【3634】嫉妬妄想がある夫は妄想性障害? 統合失調症?

Q: 私の夫(30歳)は私の不貞行為を疑っており妄想性障害と診断されて1年になります。本当に妄想性障害なのか気になっています。なぜかと申しますと、私が浮気をしてることを同僚が話ししていると訴えており、その中には自分たちしか知らないことを知ってる人がいたという発言や、自分が仕事にかなり集中している時に、同僚がいきなり不貞に関する内容を話しだし、私たち夫婦の名前はでてきてないことが多いが、数回私たち夫婦の名前をはっきりと指し、私が不貞している内容を話ししていたことがあったというのです。なので、私は幻聴もあるのでは?と思いました。主治医に幻聴があっても妄想性障害と診断されるのですか?とお尋ねしたところ以下のような回答がありました。訴えは月に1回あり、その訴えに付き合っていると、自分までおかしくなりそうですす。 主治医によりますと妄想性障害の診断詳細は下記です。
(1) 仕事ができていること(主人の上司からも話を聞いてますので仕事ができていることは間違いありません)
(2) 妄想の内容が奇怪でないことと妄想内容が不貞を疑っていることだけに限定されている
(3) 統合失調症の幻聴は本人が幻聴と会話するような内容なので統合失調症ではない
(4) 妄想に関することで生活のレベルが下がったことはあるが、その他に今のところ支障はでていない。
といったところです。
そこで林先生にお聞きしたかったことは
A  夫が妄想性障害という診断は間違いなさそうでしょうか?
B 更に妄想内容が増え、収集つかなくなったりすることもあるのでしょうか?
C 統合失調症の初期症状ということはないでのしょうか?
D 私が不貞行為をしそうな性格(ながされやすい所)が妄想を確信にさせていると夫は言ってますが、私の性格が仮になおれば病気が改善するのでしょうか?
E 自分の気に入らない人とは一切付き合わないという趣向があります。本人いわく、低俗な人と関わったら良くないことが起きると思っているようです。これは病気の一環なのか性格なのか、この趣向はずっと続くと覚悟しないといけないのでしょうか?

主治医にお聞きすることも大切だと思うのですが、家族としてどのような覚悟(可能性)をして生きていかなくてはならないのか、把握しておきたくセカンドオピニオンを林先生にも求めたいと以前から思いた次第です。

 

林: 統合失調症と妄想性障害の境界は実際には曖昧です。
もちろん確実に統合失調症と診断できるケースは多数ありますし、逆に確実に妄想性障害と診断できるケースも多数あります。けれどもどちらであるかはっきりしないケースもあります。これは、そもそも統合失調症という病気の概念も、妄想性障害という病気の概念も、明確には定まっていないことによります。両方あわせて精神病性障害と呼べば、むしろそのほうが混乱がないとも言えます。歴史的にみても、精神医学では、妄想を有する精神病の分類は変遷を繰り返してきています。現代でもその議論は続いていますので、どの分類法が正解であるということは言えません。それでも現代においてはDSM-5という公式の診断基準がありますので、それに依拠して以下に回答いたします。

まず、主治医の先生からの説明について:

(1) 仕事ができていること(主人の上司からも話を聞いてますので仕事ができていることは間違いありません)

仕事ができていることは、統合失調症を否定する根拠にはなりません。これはDSM-5を持ち出すまでもありません。統合失調症でも仕事をしている方はたくさんいらっしゃいます。したがって(1)は明確な誤りです。

(2) 妄想の内容が奇怪でないことと妄想内容が不貞を疑っていることだけに限定されている

これは、DSM-5に依拠すれば、どちらも統合失調症を否定する根拠にはなりません。

(3) 統合失調症の幻聴は本人が幻聴と会話するような内容なので統合失調症ではない

これもDSM-5に依拠すれば統合失調症を否定する根拠にはなりません。
「本人が幻聴と会話するような内容」というのは、シュナイダーの臨床精神病理学という権威ある本に書かれている、「統合失調症の一級症状」の一つです。(但し「会話」の解釈には異説もありますが、ここでは触れません) しかしこの本を尊重するとしても、シュナイダーが記しているのは、幻聴の中で「本人が幻聴と会話するような内容」は統合失調症にかなり特徴的だという趣旨であって、他の形式の幻聴は統合失調症の幻聴ではないなどとは言っていません。
そしてこの【3634】にみられる幻聴は、統合失調症にかなり典型的なものです。
したがって(3)も明確な誤りと言えます。

(4) 妄想に関することで生活のレベルが下がったことはあるが、その他に今のところ支障はでていない。

これはやや難しいところで、DSM-5を字義通りに解釈すれば、統合失調症を否定する根拠として挙げられないこともありません。
けれども、妻である質問者と生活において支障が出ているわけですから、家庭生活に支障ありということができ、すると「今のところ支障はでていない」という判断には無理があります。

ご質問について:

A  夫が妄想性障害という診断は間違いなさそうでしょうか?

間違いです。統合失調症です。
但し、統合失調症という病気の概念を非常に狭く規定すれば、このケースは妄想性障害であるとする立場も不合理ではありません。
そして、現実として何より重要なことは、診断が統合失調症であっても妄想性障害であっても、治療方法はあまり変わらないということです。したがってこのケースで診断名にこだわることにはあまり意味はありません。

B 更に妄想内容が増え、収集つかなくなったりすることもあるのでしょうか?

あります。

C 統合失調症の初期症状ということはないでのしょうか?

あります。初期症状というより、もうはっきりした症状が出ています。

D 私が不貞行為をしそうな性格(ながされやすい所)が妄想を確信にさせていると夫は言ってますが、私の性格が仮になおれば病気が改善するのでしょうか?

しません。妄想を持っている人はよくこのような言い方をするものです。また、周囲の方も、周囲が原因で妄想が生まれていると考えてしまうことはよくあります。(時には妄想のほうが事実であると考えてしまうことさえあります)
けれども妄想とは基本的に内因性、つまり本人の内部から生まれる症状であって、周囲の方の対応等によって妄想を改善することはできません。

E 自分の気に入らない人とは一切付き合わないという趣向があります。本人いわく、低俗な人と関わったら良くないことが起きると思っているようです。これは病気の一環なのか性格なのか、この趣向はずっと続くと覚悟しないといけないのでしょうか?

わかりません。「自分の気に入らない人とは一切付き合わないという趣向があります」という抽象的な情報だけから判断することは不可能です。

(2018.3.5.)

05. 3月 2018 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |