【2869】認知症を本人が自覚することは可能でしょうか‏

Q: 私は50代前半 女性です。
実母84歳は5年前79歳の時にレビー小体型認知症と診断されました。
認知症と診断される前、60代後半から老人性うつ病との診断で心療内科で治療を受けておりました。数年間うつ病の治療を続ける中、素人目の私から見て認知症を疑うようになりました。当時の主治医へその旨をお話し長谷川式テストを行いましたが「お母様は認知症ではありません」と断定されました。その時70代前半。
その後もうつ病の治療を続ける中、76歳の時に手足の震えが現れ神経内科を受診、パーキンソン病と診断されました。

心療内科でうつ病、神経内科でパーキンソン病の治療を続けましたが私の中で認知症の疑いが残っており3年程経過してから神経内科の主治医にその旨を相談いたしました。

私が認知症を疑った理由は
・お金に対する執着が強くなり盗まれた、誰々にだまされた等を定期的に(数か月に一度位)言う
・私の行動をいつも気にしていつ誰とどこへ?等の束縛
・第3者には見せない私だけに向ける暴言
・依存してきたかと思うと手のひら返したように陰で私の悪口を言いふらす
・目つき、表現が難しいですがじーっと見つめる目つきに違和感

神経内科でいくつかの検査を経て出た診断名がレビー小体型認知症でした。
その後は心療内科での治療を止め神経内科でのみ治療を続けました。

その後、徐々に私へ向けての激しい攻撃性と反社会的行動等で困り果て精神科に医療保護入院となりましたが、半年間のレビーの適切な治療のおかげで現在は不穏状態になると入院、落ち着きを取り戻すと退院の繰り返しで過ごしております。

こうした状態の母を長い間介護してきて私自身も母と同じ(もしくはレビーではない他の認知症)状態になった時に家族へ負担をかけたくない、悲しい思いをさせたくない(悲しい思いとは物とられ妄想からの暴言、攻撃)との気持ちが強くあります。また診断がもう少し早ければ家族(私)の負担も少しは軽減されたのではないかと感じています

認知症を自身で感じた時に、自ら精神科を受診し適切な治療、投薬を受けたいという理想を持っていますがそれは簡単なことではないとわかっております。何故なら認知症の初期に自分でどの程度病識を持てるのかが全く予想できませんし自身でその状態を認めることが出来るかも未知です。

前置きが長くなりましたが今日お伺いしたい事は

身近に認知症患者と接してきて発症以前から発症までの経緯を介護という形で経験した者が自身の発症が疑われる時期(認知症初期)に過去の経験(体験)を生かして自身でそれを認めることが可能なのかを教えていただきたいのです。

 
林: 可能な場合もあります。

夏樹静子 白愁のとき  角川文庫

は、52歳という若い年齢でアルツハイマー病を発症し、それを自覚した男性の主観世界が描かれています。一部を引用します。まず本人が、医師に問う場面:

p.95
精神的な・・・そう、精神余命とでもいおうか、それだけはなんとか予測を立ててくれませんか。つまり、ぼくはいつまでこうして物を考えたり、話したり、そして仕事を続けていけるのか。自分の記憶力に異変が起き始めていることはわかるが、それにしても、必要な事柄を認識していられるのはいつまでか。もっといえば、自分という人間が、いつまで自分自身でありうるのか。

医師から本人への説明:

p.99
確かに、今までの精神科の常識では、アルツハイマー病ではまず本人の病識が失われてしまうと考えられていた。しかし、きわめて早期に発見された場合には、本人がその事実を冷静に受けとめ、悩んだり、恐れたり、でもまた勇敢に対処して、もっと望ましい生き方を選びとって行けるかもしれない。現に、外国の文献の中には、患者本人の内面の苦悩や努力が報告されているものが、最近目につくようになった。

この作品が書かれたのは1992年です。もちろんこの作品はフィクションですが、アルツハイマー病の臨床とある程度の整合性はあります。上記、「きわめて早期に発見された場合には」とありますが、このころから診断技術の進歩によりきわめて早期に発見されるケースが増え、それに伴い、ある程度の病識が保たれているケースがかなり見られるようになったと解釈するのが妥当でしょう。そして現在は、さらに早期診断例は増えています。
したがって、ご質問の

身近に認知症患者と接してきて発症以前から発症までの経緯を介護という形で経験した者が自身の発症が疑われる時期(認知症初期)に過去の経験(体験)を生かして自身でそれを認めることが可能なのかを教えていただきたいのです。

に対する答えは、介護の経験の有無にかかわらず、

可能な場合もあります。

になります。

(2015.1.5.)

05. 1月 2015 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 認知症