【3419】他人の思考が伝わってくるので仕事に非常に役立っています
Q: 28歳女性です。夫と娘と3人暮らしで、夫は会社員、私は自宅で整体院と整体のスクール、株のデイトレードやネットショップなどをしています。 私は小さいころから空想癖が強いといわれていました。物心ついたころから耳元で常にラジオが鳴っていて他人の思考が流れている、椅子や鞄が歩き回る、神社や街角に幽霊や神様?的なものがいる、数学の問題や古文書の解読など、頭の中の存在が知らないはずのことを教えてくれる、などがあたりまえでした。 また、自分の中に複数の人格がいて必要に応じて交代しています。交代の間記憶が連続することもありますがしないこともあります。 思春期で人並みに悩んでいたころは、頭の中の声が「死んだほうがいい」など物騒なことを言うこともありましたが、その声としっかり話し合いをして解決しました。神様や守護霊というのでしょうか、より高い視点の存在とも話し合いをして助けてもらいました。隣の家の人が私のことを悪く言っているのが伝わってくる(気がする)こともありました。そのときは実際その方とお会いして話をお聞きしたところ、家族関係で非常に悩まれていて、その思考が伝わってきてしまったのだと納得して、今でも混乱した思考が伝わってくるときにはときどきその方の悩みを聞いてあげたりしています。その方を含め近所づきあいは普通にできていると思います。 以前就職して普通に仕事をしていたときには、普通になろうとしすぎて疲れきってしまい、軽いうつ病といわれリスパダールという薬を処方されたことがあります。(リスパダールを処方されているということはドクターは統合失調症と考えていたのでしょうが私に知らされた病名はうつ病でした)その時は「人の思考が伝わってくるなんておかしい、これは気のせいだ」と思い込もうとしましたが、そうすると誰かに会った時に不安になる、悲しくなる、うれしくなる、などの気分の変化が全て自分の感情だと捉えなければいけなくなるので乱高下する気分に疲れてしまいました。いくら自己分析してもカウンセリングを受けても、原因が自分の中に見つけられませんでした。薬を飲むと確かに人の思考は伝わってこないのですが頭がぼんやりして仕事にならず、途中で通院をやめてしまいました(当時は自己判断で通院を止めるのがどれほど危険か知りませんでした。反省しています。) 今では誰かに会ったときの気分の変化は、例えば怖い映画を見たときに怖く感じるのと同じで私の本質とは全く関係ないと割り切っています。私には他の人の存在が映画を見るように読み取れてしまうのです。実際相手の人に「今日、うれしいことがあったの?」などと聞くとたいてい当たっているようです。 これらの能力(妄想?)は私にとって欠かせないものです。 人格交代のおかげで複数のプロジェクトをこなせますし、思考が伝わってくるのは接客に非常に役立っています。本業は整体師ですが人間関係の歪みがわかるため占いのようなことを頼まれることもあります。おかげさまで仕事は順調で収入面でも非常に恵まれています。この仕事を始めて7年ですがトラブルなどはありません。 物心ついたときからこの調子ですので私にとっては個性の一つなのだと思いあまり悩まずにこれまで生活してきましたが、林先生のサイトを拝見して、「心の病気は本人が病気だと気付かないことが最も問題」だと書いてあったので私はもしかしたら病気なのか?と思いご相談いたしました。一応夫や両親に今の私の状態をどう思うか聞いてみましたが「確かに相当変わっているけど迷惑はしていない、精神科に通っていたころはマトモだったが疲れきっていらいらしていたのでもう病院には行ってほしくない」と言っていました。 ですが林先生のサイトに載せられた相談と回答を読んで、自己判断や家族の判断で医療の保護下から離れることが状態を悪化させることを知り、これからどうすればいいのか迷っています。 私は精神科にいくべきでしょうか?精神科に行ったとして、ドクターになんと言えばいいのでしょうか?「妄想も幻覚も幻聴もあるし人格も分裂しているけど改善したくない」と言えばいいのでしょうか。それとも改善の必要を私も家族も私の顧客も望んでいないのならわざわざ病院に行く必要も無いのでしょうか。 薬を飲めば「普通」になれますけれどそれでは仕事に支障が出ます。お客さんの思考が聞こえない状態では仕事になりませんし日常生活にも困ります。私にとって神様と会話できない、他人の思考が聞こえてこないというのは目が見えないのと同じくらい何も分からない不安な状態なのです。ですが放っておいて気付かないうちに誰かに迷惑をかけるのはもっと困ると思います。 ネットや本で自分なりに調べてはみたのですが私のようなケースは見つけられませんでした。どうすればいいのかよく分かりませんが、とりあえず近所の精神科に行ってみてドクターの判断を仰ごうかなと考えています。ですが、以前精神科の先生に病名を曖昧にされたことが不信感につながってしまっていたので(デリケートな問題なので私のためを思って曖昧にしたのだと理解はしています)、林先生のサイトの「事実を回答します」という単純明快な姿勢に惹かれてメールを差し上げました。 最後までお読みいただきありがとうございます。もしよろしければお返事いただければ幸いです。なかなかうまく書くことが出来ず、お忙しいところ長文失礼いたしました。先生もお体にお気をつけください。
林:
他人の思考が伝わってくるので仕事に非常に役立っています
このようなことを言う人はたくさん存在しますが、そのほぼ100%は精神病(多くは統合失調症)で、かつ、「非常に役立っています」というのは本人がそう信じているだけで、客観的には全く役に立っていないものです。これが一般論です。
この【3419】のケース、上記の一般論のうち前段はそのままあてはまると思います。
すなわち、
薬を飲むと確かに人の思考は伝わってこない
ということからみても、おそらく統合失調症でしょう。つまり「他人の思考が伝わってくる」は、思考伝播と呼ばれる、統合失調症のごくありふれた症状です。
問題は後段です。
すなわち、
「非常に役立っています」というのは本人がそう信じているだけで、客観的には全く役に立っていない
という一般論がこのケースにあてはまるかどうかです。
メールの記載からは、あてはまらないように見えます。メールの文章そのものも十分なまとまりがあり、かつ、内容からも、状況を客観視できていることが読み取れます。また、
一応夫や両親に今の私の状態をどう思うか聞いてみましたが「確かに相当変わっているけど迷惑はしていない、精神科に通っていたころはマトモだったが疲れきっていらいらしていたのでもう病院には行ってほしくない」と言っていました。
ということも、質問者本人の認識が正しいことを支持すると言えるかもしれません。(メールの記載の通りであれば「と言えるかもしれません」ではなく「と言えます」というべきでしょう。しかしながら、妄想を持っている人が「周囲の人も自分の考えが正しいと言っている」と主張するとき、その大部分は、「周囲の人が本人にあわせているだけで、本当は周囲の人はそれは妄想だと思っている」ものですから、この【3419】がそれにあてはまらない例外であると断定することは躊躇されます)
回答の冒頭を再記します。
他人の思考が伝わってくるので仕事に非常に役立っています
このようなことを言う人はたくさん存在しますが、そのほぼ100%は精神病(多くは統合失調症)で、かつ、「非常に役立っています」というのは本人がそう信じているだけで、客観的には全く役に立っていないものです。これが一般論です。
この回答は厳然たる事実であり、この一般論があてはまらないのは例外中の例外です。しかし逆に言えば、例外中の例外が存在するということですから、この【3419】はそれにあてはまるかもしれません。仮にあてはまったとして、ではそのような例外は、他のケースとどこが違うのか。それは次のように考えるのが妥当でしょう。
・ この【3419】のケースが体験している「他人の思考が伝わってくる」のは統合失調症の症状の思考伝播である。
・ したがって、実際には他人の思考が伝わってきているわけではない。但し本人は伝わってきていると確信している。
・ そのため本人の言葉にはそれなりの説得力がある。他人からみると信頼できるように見える。
・ そして、人の思考とは、ある程度のパターンがあるから、「この人はこう考えているであろう」と、誰もが一定の確率で正解を言い当てることができる。
・ また、自分が自分の思考を100%認識しているかというとそうとは限らない。たとえばある人物に対して自分が好意を持っているか、悪意を持っているか。「愛憎相半ば」はごく平凡な現象であるし、「愛と憎しみは同じものでできている」という表現もごくありふれて使われている。つまり、他人から思考を言い当てられたと感じるのは、単に自分の思考の一面についての支持を示されたにすぎないこともしばしばあろう。
・ さらに言えば、誰でもある程度までは他人の思考を読んでいるものであって、そうした能力があって初めて円滑な対人関係が成立している。但し健常者では、それを「思考が伝わってくる体験」とは認識していない。この【3419】のケースが「お客さんの思考が聞こえない状態では仕事になりませんし日常生活にも困ります。」と述べるとき、それは、健常者が日常的にしているレベルの「他人の思考がわかる」ことが失われた体験の描写かもしれない。(この体験が抗精神病薬によって抑制されるかどうかは不明だが、ある程度までは抑制されると推定することは不合理でない)
・ 統合失調症の経過は様々であり、その多くは治療をしなければ悪化するが、一部は治療を受けなくてもある一定レベルの症状が維持されていることがある。通常はその「ある一定レベルの症状」であっても、日常生活上なんらかの問題が発生するもので、ましてや症状がプラスに働くことはまずない。
・ だがこの【3419】は、その「ある一定レベルの症状」がプラスに働いている希有な例なのかもしれない。
・ 但し、今後、症状が「ある一定レベル」のまま維持され続けるという保証はない。
・ したがって、
ですが放っておいて気付かないうちに誰かに迷惑をかけるのはもっと困ると思います。
という事態が今後発生する可能性は否定できない。しかし他方、発生するに違いないと推定する明確な根拠もない。
(2017.5.5.)