精神科Q&A

【0406】休職して遊びまわっている部下は擬態うつ病でしょうか


Q: 29歳になる職場の部下Aが、うつ病で休職して1年になります。しかし、時折職場に現れては、雑談をして帰っていきます。比較的陽気で饒舌に趣味を語るのですが、体調について尋ねると、「まぁなんとか、やってます」と答え、うつ状態もあるので体調の維持も難しく、食事も取れない日があり、また不眠も続くので、いろいろ睡眠薬を処方してもらい、日に15錠も薬を飲んでいるような状態で復職はまだまだ無理だと語ります。そうして辛そうな顔をして帰っていくのですが、また1週間ほどすると遊びにくるのです。
 
実は、この部下Aの話をまともに受け取れないのには2つの理由があるのです。
 
ひとつは、私がうつ病であり、現在はほぼ完治しているのですが、約3年ほど治療をしながら勤務を続け、うつ病の症状をよく理解しているからなのです。
 
当初、中途覚醒と早朝覚醒が繰り返され、睡眠時間はのべ4時間あればよいほうで、消化不良や頭痛、めまいなどに悩まされながらも、休むことができずに治療を行っていました。
 
どうも部下Aの症状はそれとはずいぶん違うようで、いろいろな薬を次々に処方してもらっても一向によくならないとのことです。
 
確かに精神科で知り合った方々の話を聞いても、そうした症状があることも知っていましたが、部下の口ぶりでは「自分は薬の効きにくい体質だ。主治医もそういって悩んでいた」と自慢しているようにすら見えました。
 
何種類も睡眠薬を処方してもらってもまったく効かないと言っていました。私も抗うつ剤や抗精神薬については勉強しましたし、実際に自分で体験しましたからまったく作用がないということがないことは知っています。
 
しかしAの口からは薬はいくら飲んでも(医者の処方以上に飲んでも)効かないと言っているのを聞きました。どうもこの点が不審でなりません。
 
もう一点Aの言葉を信用できない理由は、彼が体調不良で休んでいるにもかかわらず遊んでいるということです。彼が出入りしているネットのサイトをいくつか見つけてその日常を見ていますと、ほぼ毎週オフ会と称して遊びに行っているようです。彼の趣味は海釣りなのですが、まめに海に出かけ、それも早朝から船に乗り込んで沖に出るなどして、自分の努力と獲得した釣果を雄弁に語っています。
 
オフ会へ行ったとき以外の書き込みを見ても、釣りの道具についてのウンチクの他、ネット関連のこと、たとえばマニアに人気のゲームソフト(アニメとかエロとかだそうですが)を何日でクリアしたかということが延々と書かれています。
 
私の病気仲間にこの話をすると、「うつの時って、遊ぶ気にもならなかった」と言ってましたし、私もその意見に賛成します。
 
彼に復職を勧めると、強い口調で自分は病気なんだと言い張ります。どんなに自分がつらい状態か、あなたにはわからないんだと非難してきます。ネットで抗うつ剤の勉強をして、じっくり治療をしているんだ、と言いますが、一昨年ある抗うつ薬の副作用について新聞記事になったときには【0246】、「ああいう危険な薬は自分は使わないんだ」とまるで素人がマスコミの記事を鵜呑みにしたような言を発します。
 
どう考えてもAの行動はうつ病ではないと思います。他の神経系の病気なのでしょうか。
 
それとも擬態うつ病なのでしょうか。
 
先生のホームページを見ていて、擬態うつ病に感じたのですが、そうではないでしょうか。
 
ひとつ気がかりなのは、Aの主治医が頻繁に薬を変えていることです。彼も週1回くらいは病院へ通っているのですが、2週間くらいで新しい薬に変えると言っていました。彼が薬が効かないと主張するせいでもあるのですが、私がアナフラニールを処方されたときには、効き目が実感できないかもしれないが1ヶ月は続けてください、と言われ、2週間目から効果を感じ始めましたが、本当に効果を実感してこの薬は頼りになると思えたのは2ヶ月くらいしてからでした。
 
彼が本当にうつ病だとしても、合う薬が見過ごされているのではないかと心配です。


: この方はうつ病ではないと思います。ご指摘の通り、擬態うつ病でしょう。そう考える理由が、遊びに関しては十分以上のエネルギーを注いでいるということにあるのも、ご指摘の通りです。あなたやあなたの友人の方が、「うつの時って、遊ぶ気にもなれなかった」とおっしゃるのは、うつ病の方の典型的な症状です。「ほとんどあらゆることに興味を失う」というのが、うつ病と判断する際の重要な根拠になります。
 
もっとも、これは絶対の基準というわけではありません。仕事は全く不可能でも、趣味の活動はある程度までは可能というケースはあります。特に回復期にはそういう段階を経ることはよくあることです。
 
しかしそれはあくまでも「ある程度までは可能」というレベルであって、このAさんのように、仕事は休んでいながら趣味には人並み以上とも思われるエネルギーを注いでいる、というのは、決してうつ病の人には見られないことです。しかもそういう期間が持続しているようですので、尚更うつ病らしくありません。擬態うつ病の26ページ、「うつ病という診断書で休職しているが、実は休んで競馬にばかり行っている」という例によく似たケースに見えます。

この方には薬物療法の効果はあまり期待できないと思いますが、ご質問にある、「主治医が頻繁に薬を変えている」「2週間くらいで新しい薬に変える」というのは、もしそれが抗うつ薬だとすれば、うつ病の治療としては不適切で、これもご指摘の通りです。ですから、このAさんは、抗うつ薬の勉強をしている、と主張されているようですが、抗うつ薬治療のもっとも重要な点、つまり効果が出るまでにはかなりの時間がかかるという点が抜け落ちているように見えます。(あなたがアナフラニールによる治療で実感されたご経験は、抗うつ薬の効き方としてかなり一般的なパターンです)
 
なぜAさんの主治医が頻繁に薬を変えているかについてはわかりません。それ以前に、本当にこの方の言うように薬が変えられているのかどうかが疑わしいところですが、仮に本当だとして、しかもそれが抗うつ薬だとして、理由を考えてみますと、Aさんからの薬の変更の要求があまりに強いために不本意ながら応じている・そもそもうつ病の治療が得手でない・うつ病でないと確信して適当にやっている、などが一応は考えられます。あるいは、変えている薬は抗うつ薬でなく、抗不安薬なのかもしれません。抗不安薬の効果は比較的早く判断できますので、二週間くらいで変えるというのは珍しいことではありません。
 
 それはともかく、このケースでは、質問者のあなたご自身がうつ病のご経験があったために、このAさんはうつ病でないという的確な指摘が可能だったことは明らかです。うつ病を体験されたことはとてもつらかったと察せられますので、こういう言い方をするのは申し訳ないのですが、うつ病についての事実をご理解いただくという意味では良いパターンだったと思います。というのは、逆にこういう方を目にされた後にご自分がうつ病ないしその他のこころの病にかかられると、治療を受けることをためらうなどの弊害が生じ得るからです。たとえば【0387】の方は、「心の病気と医者が判断しても、どこか「うそっぱち」のような感覚」を持ってしまう」とおっしゃっています。第三者からの目はもっと厳しいでしょう。つまりこのAさんの同僚の方は、「うつ病なんて、病気とは認めない」という感覚を持ってしまうことは容易に想像できます。私が擬態うつ病を書いた意図のひとつは、こうした状況を危惧したということがあります。


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