【4248】拒食症の友達が医師に事実を話さず、体重が減り続けている

Q: 私は40代女性です。友達30代主婦のことで相談させてください。
林先生のHPは10年以上前から知っていましたが、まさか相談する日がくるとは…
友達が拒食症になりました。
その友達は30代でバツ1。拒食症になったきっかけもわかっています。
再婚相手の旦那が、前の旦那との間にできた娘に性的虐待(手で握らせていた)のを、娘にうちあけられて離婚せず、家族(今の旦那との子供)でやり直す(手を出された娘は友達の実家へ) と決めて頑張って修復しようとしましたが、拒食症になり、入院してしまいました。元々、強迫性障害も持っているとのことで、そういう人は摂食障害にもなりやすいと、本人は自覚もあり病気の知識も私より豊富で、前回の入院も話を聞いてきましたが、何も出来ませんでした。3ヶ月ぐらいで退院してきましたが体重が25キロを切ってました。彼女曰く、今の精神科医が合わない、食生活で糖質を抜いていた生活を送っていたので、医者から処方されるドリンクを全部飲まなかったり、カロリー0のものでお腹膨らませたり。コロナを理由に毎週の検診も、母親に薬取りに行ってもらったり(睡眠薬とソラナックス)していて、先週やっと検診に行ったら、体重が22キロになって脂肪肝になっていて、これ以上体重が減るようやったら、入院と言われたそうです。前回の入院の時、力になれなかったので、「食べない心と吐く心」という摂食障害を克服した人の本を読みました。彼女に、今の精神科医に全てを吐き出されへんのか?、まずそこからと何度も説明しました。拒食症になる間、心療内科、カウンセリングにも通ったけど、事実(娘への性的虐待がきっかけ)を伏せての診察やカウンセリングなので、当然良くなりません。入院しても、まだやり直せると思っています(しょっちゅう喧嘩して、こないだトイレも行けない紙オムツ状態で、旦那が出ていったとか、平手打ちされたとか、) やり直せるとは、とても思えません。
林先生に、相談です。
今のままで、彼女の拒食症は治りますか?
事実を伏せて、診察受けても精神科医は正しい判断できますか?
回答よろしくお願いします。

 

林:
今のままで、彼女の拒食症は治りますか?

今のままで」という表現は多義的ですので、この質問にお答えすることは不可能です。つまり、何をもって「今のままで」と質問者がおっしゃっているのか不明だからです。

事実を伏せて、診察受けても精神科医は正しい判断できますか?

このご質問に対する回答は 「できません」 および 「できます」 の両方ということになるでしょう。

まず 「できません」について。
精神科の診断に限らず、判断というものは事実に基づいて行うものですから、事実が伏せられているときに正しい判断ができるはずがありません。

次に 「できます」について。
精神科を受診された本人が事実を伏せていることはごく普通にあることです。すると上記の通り「できません」が常に正しいということになりますが、現実の精神科の臨床では、本人が事実の一部しか語っていない、または、事実は全く異なることを語っているという可能性を前提として診察が進行することはよくあります。
このとき、「事実の一部しか語っていない」「事実は全く異なることを語っている」のいずれについても、ある程度の定型的なパターンがある場合はしばしばあり、そういう場合には、本人の説明とは異なる事実があることをある程度までは想定して診断・治療が進められるのが常です。

そして、拒食症においては、これについて、かなり一定のパターンがあります。それは、「食べていないのに食べていると語る」、「体重を増やすために指示された内容を拒否しているのに拒否していないふりをする」、「体重について事実と異なる申告をする」、などです。
この【4248】のケースにおける以下の言動も、拒食症に非常によく見られる典型的なもので、主治医がこれに気づいていないはずはありません。

医者から処方されるドリンクを全部飲まなかったり、カロリー0のものでお腹膨らませたり。コロナを理由に毎週の検診も、母親に薬取りに行ってもらったり(睡眠薬とソラナックス)していて、

また、

今の精神科医が合わない、

このように理由をつけて治療を拒否するのもまた典型的です。
(体重を増やす方向への治療を拒否するのが本人の真の目的で、それを主治医の問題に転化するというものです)

したがってこの【4248】のケースでは、本人がどんな説明をしようと、主治医はその説明の多くが嘘であることはわかっているはずです。さらに拒食症の場合は、体重という客観的な指標がありますから、本人が嘘の説明をしていることは明白になります。(それについても拒食症では、測定時に服の下に物を隠し入れるなどしてあたかも体重が減っていないように見せることもしばしばあります)

したがって、

事実を伏せて、診察受けても精神科医は正しい判断できますか?

このご質問への答えは、一般論としては「できます」「できません」の両方ということになりますが、この【4248】についていえば、「できます」の方に大きく傾きます。
ただしそれは食行動と体重についてであって、そもそも拒食症になった背景等については、より正確な情報が必要であることは言うまでもありません。

もっとも、今はそういうことを考える時期ではありません。

体重が22キロになって脂肪肝になっていて、これ以上体重が減るようやったら、入院と言われたそうです。

身長についての記載がありませんので22キロという体重がこの方にとってどれほどであるか厳密には何とも言えませんが、平均的な身長か多少は小柄な方であったとしても、22キロというのはかなり危険な状況です。危険 というのは、生命にかかわるという意味です。「これ以上体重が減るようやったら、入院」ではなく、今すぐ入院すべき状態と判断すべきでしょう。
この点に限って言えば、

今のままで、彼女の拒食症は治りますか?

入院しなければ命を落とすおそれがあります。「今のまま」では、治るどころか、死亡の可能性が切迫していると考えなければいけない状況です。

(2021.3.5.)

05. 3月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 拒食症, 精神科Q&A