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健康法依存

    

昭和の初めには栄養のあるものが売れた。
「グリコには栄養素八種含まれていますから、お子様方のおやつにはこれが一番です。」
これは当時のグリコの広告。いまだったらとても広告の文章にはなりそうにないが、子どもの栄養失調が気になる時代の感覚にはマッチしていたらしい。そういえば昔のグリコの箱には「一粒300メートル」と書いてあったが(今も書いてあるかどうかは知りませんが)、これも食べ物に困るような時代には魅力的なフレーズだったのだろう。病床から抜け出した芥川龍之介がダッシュしているようなグリコの絵も(これも今も書いてあるのかどうかは知りませんが)、昭和初期の人には共感を誘うものだったのかもしれない。みんなが一生懸命に栄養を求めていた。

今も栄養のあるものが売れる。
もちろん、「栄養がある」とストレートにアピールする広告はない。カルシウムが、ビタミンCが、ベータ・カロチンが、タウリンが、ポリフェノールが、そのほか何だかよくわからないがからだによさそうなものが含まれている、そういうことが今はセールスポイントになる。目新しいカタカナの名前をつけても、それが栄養素であることに変わりはない。医学的データという保証書を付けたところが昔との唯一の違いである。カルシウムにしても何にしても、それがからだにいいことを示す科学的データがあることは確かだ。しかしだからといって、たくさん取れば健康になれるというものではない。適量というものがあるし、ほかの物とのバランスもある。論文のデータと実際の商品の間には大きなギャップがある。健康を願う気持ちが冷静な判断を狂わせる。

だから健康法も売れる。
健康法のブームは長い。誰もが願う健康を維持する方法をブームというのは不適当なのだろう。けれども長続きしているのは健康法全体としてのことであって、ひとつひとつの健康法の寿命は短い。ぶらさがり健康法、XXX飲み健康法など、どれも最初は保証書付きで登場するが、続ける人はほとんどいない。健康法といっても、結果がすぐに見えるわけではないから、そのうちに面倒臭さが物珍しさを上回ってやめてしまうというのが健康な人のパターンだろう。続ける人がいないから本当に効果があるかどうかはなかなかわからないが、自分は健康にいいことをやっているという満足感があれば、心の健康にはいいかもしれない。それで本当にからだが健康になることもあると思う。ただし健康法そのものが害になる場合は別である。

アルコールが動脈硬化にいいとか、心臓病にいいとかいう情報も定期的にマスコミに登場する。「酒は百薬の長」という昔の人の知恵はやっぱり正しかった、というトーンになることが多い。しかしその一方で、アルコールはたくさんの病気や人の死の原因になるという厳然たる事実がある。そういうことを考えると酒は確実にまずくなる。アルコールの害を強調する人は、だから煙たがられる。有名なのはゴルバチョフだ。ゴルバチョフは反アルコール政策を強力に押し進め、国民の反感を買った。酒の販売は厳しく規制され、ロシアの人は酒を買うために長い行列を作った。その中で一番長い行列は、ゴルバチョフを刺そうとする人の列だったという話もある。しかしロシアではこの時期 (1984年から1994年にかけて) にアルコール消費量が減り、それにともなって国民全体の死亡率が激減している。反アルコールキャンペーンは結果としてロシアの人のからだによかった。あたりまえである。「酒は百薬の長」という諺には後半がある。正しくは「酒は百薬の長、されど万病のもと」という。昔の人の知恵はやっぱり正しい。

アルコールが動脈硬化を防止するという医学論文は実在する。しかしこれも最後まで読まなければならない。「アルコールは動脈硬化を防止する。しかし動脈硬化の予防のためにアルコールを飲んではならない。」と論文の中にはっきり書いてある。総合的に見れば、アルコールはからだに対しては害の方がずっと多いからだ。飲むなら煙草と同じように、からだに悪いことを承知の上で飲むべきである。健康のためとか、何かと理由をつけてアルコールを飲もうとする人は、すでにアルコール依存症の疑いがある。酒も適量ならいい、という一見もっともらしい言葉は、アルコールが依存性のドラッグであるという事実を軽く見すぎている。自分の意志では適量を守れなくなっていくのが依存性のドラッグの怖いところである。日本のアルコール依存症は240万人。アルコールによる国の損失は年間6兆6千億円。こういう数字は、アルコールの害は益を大きく上回っていることを示している。自分だけが例外的に害を受けないと虫のいいことを考えるのは、アルコール依存症のはじまりかもしれない。

 


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