うつ病の再発を予防する  


うつ病は治る病気です。ただし、再発することがあります。うつ病の治療については、数十年にわたる基礎的・臨床的研究により、抗うつ薬による治療法が確立されており、現在ではむしろ再発をどう防ぐかということが医学の研究テーマになっています。その結果、100%とは言えませんが、再発の予防はかなり可能になっています。

■ まず完全に治す

再発防止を考えるのは、当然うつ病が治ったときです。ただし、まず完全に治すことが第一で、これが意外とできていないことが多いものです。うつ病になる人は、もともと有能で責任感が強い人が多いので、つい早く仕事に復帰したいと考えるのもその理由のひとつです。一度は完全に治さないと、中途半端な状態がダラダラと続いてしまうことになりがちです。患者さん自身が「完全に治った」と感じてから、さらに1、2週間休むくらいがちょうどいいでしょう。

■ 生活にゆとりを持つ

一度完全に治ったら、病気になる前とまったく同じように、何でもできると考えてかまいません。たとえ症状が重くて入院した場合でも、別に後遺症があるわけではありませんから、特に心配はありません。ただ注意しなければいけないことは、なにかのストレスをきっかけにして再発することが多いということです。ストレスは、ゆとりのある生活をすることである程度は軽くすることができます。仕事でも家事でも趣味でもどんなことでも、完璧を目指すのはやめ、八分目くらいを心がけるのがいいでしょう。七分目と言ったほうがいいかもしれません。うつ病になる人の八分目は、平均から見れば九分目以上であることが多いので。

■ 責任感を持ちすぎない

うつ病になりやすい性格(メランコリー親和型性格)の人は、つい色々なことを自分で抱え込みがちです。最初はてきぱきとこなすことができても、いつかは能力以上のことを引き受けることになります。するといつのまにかストレスがたまり、再発しやすくなってしまいます。ほかの人にまかせられることは、相手を信頼してまかせることが必要です。

■ 再発の徴候に注意する

再発の徴候は人によって色々ですが、なんとなく疲れやすい、やる気が出ない、不眠がち、などが多いものです。こうした徴候を感じたら、生活を見直してゆとりを多く持つようにし、それでもあまり変わらないときは薬ののみ方を検討する必要があります。ほかの病気と同じように、軽いうちに治療を始めれば、早く治るものです。

それから、こうした徴候が現れる前に、生活上の変化があることが多いということも知っている必要があります。自分自身や身近な人の病気、引越し、転勤などは、大きなストレスになりがちです。また、ふつうは良いことでストレスと自覚しないこと、たとえば結婚や昇進なども、再発のきっかけになることがあります。ですからこうした生活上の変化があったときは、特に再発の徴候に注意するべきです。

それからもうひとつ、再発が「躁状態」という形で出ることがあります。やる気が出すぎる、よく喋る、寝なくても疲れない、などの症状です。こうなると診断は「躁うつ病(双極性障害ともいいます)」ということになり、治療法も変わってきます。抗うつ薬はむしろ症状を悪化させることもあります。ほうっておくとどんどん調子が高くなり、入院せざるを得なくなることもあります。早目に診断・治療することが重要です。

■ 薬をうまく使う

抗うつ薬は、うつ病の再発防止にも有効です。しかし、どのくらいの量をどのくらいの期間のむべきかというのは、とても難しい問題です。最近の研究によると、再発防止のためには、治療の時と同じ量の薬を続けるべきであるという結果がたくさん出ています。これは厳密な研究による結果なので、正しいことは確かでしょう。けれども、ひとりひとりの患者さんがどうするのがいいかというのは別の問題です。うつ病は再発する病気だといっても、1回も再発しない人もいます。10回以上再発する人もいます。どの人が再発して、どの人が再発しないかは、いまのところ予測する方法がありません。再発すると決まったわけではないのに、少量とは言えない薬を飲み続けるのはどうかと私は思います。もちろんこれまで何回も再発して、しかも再発するとかなり重い症状になる人は、きちんと薬を飲み続けるべきでしょう。それ以外の人には、再発予防の確率を最大にするには最初の量を飲み続けるのがよいというデータがあることを説明した上で、実際の飲み方は本人にまかせるのが現実的だと思います。実際には、1回だけうつ病になった人は薬をやめる場合が大部分で、2回以上なった人は少ない量の抗うつ薬を続けるというのが普通のようです。2回以上うつを経験した人は、再発の徴候などもだんだんよくわかってくるので、ストレスの時だけ多目に飲むなどの工夫をして、うまく薬を使うことで再発を防いでいることも多いものです。


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