【2421】いない人と会話している祖母

Q: 私は30歳の女です。ご相談したいのは80代の祖母の事です。私と祖母は一緒に住んでいません。祖母は現在、リウマチの治療中です。ほかに血圧の薬なども服用しています。体のあちこちが痛いらしくほぼ寝たきりの生活をしています。かろうじてトイレには自分で行けます。そんな祖母が体調崩してトイレに間に合わず漏らしてしまう事が多々ありました。一緒に住んでいる次男(40代、私から見たら叔父)が祖母のお世話をしています。叔父が酷く漏らしてしまった事に怒っていました。紙おむつを薦めても履かないと聞く耳もたず。それから後にだんだん祖母の様子がおかしくなっていったように思います。 誰か知らないお婆さんが洋服タンスの前でおしっこしてる。祖母の部屋は1階なのですが2階の間に中2階がありそこに知らない人が住んでこちらの様子を伺っている。など、実際にはない光景が祖母には見えているようです。でも最近はその住人と会話したりしています。叔父の性格が結構ズバッときつく言う方なので祖母と言い合いになる事が多いです。母と私と、私の息子(1歳)を連れてたまに祖母の家へ様子を見に行くのですが私達が行くと比較的、安定しています。私は、まだ見たことないのですが、叔父の話によると、もっともっと症状が酷い時があるといいます。普段は足腰が痛くて歩行困難なのですが、そんな祖母が部屋中を徘徊していたり、時には杖にアンパンを突き刺し上の住人へあげようとしてたり、祖母の家に居ないはずの私の母が2階に上がりふてくされて降りて来ないと階段のとこで叫んだり。何時間も同じ行動をするみたいです。そして叔父に叱られた時の祖母の顔が別人の様に険しくなり、苦い表情になるみたいです。これは年によるボケなのでしょうか? よく昔の事を思い出したり、子供にかえったような感じに思える時もあります。それとも祖父がいない寂しさとか思う様に動かないもどかしさや、いろいろな思いが心を寂しくしちゃたんでしょうか? もう正常な祖母に戻る事はないのでしょうか? ちなみに祖父はリハビリ施設に入所しています。祖父は歩けないけどボケてはないです。この差は何だろう? 人とのふれあいがなく、一人ベッドで過ごすからでしょうか? 私が祖母にしてあげられる事って何だろう?長くなりましたが、アドバイスお願い致します。

 

林: お祖母様は認知症だと思います。ここに書かれているお祖母様の言動全体が、認知症という診断を強く支持するものですが、特に特徴的なものは、

2階の間に中2階がありそこに知らない人が住んでこちらの様子を伺っている。

最近はその住人と会話したりしています。

などで、これらは幻の同居人と呼ばれる、認知症の症状としてよく知られているものです。

血圧の薬なども服用しています。

という記載から、お祖母様は高血圧症であることが読み取れますので、認知症の種類としては、脳血管性認知症が考えられますが、アルツハイマー病や混合型認知症(アルツハイマー病と脳血管性認知症の両方の要因による認知症)も考えられます。
いずれにせよこれは脳の病気です。

もう正常な祖母に戻る事はないのでしょうか? 

完全に元に戻ることは期待できませんが、治療を受ければ、進行を遅らせたり、今の症状を軽くすることが期待できます。病院を受診させてあげることをお勧めします。

なお、この質問者の方の以下の問いかけは、いずれも精神科の病気についての非常によくある誤解が背景にあります:

叔父が酷く漏らしてしまった事に怒っていました。紙おむつを薦めても履かないと聞く耳もたず。それから後にだんだん祖母の様子がおかしくなっていったように思います。

祖父がいない寂しさとか思う様に動かないもどかしさや、いろいろな思いが心を寂しくしちゃたんでしょうか? 

祖父は歩けないけどボケてはないです。この差は何だろう? 人とのふれあいがなく、一人ベッドで過ごすからでしょうか?

これらはいずれも、お祖母様の今の状態が、何らかの心理的な原因によるという推定に基づくものです。「心の病」「精神疾患」、呼び方はともかくとして、精神科の関係する病気については、その原因がストレスであるとか、心理的な原因であると思いこまれることはよくありますが、そうした原因とは関係なく、人間は脳の病によって精神状態が変化することがあります。「ことがあります」というより、そういうことは実際には人が想像するよりはるかに多いものです。認知症もその一つです。こういった事情が理解されないと、周囲の方々は、全く的外れな対応をとってしまうこともありがちなことです。

関連したこととしてもうひとつ、いま上に引用したばかりですが、

叔父が酷く漏らしてしまった事に怒っていました。紙おむつを薦めても履かないと聞く耳もたず。それから後にだんだん祖母の様子がおかしくなっていったように思います。

この文章からは、
「叔父が酷く漏らしてしまった事に怒っていました」、それが原因で、「だんだん祖母の様子がおかしくなっていった」と推定していることが読み取れますが、これも非常にしばしばある誤解のパターンです。すなわち、時間関係からいえばこの推定は成り立つように見えますが、実際は、「酷く漏らしてしまった事に怒った」ことは原因ではなく、その怒ったことの原因である「酷く漏らしてしまった」ことが、すでに症状の始まりだったと考えるべきです。すなわち、「酷く漏らしてしまった」ことは「だんだんおかしくなっていった」という経過の一部であって、「叔父が怒った」ことは、その中間に挿入された出来事にすぎないということです。

(2013.8.5.)

05. 8月 2013 by Hayashi
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