【4940】統合失調症なのか、政治的な主張なのか分かりません
Q: 私は40代男性です。
いつもサイトを拝読しております。先生のサイトのおかげで、精神疾患に関する知識が身に付き、大変感謝しております。
私には物書きをしている友人(40代男性)がおりますが、どうも最近の様子が変です。
私が奇妙な言動を安直に統合失調症に結び付けてしまっているだけなのか、はたまた本当に統合失調症なのか分からず、先生のご意見をお伺いできれば幸いです。
友人は、交友関係が狭く、黙々と創作に打ち込むのが好きな人でした。
このところしばらく連絡がつかず、SNSの更新も途絶えていたと思ったら、先週あたりに急に連絡が来ました。
「新しい作品を書こうと思う」とのことで、構想が添えられていました。
その内容は以下のようなものです。(内容は私が要約しております。原文では具体的な数字や固有名詞が出ておりました。)
‐この国は長年にわたってとある勢力から攻撃を受けており、明らかに異常な出来事が巧妙に隠蔽され続けている。その勢力の悪事が露呈しそうになったタイミングで、大きな事故が起きたり何人もの芸能人が自ら命を絶ったりしている。命を絶った芸能人は常に何者かに尾行され、個人情報を流されていた。これらの事態を誰も異常だと感知できないので、自分が告発しなければならない。
また、文体も奇妙になりました。
元々彼は簡潔で歯切れのよい文章を書いていましたが、一文が非常に長くなり、平均150~200文字はあります。これほど長いのに、主語が無かったり、脈絡のない単語が急に登場したりして、何を伝えたいのかよく分からないのです。
「世の中を取り戻すために(要は「どんどんいい方向に変えよう!」ということ)邁進していたので、あんな風に言われて感無量です。」
上記は最近私に届いたメッセージの一部です。
大体この調子で、挨拶もなしにこういった文章が届き、読解に苦慮します。
おそらくですが、ネットか何かで彼が賞賛されており(本当かはわかりません)、その発信者が私だと考えて、お礼を言ってくれているようです。こういう、謎の感謝のようなものが何度かありました。
本件と関係があるかは分かりませんが、10年ほど前に精神科に通院していたと聞いています。
診断名は聞いていないものの、その頃の作品について「当時は病気だったので、読んでいて奇妙な印象を抱かれるかもしれない」と後ろめたそうに話していたのが記憶に残っています。
その頃は鬱屈とした印象の作品が多いのですが、話の筋道は通っていました。
また、彼の作品で特に良い評価を受けているのはその頃の作品です。
長くなりましたが、ご質問です。彼は統合失調症でしょうか?
私が統合失調症の方の投稿を拝読した限り、自分自身が何者かに悪意を向けられているという訴えが多い印象でしたが、彼の場合、被害に遭っている(と彼が思っている)のは国家や有名人です。彼自身は、被害は感じておらず、むしろ周囲に応援されて(?)手ごたえを感じているようです。
統合失調症にはこのようなケースもあるのでしょうか。
ひとまず、心配は表に出さず、会う約束を取り付けました。
通院を勧めるところまで行けるかはわかりませんが、とりあえず孤立させてはいけないなと…。
それと、私は彼の活動に対して肯定も否定もしていないのですが、彼の中では私は重要な支援者のようです。
今後私への印象が反転し、悪の勢力の一味として告発対象になってしまうこともあるのではないかと勝手に不安になっております。これは会っても会わなくても、起こるときは起こるのでしょうが…。
林:
彼は統合失調症でしょうか?
統合失調症の可能性が高いと思います。
‐この国は長年にわたってとある勢力から攻撃を受けており、明らかに異常な出来事が巧妙に隠蔽され続けている。その勢力の悪事が露呈しそうになったタイミングで、大きな事故が起きたり何人もの芸能人が自ら命を絶ったりしている。命を絶った芸能人は常に何者かに尾行され、個人情報を流されていた。これらの事態を誰も異常だと感知できないので、自分が告発しなければならない。
このようなことを信じておられるのは、統合失調症(または妄想性障害)としてかなり典型的な妄想です。
ただし、これだけですと、いわゆる陰謀論を信じている人(統合失調症や妄想性障害ではないが、陰謀論を信じている人)と区別がつきにくいとも言えます。けれども、以下の点をあわせますと、単なる「陰謀論を信じている人」ではなく、また、妄想性障害でもなく、統合失調症の可能性が最も高いということができます。
文体も奇妙になりました。
元々彼は簡潔で歯切れのよい文章を書いていましたが、一文が非常に長くなり、平均150~200文字はあります。これほど長いのに、主語が無かったり、脈絡のない単語が急に登場したりして、何を伝えたいのかよく分からないのです。
これは、統合失調症の思考障害を反映しているとみることができます。
ネットか何かで彼が賞賛されており(本当かはわかりません)、その発信者が私だと考えて、お礼を言ってくれているようです。こういう、謎の感謝のようなものが何度かありました。
統合失調症として一つの典型的な症状です。もっとも、いわれのない「感謝」ではなく、いわれのない「恨み」の場合の方が多いですが、相対的に頻度は低いものの「感謝」の場合もあります。但し、突然に「恨み」に転ずることが少なくありません。
本件と関係があるかは分かりませんが、10年ほど前に精神科に通院していたと聞いています。
遅くともそのころまでに統合失調症を発症し、その後、寛解状態(完全寛解か不完全寛解かは不明ですが)が続いてしたところ、最近になって再燃もしくは再発したと考えるのが最も合理的です。
その頃は鬱屈とした印象の作品が多いのですが、話の筋道は通っていました。
また、彼の作品で特に良い評価を受けているのはその頃の作品です。
統合失調症の方の中には、分野を問わず、優れた芸術作品を創作する方がいらっしゃいます。但し大部分の場合、それはその方のある一時期に限定されています。つまり、悪化して創作が不可能になる、あるいは、創作そのものは可能でも空中分解したような作品になる、その寸前の時期に、非凡な作品が生み出されるということです。
私が統合失調症の方の投稿を拝読した限り、自分自身が何者かに悪意を向けられているという訴えが多い印象でしたが、彼の場合、被害に遭っている(と彼が思っている)のは国家や有名人です。彼自身は、被害は感じておらず、むしろ周囲に応援されて(?)手ごたえを感じているようです。
統合失調症にはこのようなケースもあるのでしょうか。
あります。しかしこのような状態は多くの場合不安定で、容易に自分に対する被害妄想に転ずるものです。
通院を勧めるところまで行けるかはわかりませんが、とりあえず孤立させてはいけないなと…。
その通りだと思います。
今後私への印象が反転し、悪の勢力の一味として告発対象になってしまうこともあるのではないかと勝手に不安になっております。
その不安は現実のものとして認識する必要があると思います。
これは会っても会わなくても、起こるときは起こるのでしょうが…。
残念ながらその通りです。
(2025.3.5.)