まず間違いなく虚言者

もちろん100%間違いないとまでは言えない。だがまず間違いないとまでは言える。まず間違いなく彼は虚言者である。世界に向かって大嘘をついた虚言者である。南アフリカ、ネルソン・マンデラ元大統領の追悼式(2013.12.10.)で、オバマ大統領のスピーチの際に彼の横に立って、手話通訳のふりをした男、Thamasanqa Jantjieのことである。
CNNはJantjieが、オバマ大統領だけでなく、他の参列者のスピーチを「通訳」する場面を配信している。その一部には同じスピーチを本物の手話通訳者が通訳する動画が同時に映し出されており、Jantjieの「通訳」はでたらめ(ただでたらめに手を動かしているだけ)であることがありありとわかる。(さらによく見ると、同じ手の動きの繰り返しが全く別の場面で見られることがわかる。すると全くでたらめというより、彼なりのパターンを適当に繰り返しているということになるのだろう。だとしても通訳としては「全くのでたらめという」ことに変わりはないが)
 後にこのことを問い詰められたJantjieは、自分は統合失調症で、マンデラ元大統領の追悼式の時は統合失調症の症状が出たため、あのようなことをしてしまったと弁解している。こう弁解したことは、日本の新聞にも報道された。
上記CNN配信動画の中には、Jantjieのラジオインタビューの音声も公開されており、彼が口ごもりながらこう弁解している言葉を聞くことができる。
Well, well, eh, yes I am currently a, a patient… receiving a treatment in schizophrenic. (ええ、ええ、・・そ、そうです。私はいま、か、患者なんです・・・統合失調症で治療を受けてるんです)
虚言である。まず虚言に間違いない。ここまでの情報だけでも、Jantjieの弁解が虚言であることはまず間違いない。統合失調症の症状が、そう都合よく(Jantjieにとって都合よく、という意味である)、特定の場面で特定の形で出るはずがないからである。
 だがもしかすると例外的にそのようなことが起きたのかもしれない。そういう可能性が万に一つもないとは言えない。もう少し彼の言い分を聞いてみよう。New York TimesのInterpreter at Mandela Service Says He Is Schizophrenic and Saw Angels Descendに報道されている、Jantjieの言葉は次の通りである。
「あのとき私は、天使が降りてくるのを見た」
「またあれが出たなと思った。こういうとき、私は暴れてしまうこともある」
「私は追跡されていると感じることもある」
「あのとき、大統領や、そのほか、周りの人が、みんな武装した警官だと私は思ってしまった。でも私があの場でパニックになったら大変なことになるので、祖国のために我慢した」
また、BBCはMandela interpreter Thamsanqa Jantjie defends performanceに、彼のインタビュー動画を配信しており、その中でも彼は、あのとき自分は天使が降りてくるのを見た、信じてほしい、と話している。

幻視。追跡されているという妄想。周りの人々が迫害者であるという妄想。
これらは、一つ一つを取り上げてみれば、確かに統合失調症で出現し得る症状だ。
 だが、これらの情報をあわせると、Jantjieは統合失調症ではなく、虚言者であるという可能性が逆にさらに高まる。「可能性」といったが、それは慎重な表現をとったまでで、ほぼ100%に限りなく近い確率で、彼は嘘をついている。虚言者である。(統合失調症かどうかは厳密にはわからない。だが、あの通訳の際に、統合失調症の症状が出ていたという説明は、100%に限りなく近い確率で、虚言である)
 そう判断できる理由の一つは、先に指摘したように、そう都合よく(Jantjieにとって都合よく、という意味である)、特定の場面で特定の形で統合失調症の症状が出るはずがないからである。Jantjieのこのような弁解は、犯罪者が、自分は本当は統合失調症ではないのにもかかわらず、犯行の時は幻聴の命令に従ってやってしまったなど、統合失調症を装って罪を逃れようとするときに典型的になされるものである。この際、本などで聞きかじった統合失調症の症状が、自分にはあったと説明するのもまた典型的である。
 理由の第二は、動画に見られる彼の話し方である。あの通訳場面での自分の状態を冷静に振り返り、精神病の症状だったとはいえ申し訳なかった、と語る彼の様子は、つい数日前に重篤な症状が出たばかりの統合失調症の人のものとしてはまずあり得ないものである。(十分な期間にわたって治療を受けた後なら、十分にあり得ることであるが)
さらにCNNには、Mandela memorial interpreter asks forgiveness, calls himself championで、彼が力強く弁解する様子が配信されている。これも、つい数日前に、統合失調症の重篤な症状があったばかりの人物の様子とは到底考えられない。
Jantjieが虚言者であることはまず間違いない。

ところで、上記CNN配信動画の中、Jantjieが、自分は正式な手話通訳の資格を持っており、疑うのなら南アフリカの手話通訳に問い合わせればわかる、(Anybody that wants my qualification, the person should get it from the SA interpreters)と言っているのを聞くことができる。
 しかし実際に問い合わせれば、逆に彼が実際はそんな資格を持っていないことがわかることになるのは自明で(現に、南アフリカ手話通訳者協会は、Jantjieに手話通訳者の資格などないことを公式に述べている)、このように、すぐにばれる嘘を堂々と言うのも、病的な虚言者の特徴の一つである。
 そもそも、オバマ大統領の横で、でたらめな「通訳」をすれば、膨大な数の人がそれを見るわけで、そうすればでたらめであるとばれるのは自明で、そうなれば自分が窮地に陥ることもまた自明である。にもかかわらずそうしてしまうのも、「すぐばれる嘘を堂々と言う」という、病的な虚言者らしい行為であるといえる。
 その後も、Jantjieの経歴などが次々に明らかにされているようだが、彼の行った「通訳」と、その後の彼の弁解だけを見ても、Jantjieが虚言者であることはまず間違いない。もちろん100%間違いないとまでは言えない。だがまず間違いないとまでは言える。まず間違いなく彼は虚言者である。世界に向かって大嘘をついた虚言者である。



ここまで書いて、一夜明けたら、Fox Newsで次の記事を見たので追記する:

Sign interpreter at Mandela memorial reportedly once face murder charge
Jantjieは殺人で起訴された過去があるらしいという見出しである。本文には、彼には他の犯罪歴もあることが示唆されている。
これらが事実だとすれば、Jantjieにはおそらく反社会性パーソナリティ障害の診断がつき、虚言はその一症状ということになるであろう。病的な虚言は反社会性パーソナリティ障害にしばしば伴うものだ。

但し、病的な虚言だけがほとんど唯一の症状で、 「虚言症」としか言いようのないケースも実際には存在する。その中には、虚言によって自分の利になるようにしようという意図が明らかなケースもあれば、いったい何のために虚言をしているのか客観的には了解できず、いわば呼吸をするように自然に虚言を繰り返し続けているケースもある。

15. 12月 2013 by Hayashi
カテゴリー: コラム