プラセボ効果を超えて ・・・ 抗うつ薬の効果
何人かうつ病の患者さんを治療してみれば、抗うつ薬がとてもよく効く薬であることはすぐわかります。しかし、よく効くという印象だけで治療法を選択すると、思わぬ落し穴に陥りやすいものです。
表題のプラセボとは、偽薬、ニセの薬のことです。たとえ実体は砂糖のかたまりでも、よく効く薬だといわれて飲めば効いてしまうこともあります。これをプラセボ効果といいます。ただの水などを薬と偽って売る悪徳商法があとを絶たないことの原因のひとつはこのプラセボ効果にあります。信じれば何でも効いてしまうことがあるのです。したがってプラセボ効果は、患者さんの医者に対する信頼が厚いほど強くでてきます。これは医者に後光が差しているようだという意味で後光効果ということもあります。(ただし逆光が差すこともあるので注意が必要です。)
プラセボ効果は患者さんの側だけではなく、処方せんを書く医者の側にも影響します。自分の出した薬は効くと思っていると、効いているように見えてしまうのです。だから、印象や直感だけで治療法を選ぶと落し穴に陥ります。
こういうことがあるので、薬が本当に効くかどうかを確かめるには、本当の薬とプラセボの効果を比べてみなければなりません。しかもこの時、患者さんだけでなく医者の方も、その薬が本物かプラセボかわからないことが必要です。医者・患者の両方が目かくしをして薬の効きを判断するようだということから、これをダブルブラインド・スタディといいます。
新薬が開発されると、ダブルブラインド・スタディを行ってその薬の効果が確認されます。抗うつ薬は1960年頃から、ヨーロッパやアメリカを中心にこの研究が盛んに行われてきました。
たとえば1963年にイギリスで発表された研究では、イミプラミン (代表的な抗うつ薬) を2週間のみ続けると、うつの症状ははっきりと改善がみられることが示されています。
イミプラミンを2週間のんだ時
プラセボは明らかにイミプラミンより効果がありませんでした。
プラセボを2週間のんだ時
このスタディでは、最終的には全員が6週間イミプラミンで治療を受けるのですが、この結果は下のグラフのように9割以上の人がよくなっています。
このような抗うつ薬のダブルブラインド・スタディはこれまでに200以上行われ、「うつ病は治る」ことが実証されています。
プラセボ効果は何も薬だけに現われるものではありません。◯Xセラピーでもまじないでも、効くと信じれば効いたように見えるものです。患者さんがプラセボ効果で治ることは別に悪いことではないかもしれませんが、医者がプラセボ効果と真の効果を混同してはシャレにもなりません。
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