全に元の状態に戻ることは、残念ながら期待できません。【2384】の質問者は
叔母の病気は本当に治るのでしょうか?
と質問しておられますが、このような状態に至った場合は、「まず治らない」(ここで「治る」とは、「完全に元の状態に戻る」という意味です)と考えるのがむしろ普通です。
ただ、この【2384】のケースが、上記の本の実例と異なる点は、上記の本の実例は、無治療の結果として慢性化・人格水準が低下したのに対し、この【2384】のケースは、薬を正しく飲まないなど、適切な治療を受けてきていないと思われることです。したがって、
入院して治療を受けることが望ましいと思っている
という質問者のお考えは、一理あるといえます。
もっとも、メールに描写されている症状を見る限り、すでに状態はかなり慢性化しており、入院しても画期的に改善することは期待しにくいでしょう。けれども今よりはよくなることは期待できますし、今からでも適切な治療を始め、それを続けることで、さらなる悪化を防止したり、悪化の程度を軽くしたりすることも期待できます。
というわけで、回答をまとめると次のようになります。
1. このままでは希望はない。
2. 入院しても、画期的な改善はまず期待できない。
3. しかし、入院すれば、現在・将来ともに、ある程度の改善は期待できる。
ご本人は入院を嫌がっておられるとのこと、もし画期的な改善が期待できるのであれば、本人が嫌がっても、入院を積極的に考えるべきでしょう。
しかしこのケースはそれほどの改善は期待できません。
すると、「本人の意思に反してまで入院させることで、“ある程度の”改善を求めるか、求めないか」、今後の方針決定はここに帰着します。
(2013.5.5.)