【3964】パーキンソン病の親戚の不可解な症状
Q: 15年位前からパーキンソン病を患っている遠縁の70歳の女性に、近頃症状の悪化が見られるようになってきたとの事で話を聞いてみると、パーキンソン病に見られやすい症状以外に不可解な事があったため質問させて頂きました。
最近見られるようになった以上は以下の通りになります。
1、見知らぬ女性が夫の車に出入りする、あるいは自身の寝室にいる、猫が数匹香箱座りしている等の幻視が頻繁に見える。
2、夫が浮気をしているのではないかと疑う。孫からの電話の声も知らない女性であると怒る。
3、物忘れや言語想起、構成力などの能力低下が起きている。
4、夫に対して非常に易怒的である。夫の性格が度を過ぎたおせっかいでは有るが、今までは怒ったりすることはなかった。
5、骨折での入院中に巡回中の看護師に対して不意の暴力が見られ数回棒でたたきすえた。
6、私に毒を飲ませようとしていると怒り、服薬を拒否する。
7、不意に眠ったように横になってしまい、大声で呼びかけてもホウを叩いても反応がなく救急搬送され、5時間後に搬送先で痛み刺激に対し不意に反応が出始めた。その後も意識を消失することが多く見られるようになった。
5番が発生したときは、その入院中に精神科の受診を行ったとのことですが、幻視に対して話しかけないようにとの注意で終わったようです。
特に4番以降の症状が出ていることから正式に精神科の受診をしてみてはどうかとアドバイスをしたのですが、パーキンソン病の投薬の調整目的で入院となり、現在入院前よりも症状が悪くなった状態で退院となったようです。
旦那さんとの二人暮らしでも有ることですし、夫に対して暴力が向かないように、精神疾患の有無を診察してもらった上で可能なら服薬治療すべきかと思うのですが、遠縁ということもありいまいち強く説得することができずにおります。情報など足りないかもしれませんが、このままパーキンソン病の治療のみを続けていてもよいのでしょうか。あるいはこのような場合周囲の人間を含めて行動すべきなのでしょうか。
林: この70歳の女性は、レビー小体病(LBD: Lewy Body Disease)でしょう。「レビー小体」とは脳内に見られる病的な物質で、この物質が出現する病気を総称してLBDと呼びます。この【3964】のケースはその中の「認知症を伴うパーキンソン病 (PDD: Parkinson’s disease with dementia」に分類される経過です。
レビー小体が出現する認知症の一つの特徴は、かなり生き生きした幻視が見られることです。
見知らぬ女性が夫の車に出入りする、あるいは自身の寝室にいる、猫が数匹香箱座りしている等の幻視が頻繁に見える。
これはレビー小体が出現する幻視として典型的なパータンに一致しています。
さらにこの【3964】のケースでは、他にも幻覚や妄想が認められること、認知機能障害が認められること、そしてパーキンソン症状があることから、レビー小体病(レビー小体型認知症)にほぼ間違いないと言えます。
このままパーキンソン病の治療のみを続けていてもよいのでしょうか。
このままでは幻覚や妄想はどんどん悪化していくでしょう。パーキンソン病とは別の薬物療法が必要です。
ただしLBDでは、向精神薬の副作用が非常に出やすいという性質もあり、薬物の調整はなかなか容易ではありません。
したがって、
精神疾患の有無を診察してもらった上で可能なら服薬治療すべき
その通りなのですが、服薬治療は慎重に進める必要があります。
入院中に精神科の受診を行ったとのことですが、幻視に対して話しかけないようにとの注意で終わったようです。
これだけの情報では何とも言えませんが、あるいはこの医師は、この【3964】のケースをLBDと診断したうえで、副作用のことを考えて投薬しなかったのかもしれません。しかし、薬物療法は常に効果と副作用のバランスに基づいて決定するものですから、幻覚や妄想や問題行動が非常に強く、日常生活に支障が大きいレベルであれば、「副作用に注意しつつ慎重に投薬する」というのが正しい治療ということになります。したがって、まずは医師に、現在の症状を正しく伝え、少量の薬から薬物療法を開始することがこのケースでは適切だと思います。
(2020.1.5.)