【2671】措置入院から退院後、薬を飲まない統合失調症の兄について‏

Q: 私は30代女性です。措置入院から退院した兄の事について質問させて頂きたく思いました。兄は45歳で現在両親と3人で生活をしています。私は、実家から遠く離れた他県に嫁いでいます。 兄が初めて統合失調症様の言動を見せたのは、17か18歳の頃でした。宇宙人や政治家やテレビのニュースなどに対しての妄想や、私に対して根拠のない事で睨みつけたり罵声を浴びせるなどの言動が数日続きました。(その頃の兄は高校を中退し家にこもっており、酔った父から夜中に「どうするんだ」とからまれるという事を繰り返していました。)兄のその様子に対して、両親は特に病院に連れていくなどせず放置していた状況です。その後妄想は収まったのですが、大検受験、4浪の末(1年間は予備校に通っていました)進学は諦め、父の仕事を手伝ったり人間関係を苦に辞めて引きこもったりのくり返しでした。かなり生きづらさを感じていたようで、今思えば陰性症状だったのだろうと思います。本人はこの17歳頃にこのような事があったという記憶は全く無かったと最近本人から聞いて分かりました。(自分は統合失調症ではないと思っていた様でショックを受けていました。)兄は元々自分の吃音に悩んでおり(本人曰く舌の付け根がうまく動かないそうです)、その陰性症状のような状態と合わさって人と接することへの苦手意識を持っております。 兄はその引きこもっている間、家で主に哲学関連の書籍を数多く読み、その後二十代前半頃、気分が高揚していた時に「俺は悟った」としゃべり続け、引きこもりの状態から一転し、テレビにも出ていたある大学教授の主催するサークルに通ったりと積極的に外出するようになった時期もありました。その後も「悟った」ということはもう一度位あったと思います。 でも、そういった気分の高揚は長続きせず、自殺を考えるほどの落ち込みの期間が長く続きました。(その間も時には父の勧めで父の仕事を手伝いに出たり辞めたりのくり返しです) 7年ほど前にとあるメンタルクリニックの何らかの情報をインターネットから得たようで、自ら受診し何かの薬を処方され飲んでから気分が高揚し、その後すぐ陽性症状の様になり母の臀部を強い力で蹴り膝に怪我をさせ、父に連れられ別の精神科の病院に行き入院しました。統合失調症だと診断されしばらくしてから退院しました。その後申請し障害年金をもらっています。ただ兄自身は、自分は統合失調症ではないと頑なに信じており、薬はもらっても、薬を飲むと気分が落ち込んで舌も動かなくなり外に出ることが困難になるから飲まないし、とあるメンタルクリニックで処方された薬がきっかけで入院したが、自分は病気ではないから飲む必要がないと言っていました。 そして1月半ほど前、2、3日ろくに寝ないでインターネットであるサイトを見ていたり、インターネットの何かが「怖い」と言ったり、極端に食べなくなったりし、数日後突然裸で自室から出てきて、父親(糖尿病で自宅で寝たきり)の頭を拳で何度も殴打し、母も止められず、隣に住む方に110番通報してもらい、措置入院となりました。 1ヶ月ほどで退院し、先ほど兄から電話があったのですが、薬を必ず服用するよう医師から言われて退院したようです。でも兄は、「薬を飲むと呂律が回らなくなり買い物にも出れないし、アドレナリンが抑制され哲学の思索も出来なくなる。」「ニーチェも晩年は精神病だった。真理を追求するものの代償だ。」「自分は絶対にもう発作は起きないと思う。起きないように睡眠に気を付ける。でも薬を飲まないのだけは許してくれ。」と言います。暴力については、「父に対しての恨みがあるからそれが出てしまったのだと思う。入院中は朗らかに過ごせていた。父だからだ。」と言っています。 私と母は、陽性症状が起きるごとに暴力的傾向が酷くなっていると気付き、退院する前に医師に薬を飲むのを拒むからどうしたら良いか母から相談するようにと話していたのですが、医師の前では兄は薬は飲むと約束し退院に至ったようです。どのように説得しても兄は上記のように同じことを言って拒否するばかりなのですが、病院に薬を飲まないからどうしたら良いか相談するよう母に頼むと言ったら、それをされたらまた措置入院になってしまうから、それだけは勘弁してくれと懇願されました。 母は今年80歳になるので無理はかけられないのですが、私は実家から離れて暮らしているし、このような状況でできる事は何か教えていただきたく思います。陽性症状の時にだんだん暴力の度合いが増しているのと、陽性症状になる頻度が高くなっているのが心配です。まとまりのない文章、申し訳ありません。どうぞよろしくお願いいたします。

林: 18歳頃発症し、適切な治療を受けないまま二十数年が経過しており、時に増悪する陽性症状はもちろんのこと、人格水準の低下も認められる、慢性化した統合失調症です。入院せずに生活を続けるためには、抗精神病薬を定期的に服用することが最低条件です。この経過と症状からみると、抗精神病薬を定期的に服用していてもなお、なんらかのストレス等により症状が再燃することも考えておかなければならないでしょう。
今回、措置入院からわずか1カ月で退院し、そのときの指導が

薬を必ず服用するよう

だけであるとすれば、この精神科病院での治療は実に甘いと言わざるを得ません。これまでの経過と症状をみれば、そんな指導でこの方が定期的に薬を服用することが期待できるはずがありません。
このようなケースでは、一つの方法としては、デポ剤と呼ばれる注射を、月に一回または二回打つことで、薬をのんでいるのと同じ効果を持たせることです。統合失調症という事実 のcase 4-4、怠薬による再発を繰り返してきた一例 も是非ご参照ください。このcase4-4のように、再発を繰り返す前に、デポ剤治療を導入することが、この【2671】では望まれるといえるでしょう。

どのように説得しても兄は上記のように同じことを言って拒否するばかりなのですが、病院に薬を飲まないからどうしたら良いか相談するよう母に頼むと言ったら、それをされたらまた措置入院になってしまうから、それだけは勘弁してくれと懇願されました。

お兄様のこの反応は、一種の拒薬ではありますが、100%完全な拒否とは違うニュアンスがありますので、まだ希望はあると思います。このまま治療をせずに経過すればまた激しい症状が再燃するのは必至で、そのときにはもっと激しい暴力行為にご家族が犠牲になるという結果になるかもしれません。現状を主治医の先生によくお伝えし、適切な治療を一日も早く始めてください。

(2014.5.5.)

05. 5月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症