【4057】幻聴以外はいたって普通の母は統合失調症でしょうか
Q: 現在60代前半の母のことです。私は30代の娘です。母は10年ほど前、「台所にある換気扇の音に、かすかに人の声が混ざっている」と言い始め、しだいに、それが子供の声で、助けて助けてと言っている。と主張し、しきりに気にするようになりました。
父や私にもしばしばその音を聞くように頼んできましたが、私たちにはまったく聞こえません。母はICレコーダーで一日に何十件も録音をしてみたり、どこかで児童虐待が起きていると思い、家に警察を呼んだりもしました。
それが3か月ぐらい続いたころ、「換気扇の声が挑発するように私の名前を呼んできてる、こいつが子供を閉じ込めていると思う」「私が話すと静かになる。こっちの声が聞こえてるかも」などの主張がエスカレートしたところで、父が精神科に連れて行きました。そこでは、診断名はつきませんでしたが、リスパダールを処方されました。
ここまで書いていませんでしたが、母は「声」に関すること以外はいたって普通で、さほど不眠でもなく、家事もまめに行い、テレビや外出など普通に楽しんでいました。これが薬で治るなら私の幻聴ってことだよね、と笑いながら、2、3か月ほど薬を継続服用していました。
結果として、声が消えることはなく、でもかなり弱く小さくなったという話を主治医の先生にしたそうです。そこで、先生から「もう薬飲まなくていいんじゃないですか?あんまり気にしないで過ごしたほうがいい」と言われたそうです。本人も私たちも、気持ちの問題なのか?と釈然としない気持ちでしたが、先生は薬の副作用の方がデメリットだと思われたのかもしれません。ともかく、そこで通院は終了したと記憶しています。
長くなりすみません。それから7年ぐらいして、家の引っ越しをしました。
すると、引っ越した先の家でも同様の訴えをするようになりました。自分の耳が正しいという根拠(上の階に怪しい人が住んでるとか)を探しているように見えました。ただ、最初の時ほど熱心に(?)毎日気にしてはいないようで、やっぱり病気なのかな、と軽く不安を口にしていました。
さらに3年ほど過ぎて現在、私も実家を出たので「声」についての現状はわかりませんが、電話で両親と話していても話題にものぼらす、いたって元気そうな様子ではあります。
上記からご質問したいことは、2点です。
1.母の幻聴(と言い切ってしまいますが)は統合失調症の可能性が高いでしょうか。
2.現在も同様の症状が(わずかでも)ある場合、または今はなくなっている場合、それぞれの場合で通院などのアクションは必要だと思われますか?
お忙しいところ目を通していただきまして、ありがとうございました。
林: 確実に言えるのは、お母様には、「統合失調症の幻聴発生と同様のメカニズムの変調が脳内にある」ということです。私はこれを統合失調症と呼びます。診断基準的には統合失調症とはいえないかもしれませんが、脳内の生物学的な事象を重視して、またそこには抗精神病薬が有効であるという現実を重視して、統合失調症と呼ぶのが適切です。統合失調症「圏内」と呼ぶという立場もあり得るでしょう。
1.母の幻聴(と言い切ってしまいますが)は統合失調症の可能性が高いでしょうか。
はい、統合失調症の可能性が高いです。
2.現在も同様の症状が(わずかでも)ある場合、または今はなくなっている場合、それぞれの場合で通院などのアクションは必要だと思われますか?
(1) 現在も同様の症状が(わずかでも)ある場合
通院が必須です。薬を飲む必要があるかどうかは、症状の程度によります。たとえ薬を飲む必要がないレベルでも、今後悪化するおそれがありますので、通院は必要です。
(2) 今はなくなっている場合
通院することが望ましいです。理由は、今後再発するおそれがあるからです。
但し、仮に再発したとき、ご家族がすぐにそれに気づき、通院再開が可能な状況であれば、無症状の時期に通院を続けることは必ずしも必要ありません。
関連して【4046】統合失調症の因子を持っている人は、一生統合失調症なのではないでしょうか もご参照ください。
(2020.6.5.)