【2521】私は医学生ですが、どうも精神病のようなのです。そうならば医師になるなど言語道断だと思います。
Q: 私は24歳女、医学生です。
昨年精神科の授業を受けて、勉強しているうちに、自分は精神病なのではないかととても不安になってきました。
もしもそうならばこのまま医師になるなど言語道断です。
そんなふうに悩んでいる時、林先生のサイトに出会いました。
もし私が精神病なら、私の良心云々以前に、医師免許の欠格事由にあてはまるのではないかとも思います。とても不安で自分に自信がなく苦悶しています。どうか先生のお知恵をお貸しください。
私は生来妄想質であり幼少(4歳、年少組)のころから高校1年生までいろんな幻覚?を体験しています。
4歳のころからある症状は、夜眠るときに私の考えていることが寝ている布団、畳を通って、横の布団で寝ている母に伝わっていて気になってなかなか寝付けませんでした。寝るときに母が手をつないでくれることがあったのですが、そうするとダイレクトに私の考えが伝わってしまいとても危険なため振り払っていました。母と寝る部屋が離れてからはこれはなくなりました。
また、今の親はアンドロイドの親だから、私が7歳になったら壊れて本当の親が出てくる、と考えていました。
一人で遊んでいると「地球の、日本の、○○の、どこそこで、左手を上げているやつをつかまえろ!」と声がし、私はあわてて左手を下ろすのですが、そうすると今度は「~の今左手を下ろしたやつをつかまえろ!」と言われ、動きを止めると捕まえられるという恐怖感から落ち着かない時がありました。
また、月に何回か突然、頭が目玉になったようにかんじ、自分のまわりが360度見渡せ、自分は何でもできると感じることがあり、突如ひらめいた素晴らしい思い付きを誰かに教えたりしましたが、「何を言っているのかわからない」と言われ、傍で見ていた友達には「一体どうしたの?」と言われるようなことが多々ありました。このような幻覚を最初は人に言っていたのですが、そのときの相手の反応がのぞましいものではなかったため、だんだんと隠すようになりました。
このような症状は高校一年生頃まではっきり続いていましたが次第に薄くなり現在はありません。
症状の出ているとき以外は明るく陽気なたちで、学級委員や生徒会副会長をしたり(小学校一年生から高校3年生まで、生徒会をしていないときは学級委員でした)、成績も優秀で、先生からの信頼も厚く、クラスの誰とでも仲良く話し交友関係もごくごく一般的でした。
また、私は中学2年生の頃から自傷癖がつき、中学卒業と同時にその癖自体は薄くなっていったのですが、大学6年生となった今も左右の前腕に多数の傷跡が残っていて、風呂上りはマスクメロンの網目のように浮かび上がって大変醜く後悔しています。
現在は躁鬱的で、とても外交的で流行のファッションを装うときと、学校にも行かず部屋に閉じこもり、恥ずかしい話お風呂にも1週間近く入らないような時期を繰り返しています。元気なときはみんなと当たり障りなく接せるのですが、元気のないときにはクラブでの対人関係に一日中悩み、また人と会うのが億劫だという理由で大事な用事や大事な試験を病欠したりします。
私はうまれつき心臓が弱く、幼いときは日に何度も起立性低血圧発作を起こしたり、ひどいときには椅子に座っているときでもその発作が起こり、いつもは蹲踞の姿勢をとれば発作はおさまるのですが、3ヶ月に一度は重い発作のため1分ほど痙攣を伴う意識消失を起こしていました。
中学生のころに学校検診でそのことを医師に話したところ一度脳波などをとるように、と言われましたが、親には「どうせ大した病気じゃないんだから無駄だ」といわれそのままになったことがあります。
現在は、起立時に低血圧発作?により意識を失うことは年に一度ぐらいに減っています。
「私は精神病なのでしょうか?また、精神病だとすれば病名はなんなのでしょうか?」
いろいろと脱線しながらの長文となり申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いいたします。
林:
もし私が精神病なら、私の良心云々以前に、医師免許の欠格事由にあてはまるのではないかとも思います。
そんなことはありません。欠格事由には、「絶対欠格事由」と「相対欠陥事由」があります。「絶対欠格事由」は、たとえば成年後見を受けている人(成年被後見者)や未成年などで、こうした人は医師になる資格は与えられていません。ご質問の「精神病」は、「心身の障害」にあたり、これは「相対欠格事由」です。相対欠格事由というのは、「○○であれば、医師になる資格を与えられないことがある」というもので、つまり、心身の障害があっても、それが著しく重篤であるなど他の条件が加わらない限りは、医師になる資格は与えられます。
ここまでが法的事項についての回答です。
以下、【2521】の方の症状についてです。
「私は精神病なのでしょうか?また、精神病だとすれば病名はなんなのでしょうか?」
病気でない可能性もあります。以下、もし病気だとすればという前提での回答です。
一つは、統合失調症の前駆期が考えられます。
質問文に記されている、高校1年頃までの症状は、ひとつひとつを取ってみれば、健康な子どもにもあり得ることで、かつ一過性ですので、病気であるとは言えません。けれども、これら複数の症状があり、かつ、そのひとつひとつは統合失調症にあり得る症状であること、さらには20代の現在、気分に病的ともいい得る波があることを合わせると、統合失調症の前駆症状という可能性が浮上します。質問者は医学生とのこと、micropsychosis (マイクロサイコーシス・・・良い日本語訳がないのですが、直訳すれば「小精神病」です)というキーワードで調べてみてください。
もう一つは解離が考えられます。
統合失調症の前駆期や初期の、漠然とした症状は、しばしば解離性障害と鑑別困難です。特にメールなどでの症状描写は断片的なこともあり、直接に診察すれば明らかであっても、文章で書かれると区別がつかないこともよくあります。
さらにもう一つ、身体疾患の精密検査を受けたほうがいいでしょう。
私はうまれつき心臓が弱く、幼いときは日に何度も起立性低血圧発作を起こしたり、ひどいときには椅子に座っているときでもその発作が起こり、いつもは蹲踞の姿勢をとれば発作はおさまるのですが、3ヶ月に一度は重い発作のため1分ほど痙攣を伴う意識消失を起こしていました。
これを放置するというのは危険です。
精神症状に直接関係している可能性は低いと思いますが、「うまれつき心臓が弱く、幼いときは日に何度も起立性低血圧発作を起こした」というのは、一般の方が言うのならともかく、医学生の言葉としては雑に過ぎます。これは「起立性低血圧発作の原因が、心臓が弱いこと」という意味でしょうか。それは心臓のどういう病気を想定しておられるのでしょうか。医学を勉強している人間の言葉としてはあまりに素人的と言わざるを得ません。
それはともかくとして、
昨年精神科の授業を受けて、勉強しているうちに、自分は精神病なのではないかととても不安になってきました。
もしもそうならばこのまま医師になるなど言語道断です。
そのように考えることはありません。むしろ精神科の勉強が不十分なため、そのようなお考えに至ったのではないでしょうか。
仮に質問者が統合失調症など、まだまだ偏見が絶えない病気に罹患しておられるのだとしたら、そうした病気に罹患していても医師として患者さんを救うことができることを示すことが、他の人でなく【2521】の質問者にこそできる有意義な営みだと思います。
(2014.1.5.)