精神科Q&A

【1999】うつ病の再発か、震災の影響か


Q: 高校生の子どもを持つ40代の母親です。出産後にうつ病と診断されました。その後継続して通院しないでしまったのですが、何度目かに受診した病院で再度うつ病と診断され、2年間抗うつ薬(デプロメール)を飲みました。量は不明ですが、徐々に減量して頂き、また当初飲んでいた睡眠薬(薬剤不明)も途中から飲まずに良くなり、通院とお薬が終了しました。最初の発症から6年経過していました。その後は育児と仕事をまずまず両立でき、再発もなく、自分でもかなり体力があると思えました。現在は、特に問題なく、幸せに過ごしています。 
 そして先月、3.11東日本大震災の被災者となりました。当日の仕事によっては、津波の被害にあっていたところだったのですが、スケジュールの関係で内陸方面にいたため、運良く無事でした。知人も亡くなり、何度も泣いたり、怖くなったりしましたが、何とか立ち直れました。
 しかし、震災から1ヶ月ほど経った頃から、非常に疲れやすくなってしまい、以前のように体が動かず、わけもなく落ち込んだり、何でもない時に泣くことが多くなりました。 また、家族には伝えていませんが、子どもが随分大きくなってから犯罪の被害に遭いました。その際にも落ち込んだり、何度も思い出して辛くなったりしたのですが、何とか乗り越えられました。しかし、先日偶然、私が遭ったのと同じ種類の犯罪シーンを見てしまい、それ以来、節電で日頃より暗い夜道が怖くなったり、犯罪被害を思い出して眠れなくなったりしています。 最近は、わけもなく死にたいと思うようになりました。
 死にたいという気持ちが出てくるのは、うつ病の再発かと思う一方、今回の地震で亡くなった方のことを思うと、そんなことを考えては申し訳ないと思います。今までも気持ちが落ち込むことがあっても、何度か自分なりに工夫して乗り切って来たので、大丈夫だと思う気持ちもあります。疲れて何も手につかない日もありますが、色々やれる日もあります。 この症状が、震災や過去を思い出したことでの一時的なものなのかどうか、通院の必要があるのか、教えて頂ければ幸いです。今はまだ病院も震災対応で皆さんお忙しいと思うので、必要のない通院でご迷惑をお掛けしたくないと思っています。よろしくお願いいたします。 


林: 震災の被災者となられた【1999】の質問者には、心よりお見舞い申し上げます。
質問者の現在の症状は、うつ病の再発だと思います。精神科を受診し、治療を受けることをお勧めします。

大災害の後に、心のケアが重要であることは、現代では多くの人々の共通認識となっています。
けれども、「心のケア」とは何を指すのかは、必ずしも明確とはいえません。
「心のケア」と同時によく知られるようになった言葉に「PTSD」があります。どちらも、日本では、1995年の阪神淡路大震災がきっかけで知られるようになった言葉といえます。
 では、震災をはじめとする大災害の後の「心のケア」として最も重要なのはPTSDの治療かというと、そうとは言い切れません。
それよりむしろはっきりした問題として数多くあらわれるのは、災害のために薬が飲めなくなり治療が中断したことによる再発(統合失調症、うつ病、躁うつ病、てんかんなど)や、災害の前までは寛解状態であった方に生じる、災害のストレスによる再発です。
 被災地の実際の状況を先入観なく見つめれば、これらが最大かつ可及的速やかに医療資源を投じるべき問題であることは明らかです。
にもかかわらず、この事実が報道されることはほとんどありません。メディアに登場するのはPTSDばかりです。
 PTSDが重要でないと言っているのではありません。それ以外の、災害以前から精神科の治療を受けていた人々の苦悩が隠蔽されているという事実を指摘しているにすぎません。
 元々は健康な人々の苦悩ばかりが報道されて前面に表れる、そこには、精神障害者の存在を無視しよう、さらにいえば、抹殺しようという、多くの報道者の姿勢があります。【1900】でも指摘した通りです。また、阪神淡路大震災の被災地の精神科医のこの言葉も、その問題を如実に現しています。
 3.11.後、私のサイトの読者からも、「被災地の身体障害者や知的障害者の苦労は報道されるのに、精神障害者のことは全くといっていいほど報道されないのは悲しい」というメールをいただいています。
 精神障害者の存在からは、目をそむけられている。残念ながらそれが現実です。
 これを解消するには、精神障害についての事実を一人でも多くの人に知っていただく以外にはないでしょう。
 私のサイトの精神科Q&Aは、質問される方へをはじめとして、各所に繰り返しお書きしている通り、医療相談ではありませんから、回答によって質問者の助けになることはあまりないでしょう。けれども、精神障害についての事実を一人でも多くの人に知っていただくという目標には、少しずつではあっても、向かっていると私は思っています。

【1999】の質問内容からそれてしまいました。話を元に戻します。
【1999】は、上記、「災害の前までは寛解状態であった方に生じる、災害のストレスによる再発」にあたるケースだと思います。
仮に再発でなかったとしても、今の状態は、精神科での治療を要するレベルです。

うつ病の再発かと思う一方、今回の地震で亡くなった方のことを思うと、そんなことを考えては申し訳ないと思います。

今はまだ病院も震災対応で皆さんお忙しいと思うので、必要のない通院でご迷惑をお掛けしたくないと思っています。


そのように、ご自分がとても苦しい時でも他の人のことを優先してお考えになるのは、うつ病に特有の思考パターンでもあります。
まずご自分のうつ病を治療し、それから後に、他の人のことをお考えください。うつ病が治れば、他の人のためにあなたの力を最大限に発揮できます。

(2011.5.5.)

その後の経過 (2011.6.5.)


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