【3895】嘘を繰り返してきた18歳の娘が、親から虐待を受け続けていると弁護士に訴えた

Q: 私は40代男性です。以前から貴サイトを拝読させていただいております。娘(現在18歳)の行動に腑に落ちない点がいくつもあり、そのたびに一つの参考になるかと拝読しておりました。
ところが、先日、弁護士を名乗る人から連絡があり(正確には娘がわたしに示した名刺から連絡をしたらその返信があったのですが)、理由は言えないが娘さんは家を出たいと考えているといわれました。実際にはその際すでに娘は家を出ています。18歳になったばかりのことであり、しかし18歳になっているのだから原則として娘の意思を尊重したいとは思います。それでも、過去の経緯から、少なくとも娘が精神的な意味で本当に問題がないのか、気になっております。
娘は中学3年の時に妻(娘の母・50代前半)から虐待を受けたと主張し児童養護施設に半年ほど行っていました。はじめはまさかと思いつつ、しかし振り返ってみてもそのような事実は見いだせず、困惑したまま、その後一時期帰宅となっていたのです。
そのときのことをもう少し詳しく説明しますと、一定程度保護施設等に容認されたのは、自傷および娘の友人に頼んで傷をつけさせ、その傷は妻(母親)につけられたと何度も主張したからです。中学1年生のときに骨折しているのですが、それも後からの本人との会話から推測するに、授業を受けたくなくてわざと飛び降りた結果であるようです。
さらに、児童保護施設入所前に、自殺をほのめかし通っていた中学校で屋上まで行き飛び降りると言い張ったこともあります(結局教師の説得でやめています)。
自傷については、自傷していることを指摘すると、「していない」と大声で叫ぶのですが、自傷しているのは妻(母親)のせいだ、とも主張します。妻に対しては、虐待したことを覚えているか、お前のせいだということを繰り返し主張するのですが、児童保護施設の職員の方の助言は、そのような主張を否定しないようにとのことでした。そのため、そうだね、ごめんね、という対応をしていました。しかし、結局いくら表面上変化したように見えても、また家族と一緒に買い物に行ったり仲良く食事をしたとしても、本人に対して向けられたプラスのことについてはひたすらに一定の期間が立つと否定することを繰り返していました。
それから1年強過ぎ、高校2年になったばかりのころ、高校で起こした暴力沙汰を直接の原因として退学し、いわゆる大検を受け、大学受験のため予備校に通っていました。通い始めて半年ほどたった時点で上記のような事情で娘が家を出ています。

このような事情からなにか精神的な疾患があるのではないかと懸念していたところ、冒頭にお書きしたように突然弁護士と名乗る人物から連絡があり、娘は家を出て行ったのです。これも振り返ってみますと、家を出る1か月ほど前から、家族で仲良く食事をしていても、写真を撮ることをかたくなに拒否するようになり、きわめて計画的に「親と仲が悪い」という自分を意図的に演出していたとも考えられたのです。
娘は再婚相手の子であり、その点で普通の意味での夫婦の子という感覚を娘が持っていない、不満があることはあり得るとは思うのですが、あまりにも度々虚言をいうため、私どもとして困惑しかないのです。
娘の虚言について、私の記憶にある最も古い事件は、日本の保育園で、娘さんが度々嘘をついていますとの連絡があったことでした。
次は、海外に2年滞在していた時点で、学校帰りに黒人男性に腕をつかまれた、という主張でした。当時の担任からは妻に対してはっきり、娘さんはliar(嘘つき)だとのメッセージを受け取っています。
小学校でもたびたび、物を取られただの相手もいないのに遊んでいただの繰り返し嘘をついていました。
ことに問題だと思われるのは、先に示したように虐待を受けたという主張であり、よりにもよって私も妻も同じ部屋にいた日時時間をわざわざあげ、包丁を投げられただの殴られただの主張したことです。
また当時住んでいた場所の近隣にあったスーパーで公衆の面前で殴られたと繰り返し主張していました。そして近所の警官にまで訴えたのですが、あっさり嘘であると退けられています。
ほぼすべての行為が妻のことを刑務所に入れたいという願望から発している嘘であり(実は一度だけはっきりと父である私に対してそのように言っています)、しかも実は妻に対しても一度嘘であるけどやったと認めろと迫っています。
あまりに意味不明な行動が多いため、3度ほど精神科医に診察の予約を本人了解の上取っていますが、毎回その直前で診察を拒否しています。

最終的に、本質問の最初に示した弁護士に対しては、両親に対して話したこととは全く別のことを話しているようでした。16年間虐待を受けたという主張もしていたようですが(家を出る直前に妻に対してそう述べています)、実際には家を出た後弁護士に連絡を取ると、そのような主張も、精神科医にかかるかどうかについても全く言っていないようなのです。

正直に申しまして、性格の不一致的な意味で妻や本人の姉(20代前半)との関係性について確かに良好とはいいがたい点もないわけではありませんが、問題なのは、どんなに本人の意思を確認して本人の意思に沿うように行動しても、後からなんども身に覚えのない遥か過去のことで傷ついたのだ、と繰り返し主張するので、理解が追い付かないのです。
このように、虚言を繰り返し家からの遁走を繰り返すというのは、俗には「幸せになることを拒否する性格なのだ」などと説明する向きもあるようですが、精神疾患として説明がつくようなことなのでしょうか。それともこのような虚言を繰り返すというのは、精神疾患とまでは言えず、性格の問題なのでしょうか。

 

林: 虚言を繰り返すのは病気か性格か。最後に書かれているこの一文が、この【3895】のご質問のテーマであると読み取ることができます。それは私が2014年に書いた『虚言癖、嘘つきは病気か』 のテーマでもあります。(現在この本は、Amazon Unlimitedで無料で読むことができます)。回答はやや長くなりますが、あらかじめお伝えしなければならないことは、「答えはない」ということです。つまり、時間をかけてここからの回答をお読みいただいても、どこにもたどり着かないということです。ですので、答えを求めてお読みになりますと、最後に失望されて時間の無駄だったということになりますので、お読みにならないことをお勧めします。

『虚言癖、嘘つきは病気か』 では、数々の虚言のケースの中から、「虚言キーワード」を抽出しています。そのキーワードに照らして、この【3895】のケースを見ていくことにします。

◎ たくさんの嘘をつく
◎ 普通では考えられないような嘘をつく

この二つは、病的な虚言のすべてに共通する特徴で、言い換えれば、虚言を病的とみなすための必要条件にあたります。【3895】は明らかにあてはまります。

以下、◯の項目は、病的な虚言者の一人ひとりのケースについてみると、あてはまる場合もあてはまらない場合もある特徴です。私が『虚言癖、嘘つきは病気か』を書いた時点では、将来的に病的な虚言者を分類するための基礎データとなることを目指したキーワードという位置づけであると意識していました。以下、それぞれが【3895】にあてはまるかどうかを見ていきます。

◯ かなり細かい話を作り上げる
細部まで具体的な作り話をされると、周囲の人はそれが嘘であるとは思いにくいものです。刑事裁判においても、供述が細部まで具体的であると、裁判官はそれが真実であると判断しがちです。判決文にも、供述が信用できると判断した理由として、「具体的・詳細・一貫している」 ということがしばしば書かれています。ということは、もし嘘によって人を騙そうとするのであれば、その嘘は「具体的・詳細・一貫している」が必要ということになります。

このケースの虚言がどこまで具体的であったかはメールには明記されていませんが、たとえば、

中学3年の時に妻(娘の母・50代前半)から虐待を受けたと主張し児童養護施設に半年ほど行っていました。

という事実からは、かなり具体的に作り話がなされたと推定することができます。逆に具体性のない訴えだけであったら、児童擁護施設があっさりと騙されるとは考えにくいからです。

また、

先に示したように虐待を受けたという主張であり、よりにもよって私も妻も同じ部屋にいた日時時間をわざわざあげ、包丁を投げられただの殴られただの主張したことです。

この嘘も、かなり細部にわたる作り話にあたると言えるでしょう。

◯ ありとあらゆる事で嘘を繰り返す

このメールのポイントは、家族についての嘘、特に母親についての嘘であるようですので、「ありとあらゆる事」にはあてはまらないようです。けれども、

日本の保育園で、娘さんが度々嘘をついていますとの連絡があった

ことからすると、嘘は家族との関係に限ったことではないように読めます。
また、

海外に2年滞在していた時点で、学校帰りに黒人男性に腕をつかまれた、という主張でした。当時の担任からは妻に対してはっきり、娘さんはliar(嘘つき)だとのメッセージを受け取っています。
 小学校でもたびたび、物を取られただの相手もいないのに遊んでいただの繰り返し嘘をついていました。

この記載からは、嘘はありとあらゆる事といえるほど多岐にわたっていたとも解釈できます。

◯ 外見は嘘つきに見えない

子どもの場合、この項目についての判定は何とも言えません。子どもが、自分が困っている・ひどい目にあっているなどと強く訴えれば、それが嘘つきの訴えであると見る人はあまりいないからです。

◯ 巧みな舞台設定

振り返ってみますと、家を出る1か月ほど前から、家族で仲良く食事をしていても、写真を撮ることをかたくなに拒否するようになり、きわめて計画的に「親と仲が悪い」という自分を意図的に演出していたとも考えられたのです。

嘘を人に信じさせための舞台設定をしていたとみることができます。

◯ 検証困難性

嘘を繰り返してもばれず、また、非難されないためには、それが嘘であることが検証できない、また、検証しにくいことが必要です。このケースの嘘はおそらく多岐にわたっており、それらは検証困難なものであったか否かは不明ですが、少なくも「虐待された」という嘘は、一般的には非常に検証困難なものです。

◯ 虚言の瞬間は無自覚

これについては不明です。しかし、

ほぼすべての行為が妻のことを刑務所に入れたいという願望から発している嘘であり(実は一度だけはっきりと父である私に対してそのように言っています)

という事実からは、少なくともその嘘については自覚はあったと判断できます。

◯ 自己顕示

不明です。

◯ 自我肥大

不明です。

◯ 対人操作性

明らかに認められます。

ほぼすべての行為が妻のことを刑務所に入れたいという願望から発している嘘であり

その目的の達成に向けて、周囲の人々を振り回しています。

◯ 自己中心的性格

不明です。
もっとも、目的のために嘘を繰り返すということ自体が、自己中心的性格の表れであるという解釈も可能です。

◯ 我こそは被害者なり

虚言者は、自分は被害者であることを強調することがしばしばあります。このケースは親からの虐待を頻繁に訴えており、まさに「我こそは被害者なり」にあたります。

◯ 未熟

子どもの場合、これについての判定は困難です。

◯ 虚実の混乱

虚言者は、自分の言っていることが嘘か真実かわからなくなることがあります。あるいは、少なくとも、わかりなくなっているとしか思えないことがあります。このケースはこれにあてはまると考える根拠はありませんが、不明です。

◯ 湧き出るストーリー

虚言者の中には、決して熟考などしなくても、泉のように巧妙な嘘が湧き出てくるケースがあります。このケースがそれにあたるかどうかは不明です。

◯ メリット欠如 — 虚言のための虚言

これは、嘘が病的なものと言えるか否かの判定上は重要です。すなわち、自分のメリットになるための嘘は、ある程度までなら誰でもつくものですから、その種の嘘が多いケースは、正常からの延長にすぎないと解釈することが可能です。それに対し、病的な虚言者の中には、嘘をついても本人にとって何のメリットにもならないような嘘を繰り返すケースがあり、そうなるとそれは「虚言のための虚言」であって、明らかに異常・病的と言わざるを得ません。

この【3895】のケースは、

ほぼすべての行為が妻のことを刑務所に入れたいという願望から発している嘘であり

とのことですので、それなりの目的がある嘘ということになり、「虚言のための虚言」とはみなせません。 (だから正常範囲ということではありません。「虚言のための虚言」に比べれば、異常性は低い、あるいは、異常といってもその質が違うということです)
但し、ご家族とは関係のない嘘も多数ついているとのこと、その具体的内容が不明ですので、あるいはその中には「虚言のための虚言」があるのかもしれません。

◯ 懲りない

これは、嘘の結果として自分が相当なダメージを受けても懲りないという意味ですが、このケースは相当なダメージを受けるようなことがあったかどうかが不明ですので、あてはまるか否か不明です。

◯ 増幅促進 (外的要因による)

嘘であることを本人につきつけ、罰するという環境がなければ、虚言の増幅は促進されます。いわゆる「図に乗る」「味をしめる」という事態が発生します。
その意味で、

妻に対しては、虐待したことを覚えているか、お前のせいだということを繰り返し主張するのですが、児童保護施設の職員の方の助言は、そのような主張を否定しないようにとのことでした。そのため、そうだね、ごめんね、という対応をしていました。

これは虚言を増幅させる対応であったと言えます。
(だから不適切な対応であったと言えるかどうかは別の話です。虚言だけに関していえば、増幅させる対応であったとは言えます)

◯ 増幅促進 (内的要因による)

虚言の増幅促進には、内的要因もあります。それはひとことで言うと「嘘の才能がある」ということです。下手な嘘であればすぐばれ、痛い目にあうので、それによって虚言の増幅は抑制されますが、嘘の才能があって巧妙な嘘が多ければ、嘘であることがばれずに本人にとってメリットが大きいため、虚言は増幅されます。
この【3895】について、そのような要因があったかどうかは具体的には不明ですが、幼少の頃から嘘が多く、現在まで本人が大きなデメリットを被ることなく嘘が続いているということは、少なくもある程度の才能はあったとみるのが妥当でしょう。

◯ 攻撃性

母に対する攻撃性が基底にある嘘が多いと判定できます。

◯ 撤回拒否

自傷していることを指摘すると、「していない」と大声で叫ぶ

幼稚かつ露骨な撤回拒否です。

◯ 部分承認

ほぼすべての行為が妻のことを刑務所に入れたいという願望から発している嘘であり(実は一度だけはっきりと父である私に対してそのように言っています)

一度だけはっきりと。このように、嘘を自覚していることが、何かの機会にわかることがあるものです。(但しだからと言って、すべての嘘についてそれが嘘だと自覚しているかどうかはわかりません)

◯ 自己正当化

自傷していることを指摘すると、「していない」と大声で叫ぶ

幼稚かつ露骨な自己正当化です。

◯ 独特の倫理道徳観

「嘘はいけない」という倫理道徳観を持っていないように見えるケースが、病的な虚言者の中には多々見られます。この【3895】のケースに関しては不明です。(これだけたくさんの嘘をつくからには、嘘はいけないとは思っていないに違いない、という推定も成り立たないことはありませんが、実際には、自分がどうしても嘘を繰り返してしまうことを強く悩んでいるタイプも存在しますので、【3895】についても、本人からの主観的な吐露がない限りは「不明」と言わざるを得ません)

◯ 生活必需品

嘘をつき続けることで、生活自体を成り立たせているケースがあります。(たとえば『虚言癖、嘘つきは病気か』 でも取り上げた音楽家。彼は虚言によって「現代のベートーベン」という地位を獲得し、生活を維持していました。)
この【3985】のケースは、まだ子どもであり、生活していくうえでどうして嘘が必要という状況ではありません。しかしこのままでいくと、成人してから、嘘を「生活必需品」として生きていく人物になるかもしれません。

◯ 先天性?

娘の虚言について、私の記憶にある最も古い事件は、日本の保育園で、娘さんが度々嘘をついていますとの連絡があったことでした。

先天性であることを推定させる事実です。

◯ 後天性?

育った環境が虚言の遠因になっていると思われるケースもありますが、この【3895】はそれにはあたらないようです。

◯ 自己改善努力

認められません。

◯ 甚大な被害

ご両親は甚大な被害を受けておられます。巻き込まれた児童相談所等も、被害を受けていると言えるでしょう。

◯ 犯罪性

今のところは刑事事件にはなっていませんが、これまでの虐待についての嘘は、両親に対する酷い中傷であり、もしこれが他人に対するものなら、犯罪とみなされるレベルです。このまま成人になり同じパターンの嘘を繰り返せば、犯罪ということになるでしょう。

以上、虚言キーワードに照らしてこの【3895】のケースを分析してみました。いや、これはとても分析という名には値せず、単に照合しただけと言うべきものにすぎません。そしてこれは、虚言についての現代の精神医学の限界であり、「虚言は精神医学の死角にある」というのが現状です。

精神疾患として説明がつくようなことなのでしょうか。それともこのような虚言を繰り返すというのは、精神疾患とまでは言えず、性格の問題なのでしょうか。

これが【3895】の質問のポイントであり、ここまでの分析(というより照合)からは、これに対する答えは明示できません。この回答の冒頭にお書きしたとおり、どこにもたどり着いていないではないかと言われればまさにその通りです。

上記、ご質問のポイント部分(嘘つきは病気か性格か)に対しては、『虚言癖、嘘つきは病気か』 のあとがきからの引用を回答に替えさせていただきたいと思います:

嘘の脳科学は急速に進んでいる。米国では嘘を見抜く脳検査がすでに商業化されている。近い将来には、病的な虚言の脳所見が解明されるかもしれない。
病気とは何か。精神の病気とは何か。心の病気とは何か。曖昧だ。ではもし脳に所見があれば、それは病気ということになるのか。脳の検査手法が進歩すれば、うつでも、不安でも、妄想でも、性格でも、盗癖でも、放火癖でも、そして虚言癖でも、それぞれに対応する脳所見が見出されるであろう。すると病気か病気でないかは、一体なにをもって定義するのか。私たちは何を非難し、何を擁護すればいいのか。
精神の病とは何か。虚言はこの問いの難しさを正面から人につきつける現象である。

(2019.10.5.)

05. 10月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 虐待, 虚言 タグ: , |