精神科Q&A
【0564】自分はうつ病だったのか、治りかけているのかわかりません
Q: 29歳の女性です。2ヶ月前に「重度のうつ病」と診断を受け、仕事を休んでいます。
7年前からある新聞社で記者として勤務を続けてきました。
入社後、何度か落ち込みが続くことはあったのですが、仕事には積極的に取り組んできた方だと思います。もともと考え込みやすい性格であり、学生時代にも落ち込みと自信喪失、無気力感におそわれて「気分変調症」と診断されたことがあります。
数ヶ月前に報道の現場で担当替えがあってから気分のコントロールができなくなったような気がしています。最初は「有能な上司のもとで期待されて配置換えされたのだから頑張らなければ」と新しい分野の勉強を始め、やりがいも感じ始めていたのですが、慣れない仕事での緊張に加えて上司からの過剰な干渉や叱責が続き、毎日これまでにない緊張が続くようになりました。
上司は典型的な気分屋の親分タイプで、取材相手との世間話の内容やニュースの表現方法などこれまでトラブルもなくこなしてきたことすべてに干渉し、「おまえに人格はない」と言い切られ、ささいなミスでも激しく叱責されるような毎日が続きました。
最初は受け流していたのですが、気がつくと食べ物の味がしなくなり、夜中に何度も目が覚めるようになり、データが覚えられなくなったり、会議中誰が発言したのか思い出せずメモがとれなくなったり、知っているはずの人の名前がどんどんわからなくなって、ぼんやり座り込んだまま動けなくなってしまったり、友人と会うのさえ煩わしくなりました。また、これまでなら素直に受け止めてプラスの方向に生かせていた諸先輩からのささいなミスの指摘が「とりかえしのつかないことをしてしまった」重大なミスを犯したように思えて「なんて無能なんだろう」と落ち込んだり、涙が止まらなくなったりするようになりました。縄が自分の首に巻き付いているイメージが浮かぶようになり、気分転換に外出しても、逆に動悸が激しくなったり、イライラしたり、孤独感にさいなまれたりする状態の日が続いたので思い切って病院に行ったところ「重度のうつ病」との診断。投薬とカウンセリング治療を続け、先月から休職しています。
ただ、不安に感じるのが「本当に自分がうつ病なのか」ということです。治療を始めてしばらくはやむを得ず特集のための取材を続けていたのですが、その取材対象と会う時は自然に笑いも出ていましたし、取材時は食欲もある程度戻り、スタッフに冗談を言うこともできました。また、編集の際も切羽詰まった状況の中で様々な指示を出したり、仕事が一段落すると気分がすっきりしてとどこおりなく人と話せたりしていたのです。
「うつ病」との診断から3週間後、父が倒れてしまったせいで母が私以上に精神的にパニックに陥ってしまったので、母に替わって病院との交渉を引き受けましたが、自分の想像以上に冷静に対処している自分自身を見て、「もしかしたら仕事から逃げ出したかったから自己暗示をかけてしまったのだろうか、本当はうつではなく甘えているだけで、病気などではないのではないか」とふと思い始めました。
けれども父の病状が落ち着いてから数日後、突然母と話すのさえおっくうに感じて部屋に閉じこもるようになり、食欲も落ちて体重も一気に減りました。また、夜中に何度も目が覚めたり、逆に起きられなくなったり、人混みに出ると耳鳴りがしたり、顔中に吹き出物が出たり、動悸や発汗と悪寒を繰り返したりするようになってしまい、生理不順やひどい生理痛を感じるようになりました。
その状況だけを考えると明らかに正常ではないとは思うのですが、それでも2週間ほどすると落ち着き始め、休職開始から1ヶ月半経った今では食欲もわき、眠りも深くなり、気心の知れた人であれば数人で楽しく外食をする余裕も出てきました。こんなに早く快方にむかうものなのでしょうか。本当にうつ病なのでしょうか、それとも、自分で無意識にこれまでに得た知識を寄せ集めてうつ病のように自己暗示をかけているだけなのでしょうか。これも擬態うつ病なのでしょうか。職場では、仲のよい同僚などは「表情が変わった、疲れているようだけど大丈夫か」と声をかけてくれる人もいましたが、さほど親しくない人は「前日まで元気に楽しそうに仕事をしていたじゃないか。信じられない」と言います。
林: あなたはうつ病だと思います。擬態や自己暗示ではないでしょう。あなたが病院を受診されるまでの経過は、ほぼ典型的なうつ病です。
そして病院でうつ病と診断され治療が始まったのにもかかわらず(「重度」かどうかまではこれだけでははっきりしませんが)、ご自分がもしかしたらうつ病ではないのではないかと考えておられる理由を見てみますと、何とか仕事ができており、しかも仕事中は普段とあまり変わりなく笑ったりもできたこと、そしてお父様の思わぬご病気による危機にも適切に対処できたことだと読み取れます。確かにこれは、うつ病の診断基準にある、
「ほとんど一日中、ほとんど毎日の、すべて、またほとんどすべての活動における興味や喜びの著しい減退」
「思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる」
などとは一致しないものです。
けれども実際のうつ病では、あなたのケースのように、特定の状況ではかなり元気な時と同じように活動できることもしばしばあります。ただしそれは長続きはしないものです。お父様の病状が落ち着かれた後にあなたが、
突然母と話すのさえおっくうに感じて部屋に閉じこもるようになり、食欲も落ちて体重も一気に減りました。また、夜中に何度も目が覚めたり・・・
という状態になったのは、うつ病の診断を裏付けるものです。
うつ病の方が、一時的にせよかなり活動できる時というのは、その人がやらなければ他の人が困るというような、責任感が必要とされる状況であることが多いものです。この点で、【0406】、【0387】、【0200】などのケースのように、仕事はできないが遊びはできる、という場合とは根本的に違っています。うつ病の人の多くは、おそらくあなたもそうだと推測できますが、責任感が強いものです。
そして、責任感の強い方にみられる、病状が悪くてもなんとかがんばってしまうという状況は、うつ病の診断を遅らせ、それが治療の遅れにつながり、ひいては知らず知らずのうちにうつ病を非常に悪化させることにもなります。
幸い、と言う言葉は不適切とは思いますが、幸いあなたのケースではすでにうつ病と診断され、休養し、治療が始まっています。しかも順調に回復しているようです。
こんなに早く快方にむかうものなのでしょうか
というご質問もありますが、休職して1ヶ月半でかなり良くなった、というのは、決して例外的に早すぎる回復ではありません。うつ病の医学部講堂にある通り、薬の効果だけをとっても、2週間程である程度の効果はみられるものです。ぜひ余計な心配はせずに、治療に専念してください。あなたはうつ病です。そしてうつ病は治ります。