注1 (食材偽装とプラセボ効果)
注1
それは副作用に対応する変化だという推定もあり得るが、その推定は成り立ちにくい。なぜなら、プラセボでも副作用は出るからである。抗うつ薬とプラセボを比べた場合、確実に違うといえる点は、再発予防効果である。
コラム本文には「この脳内変化が、おそらく再発予防効果に関連する部位であろうと考えられている」と書いたが、厳密には、「この脳内変化が、再発予防効果に関連する部位なのかもしれない」である。論文には
Also unanswered is whether the additional hippocampal, brainstem, striatal, and insula changes seen uniquely in drug-treated responders facilitates and maintains clinical response in the long term.
と書かれている。それでも、有力な可能性としては、今回、抗うつ薬とプラセボのどちらで回復した人にも共通して見られた脳の部位の代謝変化を安定化するために、プラセボでは見られなかった脳の部位の変化が関与していることが考えられる。論文の記載はこうである:
It might be speculated that modulation of these regions results in the observed changes of greater magnitude in respone-specific cortical and paralimbic regions, thus strengthening or stabilizing the newly established stated of equilibrium over time.
だが、プラセボには再発防止効果が本当にないのか、厳密にはわかっていない。この論文には、「プラセボの再発防止効果は弱い」ことを示唆する論文が引用されているが、それは1996年のJournal of Clinical Psychiatry の短報で、根拠としては十分とはいえないであろう。しかし、プラセボに再発予防効果あるか否かを実証する研究は、実施困難である。理論的にはデザインできるが、倫理的に許されないであろう。
なおコラム本文には「プラセボで回復した人にも同じ変化が認められることを示したことが、この論文の意義である。」と書いたが、これはコラムの趣旨に合わせたもので、この論文の真の意義は、抗うつ薬で回復した人の脳だけに認められた変化をめぐるものであろう。それは、再発予防にとどまらず、うつ病の発症メカニズムを追究する端緒になり得るからである。
抗うつ薬で回復した人の脳とプラセボで回復した人の脳に共通する変化部位があるということ自体は、この論文の前からわかっていたとも言える。症状が変化すれば、変化の原因に関係なく、脳内に対応する変化が発生していることは当然だからである。気持ちの問題には必ずそれに対応する脳内変化があるのだ。