【4284】「ずっと寝ている自分」も統合され、「気持ちが安定する」とはどういう状態なのか、分かるようになりました。(【3975】、【4188】、【4200】のその後)

Q: 【4200】1年間のカウンセリングを通して、生きることが楽になってきました で回答いただきありがとうございました。
振り返ってみると、治療を開始してからの1年間は、それまで自分の内々で対処していた症状が一気に外側へと噴出し、ほとんどずっと泣いていたというような、情緒不安定な1年でもあ りました。回復への道のりは、螺旋階段のようで、自分が進んでいるのか下がっているのか、いつまで続くのか、と、絶望的な気持ちに陥ることもありました。周りの方々の忍耐強い支えを得られなければ、到底続けることができなかったと思います。
林先生から治療の経過についてのコメントを頂くことができて、本当にほっとしました。その後もカウンセリング(精神分析的心理療法)を続ける中、9回目のセッションで「ずっと寝 ている自分」が統合され、この20年間、「私たちはチームだ」と感じていた自己認識が、「私は、常に単一の私」という自己認識に落ち着きましたので、ご報告させてください。

「ずっと寝ている自分」は、最初5歳くらいの小さな女の子でしたが、フラッシュバックのたびに飛び起きて、自分が眠っていた間にほかの人格(主にスーパー○○)が身代わりになって いてくれた事実を知って、打ちのめされていました。
「こんな辛い体験をさせてごめんね、眠らせて守ってくれてありがとう」と涙を流して他の人格に謝ったり、お礼を言ったりしていました。
トラウマケアの一環で、それまで頭の中でごちゃごちゃに詰め込まれていた過去の記憶(バラバラと平面的に散らばっていた断片的なイメージ)をある程度時系列順に並べることができ、日常的に性被害に遭っていた数年間の自分を客観的に振り返ることができたときたとき、「あのときの私は、あまりにも悲惨だった。学校にも家にも居場所がなくて、家族も友達も先生も、周りには頼れる人が誰もいなかった。一般的な普通の高校生活のイメージとは、まるで違う。でも、これが、私の人生。私は、この人生を受け入れる」とキリッとした態度に変化してから、私自身と彼女との境界がかなり曖昧になりました。
そのときの彼女の年齢は、今の主人と出会った年齢に達していました。それまでは、「ずっと寝ている自分」は、子供のように純真で、弱く守るべき存在でしたが、「辛い過去もあったけど、今は、信頼でき自分を大切にしてくれる人たちに囲まれて、幸せだ。私は、今から、ここから、やり直す」と思う(あまりに境界線が曖昧で、彼女が言った言葉なのか、自分が思ったことなのか、ほとんど見分けがつかなくなっていました)ようになり、もう弱く守るべき存在ではなくなっていました。むしろ、私自身を導いてくれるような力強い存在へと変わっていきました。
「一旦、休んだほうがいいよ。眠りたいだけ眠って、食べたい物を食べて、思いつきで遊んだほうがいいよ」と提案してくれたり、「服を買おう、今ある気に入らない服を全部手放して、全部好きな服で揃えよう」と提案するようになりました。服に関しては詳細を省きますが、彼女の提案通り「自分で好きな服を選ぶ」ことに挑戦できてから、私は自分に自信を取り戻すことができるようになりました。
他の人格とは違い、私はもう少しだけ彼女のことを感じながら生きていきたいなと思うようになっていました。精神分析家の先生に相談しようと思って、セッションの前日に彼女のいる場所(そのときには、もう彼女の場所しかなくなっていましたが、頭の中にはそれぞれの人格がいる場所がありました。)に彼女に会いに行くと、もうすでに彼女が居なくなっていることに気がついて、心底驚きました。そこには、完全で暖かな静寂だけが残されていました。どうして居なくなってしまったのか、と最初は焦りましたが、手紙が残されているように、彼女が居なくなった理由が分かりました。
彼女は、私自信の感性や感情、私という人格の核にある価値観、直感の具体化した存在だったと思います。私が彼女を信じ、「(理由はわからないけど)服を買う」という直感に従って行動することができ、それがもたらすことの意味を洞察することもできたので、彼女は安心して居なくなったのだと思います。
彼女の境界線を感じられなくなったのは、寂しくもありますが、私が自分らしく生きることは、彼女と共に生きることと同義だと感じています。ほかの人格は、私自身に、「溶けた」「同化した」という形での統合でしたが、「ずっと寝ている自分」に関しては、私自身が彼女に「戻った」という感覚です。

この20年間、嵐の中にいるようでした。いま、私は本当に安定しています。それなりに、安定してそれなりに幸せを感じて生きてきたつもりでしたが、実際にはそれが「なんとか生き延びてきた」状態だったんだなと思います。安定するということが、こんな感覚だとは知りませんでした。まるで世界が違ってみえます。毎日が、生きてるだけで嬉しくて、幸せです。トラウマケアは、引き続き進める予定です。

1年前、最初に林先生から「解離性同一性障害」とご回答を頂いたとき、性被害についても解離の症状についても自分ごとだと捉えきれていませんでした。でも、あのご回答を頂いたからこそ、精神分析家の先生に会いに行くべきで、治療を開始するべきだと思え、いまの私の安定があります。あとから知ったのですが、私がお世話になっている先生は、精神分析に関する研究や教育の第一線を形作ってこられ、いまも精神科に入院されている重度の解離性同一性障害の患者さんの臨床にも当たっておられる先生だそうです。「解離性同一性障害」の診断の難しさや良い治療者に出会える幸運についても、後から知りました。改めて、感謝の気持ちは尽きません。本当にありがとうございました。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。解離性同一性障害の治療目標である人格の統合が成功する過程を、このようにご本人から語っていただきそれが公開可能になることは稀なことであり、読者の方々にとっても非常に貴重な情報になっていると思います。
(人格の統合が常に解離性同一性障害の治療目標であると限りませんが、この【4284】のケースのように統合されるのは一つの理想的な形であると言えます)
優れた治療者に出逢うことができて本当によかったと思います。
質問者のこれからの人生が安定し幸福であることを願っています。

(2021.4.5.)

05. 4月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 解離性障害 タグ: |