【3551】文章がまるで機械翻訳されたようなちぐはぐな言葉に感じられるなどの妙な体験をしました。一言で言うと「現実感の無さ」です。‏

Q: 私は10代の女です。私がかつて経験した妙な感覚は一体何だったのか、ご教示の程をお願いしたくメールを差し上げる次第です。

中3の始めごろから徐々に、朝起きづらい、立ちくらみ、目眩、動悸、頭痛などの症状が出始めました。朝なかなか起きられず、通学にやや時間がかかるのも相まって、少しずつ遅刻や欠席が増えていきました。学校で何か問題があったわけではなく、むしろ学校が好きで、行きたいのに行けないのがつらかったです。
私は小1のころ尿検査で引っかかって以来、将来膠原病になる可能性があるということでA病院の小児科で定期的に尿検査と血液検査を受けていました。中3のときの検査の際に、先生に学校を休みがちであることと身体の症状を伝えたところ、起立性調節障害だと言われ昇圧剤を処方されました。これが中3の秋のことです。こちらの先生から一旦入院して病院から学校へ通ってみてはという提案もされたのですが、金銭的な理由と、そこまで重症ではないだろうという思いから断ってしまいました。それから薬を飲みつつそれなりに登校出来ていました。

高校へ進学してからは薬は飲んでいませんでした。するとまた段々と学校へ通えなくなっていきました。そして今度は地元のB病院の小児科で、起立試験(横になって安静にしたときと起立したときの血圧と心拍数を比較するもの)を経て再び起立性調節障害と診断され昇圧剤を処方されました。これが高1の秋です。しかし再び学校へ通えるようにはならず、欠席が続きました。冬の始めごろから寝付きがかなり悪くなり、昇圧剤に加えて睡眠導入剤(マイスリー5mg/就寝前)が処方されました。多少寝付きやすくはなりましたが、欠席が続くのは相変わらずでした。

それと、この時期に妙な体験をしました。平衡感覚がおかしくなり、歩くと目が回り横になると空間が歪んでいるような感覚に襲われたのと、文章が読めなくなったことです。前者はマイスリーの副作用の「ふらつき」に当たるのかな、と思いましたが、後者も副作用だったのでしょうか?具体的には文章を読んでも内容が頭に入らず、教科書や小説の文がまるで機械翻訳されたようなちぐはぐな言葉に感じられました。
地元の病院の先生からはマイスリーが残っちゃったのかな、と言われました。これ以降マイスリーは飲んでおらず、文章が読めないということはありません。
年が明けて少ししたころに、定期の尿検査の結果を聞くのも兼ねて最初に書いたA病院を再び受診しました。検査の方は大きな問題はなかったのですが、私がひどく落ち込んでいて元気が無かったためか、毎回検査をしてくださっている方とは別の臨床心理士の先生に診て頂くことになりました。病院、診療科は同じです。
最初の診察で私と母が別々にこの先生とお話したあと、私は一度統合失調症を疑われました。先生に直接言われたわけではなく、母から「あなたは統合失調症かもしれないらしいよ」と言われました。このことから私は統合失調症をはじめとする精神病について興味を持つようになり、林先生のサイトへ頻繁に訪れるようになりました。2度目の診察以降この疑いは晴れた(少なくとも薄まった)らしく、統合失調症の薬を処方されたことはありません。昇圧剤は何度か処方されましたが、現在は処方はありません。今でも月に一度、この先生からのカウンセリングを受けています。

2度目の診察から少ししたころ、祖父が亡くなりお通夜とお葬式に出席したのですが、このときに冒頭で述べた「妙な感覚」を経験しました。一言で言うと「現実感の無さ」です。何となく現実ではないようなふわふわした感覚があり、お通夜・お葬式の間はずっとぼーっとしていました。家族や親戚とほとんど喋らず、ただぼんやりと過ごしました。不眠気味で食欲もなく、頭の回転が鈍っていたような気がします。これは一体何だったので
しょうか?祖父が亡くなった現実を受け止められなかったために起きたものなのか、別の原因があったのか判断しかねています。この感覚は一度きりです。このときは昇圧剤のみ飲んでいました。
先に一度統合失調症を疑われたが今のところはその恐れはなさそうであるという旨を書きましたが、父方の家系がどうやら精神系の病気の方が多いらしく、5年前に一人自殺もしています。精神病であったらしいのですが症状や病名などは不詳です(母からは神経衰弱だと聞かされました)。となると、私の体験は統合失調症の前駆症状で、発症には至っていないという可能性もあるのでしょうか。
ちなみに高校の方は出席日数が足りないために進級できず、起立性調節障害の診断のもとに休学しています。そして顔に出た紅斑が1ヶ月以上消えないことと、原因不明の微熱、昔から膠原病の可能性で検査をしていること、性別と年齢などから、SLEの疑いありということで現在検査の結果待ちです。これは先生にはまだお話していないのですが、亡くなった祖父が皮膚筋炎を併発していたそうなのでとても不安です。

長くなってしまいましたが、一時的に文章が読めなくなったのと現実感の無さの正体は一体何だったのか、精神科医である林先生のお立場からの見解をお聞きしたいです。お忙しいとは思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

林:
一言で言うと「現実感の無さ」です。

「現実感の無さ」という体験は、離人と呼ばれる症状です。
但し、「現実感の無さ」は、様々な種類の病気で体験されることがあり、また、特に病気でなくても体験される場合もあります。したがって、単に「現実感の無さ」とだけいった場合、それに症状としての意味があるかどうかは判定不能です。

一方、この【3551】では、そのときの体験がかなり具体的に書かれていますので、ある程度の推測は可能です。その推測は、結論からいうと、「統合失調症の前駆症状の可能性あり」ということになります。

まず1回目の体験については、10代半ばという、統合失調症発症の可能性が高い時期の漠然とした不調から始まったこと(この不調の時期に医療機関を受診すると、様々な診断名が仮につけられるのが常です。【3551】の起立性調節障害もそんな診断名の一つです)、そして体験の具体的内容、すなわち、

歩くと目が回り横になると空間が歪んでいるような感覚に襲われたのと、文章が読めなくなったことです。前者はマイスリーの副作用の「ふらつき」に当たるのかな、と思いましたが、後者も副作用だったのでしょうか?具体的には文章を読んでも内容が頭に入らず、教科書や小説の文がまるで機械翻訳されたようなちぐはぐな言葉に感じられました。

この中で特に後者は、統合失調症の体験として矛盾がありません。前者については副作用の可能性もありますが、後者と同時期に見られたとすれば、やはり統合失調症関連の症状とみることができます。

そしてこの後まもなく受診したときに

最初の診察で私と母が別々にこの先生とお話したあと、私は一度統合失調症を疑われました。

とのことですので、上記の離人以外にも統合失調症を疑わせる症状があったことが窺われます。 (それがこのメールに書かれていないのは、質問者の自覚としてはそれはたいした症状ではなかったと思われます。本人としては症状とは思っていないものの中に、実は診断上重要な症状があるのは、統合失調症ではよくあることです)

その後、2回目の離人体験、すなわち、

祖父が亡くなりお通夜とお葬式に出席したのですが、このときに冒頭で述べた「妙な感覚」を経験しました。一言で言うと「現実感の無さ」です。何となく現実ではないようなふわふわした感覚があり、お通夜・お葬式の間はずっとぼーっとしていました。家族や親戚とほとんど喋らず、ただぼんやりと過ごしました。不眠気味で食欲もなく、頭の回転が鈍っていたような気がします。

この記載からは、病的か否かは判定できません。しかし経過と他の症状とあわせれば、これも統合失調症に関連する離人症状と考えることは不合理ではありません。

さらに、

父方の家系がどうやら精神系の病気の方が多いらしく、5年前に一人自殺もしています。精神病であったらしいのですが症状や病名などは不詳です(母からは神経衰弱だと聞かされました)。

このような遺伝歴は、質問者にこれまで見られた漠然とした症状が統合失調症の前駆症状であるという推定を強化するものです。

となると、私の体験は統合失調症の前駆症状で、発症には至っていないという可能性もあるのでしょうか。

その通りです。

問題はここからで、「統合失調症の前駆症状で、発症には至っていない」場合に、ではどうしたらよいかは現在のところ正解といえるものがありません。

そうした状況の中、

現在は処方はありません。今でも月に一度、この先生からのカウンセリングを受けています。

という質問者の今の状況は適切だと思います。すなわち、薬物療法の開始は控えて定期的なカウンセリングを続け、もし発症あるいはその強い兆しが認められたときは、直ちに薬を開始できるようにするというのは、以前も精神科Q&Aで述べた通り、この【3551】のようなケースでは最も推奨される方法であると私は思います。
(このケースでは、それに加えて膠原病の可能性についての精査という意味でも、通院継続に大きな意味があると言えるでしょう)

(2017.10.5.)

05. 10月 2017 by Hayashi
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