【2416】統合失調症についての無知と偏見を後悔しました

Q: 統合失調症の妹を持つ20代の大学院生です。3歳下の私の妹は、中学2年生の時から「学校に馴染めない」「担任の教師と性格が合わない」などといって学校に対する不満を口にするようになり、中学3年からは保健室登校でした。もともと妹は勉強が苦手でしたが、小学校高学年で人間関係に悩みイジメにもあい、私立の中学校を受験したいと言い出し、スパルタ式の塾に行って勉強し、合格したのは良かったのですが、入学後は学校の勉強に全くついていけず、いくら親が勉強しろといっても全く課題に手を付けませんでした。 妹は幼い頃から小説や絵の創作が大好きな芸術家タイプで、こういったタイプの人間は社会に適応しにくいのかなと(実際、小さい頃から、転校のたびにどの学校でも同級生に馴染めませんでした)、当時高校生だった私は勝手に心理的な解釈をしていました。今ではこのことを激しく後悔しています。  高校を入学後1週間で中退してからも、引きこもってネット三昧、拒食や入浴の拒否など、明らかにエネルギーが低下していきました。この頃から近所の心療内科に通い始めたのですが、「抑うつ状態」ということで、なかなかはっきりとした診断はつかず、母が通院に反対していたこともあり、治療はスムーズに行きませんでした。

私は妹が16歳の時に実家を出ましたので、これから先の妹の様子は断片的にしか知りませんが、妹は18歳のころから病院に不満を持つようになり、父の勧めで近所の病院からやや遠方の大きな病院に変えました。変えた先の医師に妹は好感をもったようで、そのまま通院を続けていました。

しかし19歳の頃、妹は通院を拒否しはじめ、両親もまさか妹が統合失調症であるとは思っていなかったため、そのまま無治療で放置してしまいました。

そして20歳になり、「私が引きこもりになったのは両親やカウンセラーのせいだ」などと暴言を吐くようになり、攻撃性が増して来ました。そして夏のある日、行方不明になり、自宅から電車で1時間以上かかる場所のオフィスビルのトイレの中で一夜を明かしていたところを発見されました。お金もほとんど持っていなかったそうです。「私は父や兄(私)にレイプされた」「父と辺見庸(妹の好きな作家)がグルになって私を馬鹿にしている」などと主張し、そこで即入院となり。統合失調症と診断されました。我々は病気に対して無知で、かつ妹の場合は抑うつ的な状態が目立ち、幻覚や妄想がなかなか表に出て来なかったので、なかなか病気を疑うことができませんでした。心理的解釈に終始していたのです。

現在は両親とも病気を理解し、服薬を徹底してだいぶ落ち着いてきているようですが、まだまだモデルに応募すると言い出して履歴書を送ったかと思えば、養護教諭になるといって通信教育のパンフレットを取り寄せたりと、一貫性のない行動は目立っているようです(風呂に入らない、食事を取らない、引きこもるなどの症状は改善され、頻繁にショピングセンターなどに外出しているようです) 。

私は後悔しています。精神疾患について、インターネットでホンの少し調べた程度のいい加減な知識しか持っておらず。数年間に渡り両親に的はずれな助言を繰り返していました。このサイトで紹介されている統合失調症の本を読んでみて、愕然としました。はじめに通っていた心療内科の医師によると、17歳の時から統合失調症を疑っていたようですが、私にも知識があれば、この頃から統合失調症であると確信できていたと思います。そうであれば両親に的確なアドバイスが出来たはずだという気持ちでいっぱいです。  無知や偏見、いい加減な知識がいかに恐ろしいものか、痛感させられました。そしてそれに気づかせてくれたのは、林先生のHPでした。  私は実質1年間しか発症後の妹と住んでいなかったことや。この文書も実験の合間に大急ぎで書いていることから、症状などについて不十分な記載が多くまとまりのない文書だとは思います。 私が伝えたかったのは、幻聴や妄想、暴れまわるなどの一見目立つ症状がなくとも、周囲から見ると理由の分からない抑うつ状態を呈している場合、統合失調症を疑うべきであるということ、そして病気に関して、ネット上のいい加減な情報ではなく、きちんとした情報に基づいて判断、助言をすべきだということ。この2つをどうかもっと広めて欲しいということです。 すでに林先生はこの2つの重要性を十分に広めてらっしゃると思いますが。このメールを書くことで少し自分の頭も整理され、また研究に専念できると思って、勢いで書いてしまいました。乱文をどうかお許し下さい。

 

林: 貴重な体験をご報告いただきありがとうございました。読者の方々にとって、きわめて有意義な内容だと思います。これをお読みになったことがきっかけで、統合失調症の早期治療が可能になる人々が必ず何人もいらっしゃると思います。

私が伝えたかったのは、幻聴や妄想、暴れまわるなどの一見目立つ症状がなくとも、周囲から見ると理由の分からない抑うつ状態を呈している場合、統合失調症を疑うべきであるということ、そして病気に関して、ネット上のいい加減な情報ではなく、きちんとした情報に基づいて判断、助言をすべきだということ。

まさにご指摘の通りです。

妹さんのご病状がさらに改善し、安定されることを願っています。

 

(2013.7.5.)

05. 7月 2013 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症