【2969】妻は再度電気けいれん療法を受け、回復しました(【2912】のその後)
Q: 60後半の男です。60代の妻の病態について、【2713】電気けいれん療法で回復した妻。しかし今度は今までとは違う症状が出てきた 【2912】順調だった統合失調症の妻が急に塞ぎこむようになったのは再発でしょうか、それともうつ病でしょうか
でアドバイスをいただきました。
いつも通っている病院でも、林先生同様、すぐに電気けいれん療法を受けるべき、とりあえず、その電気けいれん療法の施設の整った病院のベッド空きの間、B病院へ入院させてもらいました。施設のあるC病院からは、8日後に受け入れられるというご返事をいただき、転院しました。もちろん、B病院の先生には「ECT治療の要請と、寛解後の維持ECTを私(患者の夫)が望んでいること」も情報提供書に書いていただきました。
ところが、C病院で以前お世話になった先生は、診察の結果「躁病相がメインの症状であり、服薬している『ジェイゾロフト錠』が多いためで、それを減らして他のものに替えればECTの治療は不要ではないか」という見解でした。単純に一方の薬を中止し、他方の薬に替えることはできないが、3─4日で、効果が現れるので、その方針で治療をしたいというので私も承諾しました。再発率の高いECTより、投薬で寛解するのであればそちらのほうが良いと素人ながらに私は考えました。ただ、3─4日で効果という説明には疑義を感じましたが、先生がそうおっしゃってくださるなら、その方針に賭けてみたい、そのほうが再発率も低くなるのではないかと、素人判断したのでした。
ところが、妻の病態は一向に改善されず、B病院で待機していた日々、C病院で投薬を替えて経過観察している間にも妻の病態はますます悪くなっていきました。前回と同様の「私は嘘つき」という妄想も出始めました。そこで主治医に直接、一刻も早くECT治療をしてほしいと訴えようとしましたが、あいにく先生に連絡がとれず、私も妻の苦悩し、食事も摂れない姿を見かねて、保健所に連絡をとりました。私は情報提供書を見たわけではありませんが、ECT治療のために転院したことは確かです。しかし、それを行ってもらえないのなら、再度転院させようと思いました。それほど私の気持ちは切羽詰まっていました。すると保健所では、病院に「苦情受付係」というものがあるから、そちらへ相談したらどうか、と言われました。さっそくその窓口へ行くと、受付嬢が「本日はお休みをいただいています」とのこと。
今考えるととても恥ずかしいことですが、私は切れました。多分、医学知識のない受付嬢に、私の知り得る限りの医学用語と、難解な薬の名前と、ECT治療の必要性をかなり昂奮した口調で訴えました。そして、私は何も叶えられない私の訴えに涙を流して、一時間もかかる家路を泣きながら運転していました。
翌朝、病院から電話がありました。主治医から、すぐ治療をするように手配をします、というものでした。看護師からも、ご家族にそのような(転院をも考慮する)気持ちにさせてしまったことは申し訳ないという謝罪がありました。私も、昂奮して罵声を浴びせたことに謝罪をしました。苦しむ妻を毎日見舞い、妻が可愛そうで、哀れで居たたまれなかったのだと謝りました。
暫くして、病院から再び電話がはいりました。「明日、土曜日の朝8時30分から、ECTを行います」と。実に、C病院へ転院してから11日目、再発を疑って入院させてから19日目にようやく治療の日程が決まったのでした。
ところが、今度は妻が2度目の治療を終えた頃からそれを嫌がり、医療保護入院に切り替え、身体を拘束しての治療になりました。そして、見舞いに行く度に「電気だけはしないで」と懇願されました。その病院は1クールを5回と数えていましたが、3回目の治療の頃から、私は治療を断念しはじめました。
私は、こう考えました。「光太郎の妻、智恵子が『人間稼業さらりとやめて』あちらの世界へ行ったように、それもひとりの人間の選択ではないか。病識のない人間の選択であっても、それはそれで認めてやるべきではないか」と。私は、その考えが間違っていると思っていました。虫歯で痛がる子どもならば親が体を押さえつけても治療を受けさせるでしょうし、それと同様ではないか、と。私の選択は妻を諦めるということではないかと悩みもしました。が、何とか3回、4回と治療が続き、4回目の治療で、「私は嘘つき」という妄想が無くなったのです。
そこで主治医から「最後の治療をどうしても嫌だと拒否しているが、どうするか」という電話連絡が入りました。私は、妄想も口に出さなくなったのだし、と、5回目の施術をキャンセルしました。その頃、妻は私が見舞いに行くことをとても嫌がりました。特に、先生や看護師さんと話をすることに、またECTを計画しているのではないかと疑念を抱くようになっていたのです。
私は妻に「4回も治療を受けてくれてありがとう」と感謝しました。そして「もうECTは終わったのだから、絶対にもうしないから」と約束しました。それから1週間ほどОTとして「塗り絵」などをしていましたが、その頃から一日一日、目に見えるように妻は恢復していきました。散歩が許され、外出、外泊体験も無事終わり、今日、最後の血液検査をして明日退院の運びになりました。
ECTは妻が嫌がり、主治医も「認知障碍」や「健忘」を考慮すると薦められないということで、投薬だけで再発防止に努めることにしました。勿論、再発にはすぐにECTを行ってもらうという確約もいただきました。
主治医の治療計画書の病名欄には、統合失調症(双極性障害)とあり、
退院時の投薬は、
夕食後 デパケンR100mg×1錠
ロナセン4mg×1錠
就寝前 デパケンR200mg×1錠
プロチゾラム0.25mg×1錠
ゾビクロン7.5mg×1錠です。
当初はデパケンを200mgが2度処方されていたのですが、白血球数が減少気味ということで、夕食後のものは100mgに減量されました。
いくつかのトラブル、行き違いもありましたが、とてもいい先生に巡り会えて2か月弱で寛解しました。林先生のネットでのご回答はプリントアウトして両先生にお渡ししました。
ある時、ECTの副作用について、主治医から「記憶が無くなるという苦しさを理解してやるべきだ」と、妻の立場に立ったお話がありました。私は、それは、ECTのせいではなく、「狂気の世界にいたのだから、こちらに戻って来ることができて、あちらの世界を覚えていないのは当然だと思う」と述べて、先生にその考えは間違っていると叱責を受けました。私の頑張りは、その「狂気」を文学に昇華した『智恵子抄』が心の底にあったためであり、大江健三郎が『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』という小説で書いていた感銘が、心の支えになっていたのですが、医学的に「狂気」という言葉は使うべきではない言葉なのでしょうか。ともあれ、林先生の様々なアドバイス、医学的な解説には感謝してもしきれなく思っております。ありがとうございました。
林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。大変なご苦悩があったこととお察し申し上げます。改善されて本当によかったと思います。
ご苦悩を承知のうえで、あえて端的に申し上げますと、奥様は、
「電気けいれん療法が著効した一例」
と単純に描写することができます。このように単純にくくられることには抵抗があるかと思いますが、事実は事実です。奥様の病状は重症で、再発を繰り返していますが、電気けいれん療法を行えば著明に良くなることは確実な事実です。是非それを直視され、ご認識ください。つまり、電気けいれん療法さえ行えば、かなり容易に治すことができる。逆に、電気けいれん療法を行わなければ、難治で、しかも大変な精神症状になるということです。奥様が電気けいれん療法を好んでおられないことはよくわかりますが、治療とは好みによって決めるものではありません。効く治療を行うべきであって、効かない治療に頼っても何もなりません。これまでの経過から見て、奥様は将来再発する可能性は高いことは否定できません。そして再発すればご家族はまた同じように大変な苦労を強いられるでしょう。【2912】順調だった統合失調症の妻が急に塞ぎこむようになったのは再発でしょうか、それともうつ病でしょうか の回答に記した通り、維持電気けいれん療法を行うことを真剣に考えていいケースだと思います。
(2015.5.5.)