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は一般向け、は専門家向けです


●● インパクト・オブ・トラウマ 小西聖子 朝日新聞社

トラウマという言葉の正しい意味の説明から始まり、PTSDについてもわかりやすく解説されています。著者の小西先生は、犯罪被害者のカウンセリングを専門にしておられる方なので、PTSDの患者さんの治療体験も多く、それに伴い文章にも説得力があります。ただし逆に、トラウマの中でも犯罪や暴力にかたよった内容になっているともいえますが、それはこの本の欠点とは言えないでしょう。「トラウマは過去の悲しい出来事とは違う。思い出して悲しいと思って泣けるのはトラウマではない」「女性のほうがトラウマになりやすいとされる理由は、女性のほうが人に相談しやすいことが大きなポイントのひとつ」「PTSDの治療に一番必要なものは、安定した治療関係」などの記載は、著者が本当に患者さんを診ている優れた臨床家であることを表していると思います。(なお、引用の文章は原文通りではありません)

 

 心的外傷と回復 ハーマン著 中井久夫訳 みすず書房 1992年

PTSDの本家アメリカで一般の人にも専門家にも非常によく読まれている本で、トラウマの歴史からPTSDの診断・治療までを広くかつ正確にカバーしています。ただし著者(女性)は、自他ともに認める強烈なフェミニストで、この本の1行目にも「本書はその生命を女性解放運動に負うものである」とはっきり書かれています。これで読む気を失う人も、逆に読もうという意欲が出る人もいらっしゃると思いますが、いずれにしても「フェミニストの観点から書かれた」ということを頭においたうえで読むべき本といえます。事実と意見を慎重に区別して読みすすめれば、PTSDについての理解をかなり深めることができると思います。PTSDという概念の成立の背景には、アメリカでの社会運動がありますので、どの本にもある程度は著者の立場が反映するのは避けられないところです。なお、この本の著者は「慢性ストレスによるPTSD」を重視し、「複雑性PTSD」という病気を主張していますが、この考え方は特に賛否両論あるところです。

 

●● 心的外傷論の拡大化に反対する 下坂幸三
雑誌 「精神療法」 第24巻4号 pp.20-27. 1998年

元々は戦場体験のトラウマから始まったPTSDが、最近ではいろいろなストレスと関係した症状を表す病名として使われています。マスコミなどでの使い方にはひどい誤りがあるのは当然としても、専門家の間でもトラウマという言葉の使い方は統一されていません。特に幼児体験をどう判断するかについては議論が多く、トラウマと判断するかどうかによって診断も治療も大きく変わってきます。そういう現状に対し、「トラウマ理論をあまり拡大するのはよくない」と明確な意見を主張しているのがこの論文です。論旨は明確、文章の運びは冷静かつ論理的、かつ患者さんの本当の回復を願う気持ちが、感情に流されることなくしっかりと表現されています。上に紹介した「心的外傷と回復」への批判も書かれています。医学雑誌の論文ですが、専門家でなくても論旨は十分読み取れると思います。

 

近親姦に別れを --- 精神分析的集団精神療法の立場から --- ガンザレイン / ビュークリ 著   白波瀬丈一郎 訳   岩崎学術出版 2000年

心的外傷を受けた人々に対する精神分析的治療の貢献の可能性について、近親姦に焦点をあてて書かれています。大人から仕掛けられた近親姦を、単純に虐待という側面からのみとらえない本書の内容には、かなり衝撃的なものも含まれていますが、これこそが現実であり、そうした現実を直視したうえで治療していこうという著者の論述には説得力があります。トラウマというものの深い闇を感じさせる本といえます。

 

McLean LM and Gallop R: Implications of childhood sexual abuse for adult borderline personality disorder and complex posttraumatic stress disorder. 
American Journal of Psychiatry 160: 369-371, 2003.


虐待経験があると、境界型人格障害や複雑性PTSDになりやすいという研究はこれまでにいくつもありますが、この論文は、虐待を受けた年齢とこれらの病気の関係を調査したものです。どちらも、12歳以前に虐待を受けるとなりやすいという結果になっています。

 

外傷後ストレス障害(PTSD) 臨床精神医学講座 中山書店 1999年

PTSD全般について、それぞれの専門家が分担で執筆した、決定版ともいえる教科書です。歴史や生物学的な所見はもちろん、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件などの具体例についての論文もあります。分担執筆のために全体の統一性はありませんが、かえって偏りがなくなっているので統一性のないことが逆に長所とも言えます。ただし3万円もする本なので、専門に研究しようとでもいうのでなければなかなか買う気にはなりません。興味のある部分を図書館で読むのが現実的なところでしょう。

Schuster MA et al: A national survey of stress reactions after the September 11, 2001, terrorist attacks.  New England Journal of Medicine 345: 1507-1512, 2001 (Nov 15 issue) 

ニューヨークのテロ事件(2001年9月11日)を見た後に、ショックで(ストレスで、と言っても同じことですが)何らかの症状が出るようになった人がどのくらいいるか、またその人たちは症状にどう対処しているかについて、アメリカで行われた調査結果です。結果の抜粋は精神科Q&A「テレビでテロ事件を見てPTSDに?」「続きを読む」のページに簡単に紹介してあります。

ただし、この論文ではPTSDという言葉はどこにも使われていません。"trauma-related symptoms of stress"という表現にとどまっています。ストレスの後に何かの症状が出ると、ついすぐにPTSDと言う人が多いようですが、PTSDという言葉はやはり厳密に診断基準を満たす場合に限るべきだという立場を、このEngland Journal of Medicineの論文の著者は取っていることが、"trauma-related symptoms of stress"という表現に示されていると言えるでしょう。

 

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