【3425】友人に明らかに幻覚妄想があるのですが、それだけで病気だと言えるのでしょうか

Q: 私は20代の女性です。
こころと脳の相談室、興味深く読ませていただいています。
特に精神科Q&Aは大変勉強になります。
また、林先生の率直な語り口により病気に関する偏見や不安が取り除かれたいへん感謝しております。

今回わたしが質問したいのは、幻聴・幻覚や妄想があるように見える知人(20代女性)についてです。

その知人は「自分は霊感が強い」と言い、よくオーラが見えるとか霊の声が聞こえるとか言います。
わたしは現実主義者なので、それらの話を全く信じていません。(特に否定も肯定もせず聞いています)
でも彼女が嘘をついているとも思えません。少なくとも彼女は見た・聞こえたと信じています。

しかし心霊やオーラを見たと主張する人は周りに結構な数いますし、そういったものを扱ったテレビ番組も流行っています。 (芸能人が当然のように「先祖の声が聞こえた」などと語っています)
となると、幻聴・幻覚・妄想といった現象はそう珍しくないということになります。
宗教や信条を「妄想」と言ってしまえばかなりの人を『異常』扱いすることになってしまいます。

病気とはいえない程度の幻聴・幻覚・妄想と、治療が必要な症状については、どうやって判断すればいいのでしょうか。
少し心霊話をされただけで「そんなはずはない。病院に行った方がいい」というのは相手を不快にさせる気がしますが、もし精神科を受診した方がいい状況の人がいたらなるべく早く勧めたいと考えています。

わたしがこころの病に対して敏感になっているのは、数年前亡くなった祖父が晩年うつ病にかかっていたのではないかと考えているためです。

仕事一筋の人で、定年で生きがいを失ったのがきっかけで家に引きこもるようになり、毎日「早く死にたい」と絶望した様子でボーっと座っているだけになってしまいました。

気丈でプライドの高かった祖父が人が変わったように惨めな姿になり、朝は「また今日も何もやることがないのに生きなければならない」、寝る前は「このまま目覚めなければいいのに」という状態が続き、こちらも辛かったです。

数年後に脳卒中で突然亡くなったのですが、今振り返ってみると確実にうつ状態でした。

あの時、誰かが気づいて早く精神科を受診させれば もっと安らかな最期を迎えさせてあげられたのに、と今でも悔やんでいます。 その経験で、こころの病に関しては「何より早く適切な治療を受けさせることが重要」という考え方になっています。

今のところ知人は大きな問題を起こしていないため本人が良ければいいのかとも思いますが、
「○○先生には人類の未来が見えている」と高額な占いに嬉々として通っているのを見ていると心配です。

程度問題になってしまうのかもしれませんが、そういった人たちへの接し方、危険な兆候の見分け方について、先生の考えをお聞かせ願えないでしょうか。

 

林:
しかし心霊やオーラを見たと主張する人は周りに結構な数いますし、そういったものを扱ったテレビ番組も流行っています。 (芸能人が当然のように「先祖の声が聞こえた」などと語っています)
となると、幻聴・幻覚・妄想といった現象はそう珍しくないということになります。

その判断は間違っています。「心霊やオーラを見たと主張する人は周りに結構な数います」という事実から言えるのは、そのように「主張する人」が結構いるということであって、その人たちが本当にそういう経験をしたかどうかについては何も言えません。また、「芸能人が当然のように「先祖の声が聞こえた」などと語っています」に至っては、芸能人には当然に自己の存在感を強くし自己宣伝をする必要があるわけですから、そしてその番組等では心霊体験をしたことをテーマにして出演者を募っているわけですから、「芸能人が当然のように「先祖の声が聞こえた」などと語」るのは商売上当然であって、事実としての体験の有無には無関係です。
また、「心霊やオーラを見たと主張する」ことと宗教や信条は全く別ですから、

宗教や信条を「妄想」と言ってしまえばかなりの人を『異常』扱いすることになってしまいます。

そんなことには決してなりません。質問者の論理展開は全く不合理です。

それはともかくとして、

病気とはいえない程度の幻聴・幻覚・妄想と、治療が必要な症状については、どうやって判断すればいいのでしょうか。

これは重要な問いです。
しかしながら、抽象的に頭の中で考えるとこれは難しい問題ですが、現実に本人を目の当たりにすれば、それほど難しくないことが大部分です。
統合失調症などに見られる幻覚妄想の特徴(それは精神科Q&Aの膨大な実例から読み取れると思います)が見られるかどうか、そして本人の確信度が高いかどうか、そうしたことがポイントになります。

少し心霊話をされただけで「そんなはずはない。病院に行った方がいい」というのは相手を不快にさせる気がします

それはその通りですし、そもそも「少し心霊話をされただけで」精神科の受診を勧めるのは適切でありません。

もし精神科を受診した方がいい状況の人がいたらなるべく早く勧めたいと考えています。

もちろんそれは適切です。そのためには、統合失調症などの精神疾患の症状の特徴を知っていただく必要があります。精神科Q&Aの実例はその役に立つと思います。

(2017.5.5.)

05. 5月 2017 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症