精神科Q&A
【0200】 産業医から見た擬態うつ病
Q: 私は複数の企業で産業医をしている者です。専門は内科です。先生のお書きになった擬態うつ病を読ませていただきました。今まで産業医として「うつ病」という診断のついた社員に何人も接して来ましたが、今までの疑問が解決するような内容で、大変参考になりました。今まで一般的なうつ病やメンタルヘルス関係の本等の情報をもとに対応していたところ、下記のようなケースを経験し精神疾患の疾病利得(病気であることによって得している)ではないかとうすうす思っていたからです。
そこで教えていただきたいのですが、下記のようなケースもいわゆる擬態うつ病なのでしょうか? また、先生ならどのように対処されますか?
(ケース)28歳 男性 会社員
もともとうつ病の診断で通院中であったが、顧客とのトラブルがきっかけで休職するようになり、数ヶ月の休職の後、復職した。職場では主治医の意見や本人との面談等をもとにトラブル相手となった顧客の担当も外し、残業や出張も制限するなどの配慮を行った。しかし、復職後も体調不良を理由に遅刻することが多かった。しかし、結構、飲みに行ったり遊んでいるという情報もあった。そこで保健師から本人にそれとなく確認してみたが、本当に体調が悪いだけだと否定された。その後もよく遅刻等したが、上司はうつ病が朝がつらいことや、叱咤激励したりしてはいけないことをよく知っていたので、同僚の部下達に示しがつかないことを気にしながらも、様子をみていた。しかし、その後も夜に遊んでいるところを目撃した情報が相次いだこともあり、ついに上司は「いい加減にしろ!」と怒鳴ったところ、その後は遅刻することもなくなった。
林: この方はほぼ間違いなく擬態うつ病だと思います。その中でも、うつ病という病名を利用する、あるいは病人という役割に逃避するタイプだと思います。すでにお気づきとは思いますが、擬態うつ病のp.26の中頃の「同じ会社の後輩で・・」とかなり類似したケースに見えます。また、タイプとしてはp.86の自称うつ病に近い(またはぴったり)と思います。
もちろん擬態うつ病はこうした疾病利得を求める人だけとは限りませんが、最近では会社でご質問のようなケースへの対応に苦慮しておられる方(上司、同僚、産業医)が多いようです。それも、私がこの本を書こうと考えた動機のひとつです。
具体的な対応の仕方は微妙な点も多く、個々のケースによって変わってくるのはもちろんですが、原則としては、その職場での許容範囲を設定し、それを本人に明確に伝え、許容範囲を超えた場合には厳しい態度で接するべきであると私は考えています。
その意味で、上司の方が怒鳴ったという対応は正しかったと思います。ただしそれはあくまでこの方の場合ということで、どんな場合にも正しいというわけではありませんが。
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