【4295】統合失調症の妻を医療保護入院させることの是非
Q: 私は40代男性、結婚して5年目になる妻(32歳)が統合失調症です。
妻とは6年ほど前に仕事先で知り合いました。大人しめであまりコミュニケーションを上手く取れるタイプではないと出会った最初の段階から思っていました。
仕事の時間はいつも一緒だった事や、見た目の好みなどもあり、私の方から何度かアタックしてつきあう事になりました。
交際しはじめた頃は統合失調症である事は知らされず、毎日よくわからない嫉妬をすると思っていました。
例えば「女性が写ったポスターに欲情した」や「救急車の音がした時に態度が変わるから、浮気している」「私に話しかけるふりをしながら、奥の女の人を口説いた」「咳払いで気を引いている」というような、おかしな嫉妬でした。
その時は突拍子もないギャグのようでもあったので、むしろそれも含めて楽しんでつきあっていました。
妻が当時借りていたアパートにあがる事もよくありました。私はホラー漫画が好きだったので、アパートの上の階から足音や物音がした時に漫画のシチュエーションをあげて、何か怖い出来事が起きているなど雑談として話していたのですが、そんな話をした後に、自分達は盗聴されているという話が出てきたのです。
こんな庶民を盗聴するなんて、そんな暇な人がいるはずがないと話しました。その後、実は精神科に通っていて統合失調症と診断されていると伝えられました。
他にも、以前は拒食症だった時期もあると言っていました。
私は、かつて統合失調症だった人が元気に働いている姿を見た事があり、普段の会話から全くわからない方ともお話した事があった為、妻の場合は少々変な嫉妬をするくらいの事かな?と考え、交際を続けていました。 嫉妬はともかく盗聴されているという妄想は、周囲に無害だった事も統合失調症を軽く見ていた要因でした。
妻はその頃「薬を飲むと何も出来なくなるから今は飲んでいない」と言っていたので、私はそんな強い薬なら変えたり減らしたりすればといいと思っていました。
その後、一緒に精神科に行った時には、量を減らしてはどうかと医者に提案したり、彼女の味方になるように行動していました。
そんなに嫌なら薬はもう飲まなければいい、医者もいったんやめてもいいとアドバイスもしていました。
今思うと正しくないアドバイスだと感じますが、そういった言動があった事で私が味方だと思った妻は、私になつくようになりました。
妊娠を機に妻は仕事をやめて私と入籍し、一緒に住む家も変える事になりました。
盗聴の話も、家が変わってしまえばなくなるのではないかと思っていました。
出産前には担当の医師との連携があり、看護師の方に向かって嫉妬が起きないように色々と手配していただき、出産も無事に終わりました。
その後、妻は子供のためにと色々と頑張って行動をしてはやめ、行動してはやめ……というサイクルになっていました。
ただ、何かのためにと行動を起こしはするので、私は妻も子供とともに成長するのではないかと思っていました。
その時期は薬を真面目に飲んでいましたが、それも長続きはしませんでした。
そして、盗聴や盗撮されていると言い始めました。インターネット上で活動されている方数名が自分の事を盗聴・盗撮していて、それがニュースに載ったり動画の中に隠されたメッセージになっていると言うのです。
映画や漫画でしか見た事のないような荒唐無稽な話で、後々聞くと、薬を飲んでいる間も盗聴や盗撮は感じていたが口には出さなかったようでした。
カーテンを常に閉め切るようになり、およそ人が覗くのは無理と思われる風呂場の通気孔もタオルなどで隠してしまいました。
結果として風呂場の換気がされなくなり、風呂場の外までカビが広がりやすいようになってしまいました。
生活の面でも、私からの生活費の他にも両親からかなり高額のお小遣いをもらっているようでした。
ご両親は対応が常に甘く、何でも言う事を聞いてくれるようです。何度も無理を言ってはお金を出してもらったり足として車を出してもらったりしています。
ここからが本題です。
子供も大きくなってきて今年で5歳になります。保育園に入って社会生活を知る時期です。
保育園に通わせると決まってから、妻ははりきって「送り迎えを自分でやる」と言ったものの、入って1ヶ月もしないうちに保育園の先生が子供をいじめると言いだし、私が知らないうちに転園届を市役所に提出してしまいました。
私の住んでいる地域の市役所は親のどちらか一方から転園届が出された場合、もう一方が合意していなくても転園が成立するそうです。
保育園の言い分も聞かずに決めるのは早い、保育園と話し合ってから決めようと妻に伝えてから転園届はもう出しているとわかり、その日の内に市役所にはギリギリまで受理しないでとお願いしました。
しかし、妻はもう保育園の方が何を言っても聞く耳を持たず、転園するの一点張りになりました。
保育園の方も、だんだんと腫れ物を扱うような対応になっていきました。
あまりに強引だったので転園届を取り消すと私が伝えると、実家に子供を連れて帰って「もう実家にずっといる、ここで私が育てる」と言い始めたのです。
妻の実家の両親も、突然そんな事になっては困るのでどうにかしようとなりましたが、あまりにも話が通じなくなってしまった為、私は転園を受け入れました。
今度は何か問題があったとしても、相手の話を聞いてからにすべきだから、勝手に届を出さないように約束してもらいました。
そして、家から少し遠い保育園に通い始めます。
半年ほどして妻は同じクラスの子供がうちの子をひっかいたり、悪口を言われたりいじめると言い出しました。
保育園に聞いても、そんな事はないと伝えられました。ひっかき傷は確かに顔に小さくついていましたが、遊んでいるうちについてしまった傷のようにも見えるし、わざとつけられた傷という感じはしませんでした。 さらに言うと、自分で自分をひっかいてしまった可能性の方が高いようにも思いました。
そして、また「家で育てる」「保育園をやめさせるまで家には帰らない」と子供を囲い込んで実家に帰っています。 さらには「私はもう病気ではないから、病院にはもう行かない。薬も飲まない」と宣言してしまいました。
妻の両親は共働きで朝決まった時間に起こせません。朝食を作る人もいません。妻の両親が働きに出てからゆっくり好きな時間に起きて、好きな時間に食べ、夜も眠くなるまで好きなように過ごす、自由気ままな生活を送っています。
まだ自分でトイレにすら行けない子供が、2年後に小学校に上がった時、いきなり本格的な社会生活が始まっても大丈夫なのだろうかと不安になります。
おそらく保育園をまた変えたところで、新しい場所で似たような何かが起きてしまうと思います。
これ以上保育園を変える事は何の解決にもならないばかりか、既に一度保育園を変えた事も影響し、私の子供は他の子達と仲良く溶け込む事も難しくなり、トイレのトレーニングが遅れ、朝起きて夜寝るという基本的な生活習慣の全てが成り立たなくなっていってしまいます。
児童相談所にも相談してみましたが、具体的な被害が子供に出ていないから市役所での対応と言われ、市役所に聞いても説得するように促されるだけで具体的な解決にはなりませんでした。
つきあい始めた頃、被害が誰にも及んでいないのであればおかしな妄想があっても構わないと思っていた私は、被害が子供や周囲に及ぶようになってしまった今、考えを変えなければいけないと思っています。
家族の同意があれば「医療保護入院」という制度があると情報を得た私は、子供の生活を守るために入院させるかどうか迷っています。
精神科に確認したところ、後から恨まれたり結果として家庭が崩壊する可能性について説明された上で、入院させるならいつからなのかと聞かれました。
どのレベルが医療保護入院として妥当なのかも私には判断がついていませんし、妻の両親も入院となればショックは大きいはずなので、その相談も終わっていない状態で決められずにいます。
子供の今の生活を守れるかもしれませんが、その後はきちんと将来的に子供を助ける事が出来るのか、同じ家で生活を続けられるように出来るのか……
医療保護入院の情報が少なく、様々な不安要素の方が多いです。
子供は寝る時に「今日は3人で一緒に手をつないで寝ようよ!」と、純粋に私も妻も一緒が良いと考えてくれている、とても良い子です。
妻の実家にいる日が続いていますが「おうちにはいつ帰るの?」と、家に帰りたそうな事も言っています。
こういったケースでは医療保護入院をするべきでしょうか。説得を続けるかもう一度、転園で解決すべきでしょうか。
林: 奥様には治療が必要です。そこまでは確実に言えますので、それを出発点に、具体的な方法を決めるべきです。ご質問は「医療保護入院させるべきか、させないべきか」という二者択一の形を取っていますが、そのような問いの立て方は正しくありません。「治療が必要」が大前提で、「ではどのようにして治療を受けさせるか」が正しい問いの立て方です。「どのようにして治療を受けさせるか」の選択肢は複数あり、医療保護入院はその選択肢の一つということになります。
説得を続けるかもう一度、転園で解決すべきでしょうか。
このうち、「転園」は明確な誤りです。転園しても解決しません。むしろ問題を先延ばしにし、病気を悪化させるだけです。転園は論外です。
「説得を続ける」が、通常は最も勧められる方法ということになります。説得がどうしてもうまくいかなかった場合に、医療保護入院を考えるということになります。もっとも、この【4295】のケースのかなり具体的な経過と症状の記載からは、説得はおそらくうまくいかないでしょう。すると結論としては医療保護入院が最善ということになりそうです。
以上がご質問に対する答えですが、このケースはご家族の対応が不適切だったために統合失調症が悪化し、強制的な治療に踏み切らざるを得なくなるという場合の典型例となっていますので、経過を振り返ってみたいと思います。(「ご家族の対応が不適切だった」とはっきり言われることは質問者にとって不愉快なこととは思いますが、同じようなケースの発生を一例でも少なくするためとご理解ください。)
妻はその頃「薬を飲むと何も出来なくなるから今は飲んでいない」と言っていたので、私はそんな強い薬なら変えたり減らしたりすればといいと思っていました。
その後、一緒に精神科に行った時には、量を減らしてはどうかと医者に提案したり、彼女の味方になるように行動していました。
そんなに嫌なら薬はもう飲まなければいい、医者もいったんやめてもいいとアドバイスもしていました。
今思うと正しくないアドバイスだと感じますが、そういった言動があった事で私が味方だと思った妻は、私になつくようになりました。
しばしばご家族が犯す典型的な誤りです。そしてその誤りはこのように、短期的には統合失調症のご本人にとっては、真に正しい対応よりもむしろ好ましいと感じられ満足されることが多いものです。しかしそれはご家族が病気の悪化に向けてご本人の背中を押す行為をしていることと同じです。ご家族のこのような対応がもたらした最悪のケースとしては【3828】の回答で紹介したものがあります。
そして、病気が悪化すると、対応は非常に困難になっていきます。この点が他の病気と大きく違うところで、他の病気では、もちろん悪化してからの方が治療による回復は難しくなりますが、治療を始めること自体はそう難しくなることはありません。本人の自覚症状が強くなり治療してほしいと考えるようになるのが常だからです。ところが統合失調症では、悪化すればするほど自分は病気ではないという確信が強まり、治療への拒否が強くなるのが常です。するとそれでも治療を開始するためには強制力を行使する必要が発生しますが、それは容易ではありません。法的にはそうした治療は可能ですが、現実には関係者は積極的に強制治療に踏み切ることには慎重であるのが常です。慎重というより及び腰であるとご家族は感じることが多いものです。
児童相談所にも相談してみましたが、具体的な被害が子供に出ていないから市役所での対応と言われ、市役所に聞いても説得するように促されるだけで具体的な解決にはなりませんでした。
児童相談所の対応、市役所の対応は、いずれもそれぞれの役割からみて、不適切とか不親切とか言うことはできません。質問者としてはこのとき失望されたと思いますが、「本人の意思に反して何らかの対応をする」ことへのハードルはとても高いもので、それは当然であると言えるでしょう。
つきあい始めた頃、被害が誰にも及んでいないのであればおかしな妄想があっても構わないと思っていた私は、被害が子供や周囲に及ぶようになってしまった今、考えを変えなければいけないと思っています。
「被害が誰にも及んでいないのであればおかしな妄想があっても構わない」という考え方は、それだけを単独して取り出せば不適切な考え方とは言えませんが、その妄想が統合失調症によるものであることと、統合失調症という病気の一般的な経過をあわせて考えれば、その考え方は不適切で、奥様の統合失調症が悪化した今になってそれが現実化したということになります。
精神科に確認したところ、後から恨まれたり結果として家庭が崩壊する可能性について説明された上で、入院させるならいつからなのかと聞かれました。
そうした可能性は「高い」とは言えませんが、「ありうる」とまでは言えます。その可能性を考えたうえで決断を迫られる事態になったのは、症状が軽い時期に治療せずに放置したことの結果です。
どのレベルが医療保護入院として妥当なのかも私には判断がついていませんし、妻の両親も入院となればショックは大きいはずなので、その相談も終わっていない状態で決められずにいます。
あなたが決めてください。そういう難しい決断をしなければならない状況に今は追い込まれています。
(2021.4.5.)