精神科Q&A

 【0940】躁うつ病と睡眠障害


Q:私は22歳男性、学生です。病気になる前は下宿していたのですが、今は実家で療養しています。
 私は、半年前に躁状態を発症してしまいました。その前の年と前の前の年には、春先にうつ状態になり、神経科に通院中でした。
 躁状態になった原因は定かではないのですが、アルバイトをしていた店の店長と小さなことで衝突して、私からその店を辞めた頃から不可解な行動が目立つようになってきました。
 金銭感覚がなくなり、財布を持たずにポッケトに入れた小銭だけで生活しようとしたり、縁もない土地へ車で出かけて行ったり、軽い状態はそのような感じでした。しかし状態が重たくなってくると、学校のサークル仲間との会話が成り立たなくなったり、自分がとても偉い人物(私の場合は卑弥呼でした)になったかのような錯覚に陥ったりしました。また、電車に乗って知らない土地へ出掛けていってとぼとぼ歩いたりもしました。親しい友達にもわけのわからない電話をかけたりしていました。街の全ての人が私に注目しているかのように感じていました。
 古い旅館へ勝手に入って行き、そこの浴場を使おうとして警察のお世話になったこともありました。ほかにも躁のため騒ぎを起こして警察のお世話になったことは何回かあります。自分で振り返ってみても酷い躁状態だったと思います。最後にお世話になった警察の方が見かねて、入院施設のある精神病院に直接連絡を取ってくださり、親同伴のもと措置入院となりました。

病院ではトイレ付きの保護室に何日間か入れられていました。後から聞かされたのですが、はじめは食事をとろうとしなかったそうです。そこではどのような薬が飲まされていたのかわかりませんが状態は確実に落ち着いていきました。そのうち一般病棟に出られるようになり、トータル2週間ほどの入院でした。
 私が早く学校へ行きたいということを望んでいたからかわかりませんが、割と短い入院だったと親と後に話しました。病院の先生は『○○君普通だよ。周りの先生もそう話していたよ。』と言ってくれて、これでやっと普通の生活に戻れると思っていました。これが今年の春のことです。

しかし、下宿へ戻ってからの生活は、元気な頃と比べると手にとってわかるほど不安定な生活でした。落ち着きがなくなっていたのです。
 時間をどう過ごせばいいのかわからなくなっていました。一週間ほど経った頃たまらない不安感に襲われて呼吸も乱れて、父親に下宿まで迎えに来てもらいました。どうして不安になったのかは全くわからないのですが、独りで下宿生活ができなくなっていることは確実でした。ショックでした。

神経科の先生(入院していた所とは別の先生です)の話では、うつがでたということでした。私自身どうも春先に調子が悪くなるのでうつにならないよう炭酸リチウムを主とする薬を飲み続けていましたが、躁になってしまって病院へ行くことすら眼中になかったのです。

それから一進一退を繰り返し半年が過ぎました。
今では食事もしっかりとることができ、読書もできるようになりました。不安感もありません。精神的には落ち着いている感じです。
 学校の方ですが、残念ながら休学しました。皆は卒業してしまいますが私はあと一年しっかり勉強します。私は福祉大学へ通っていて、将来は福祉の仕事がしたいと考えているので、専門的な勉強が必要だと思ったのです。来年4月から復学することが今の私の望みです。

そこで困っていることがあります。普段、全く眠たくならないのです。疲れを感じにくいようにも感じます。転寝もできません。
 今は病院で処方してもらっている、レンドルミン2錠、リスミー、リスパダールで眠れはします。しかし朝が起きることができません。
 すると先生はリスミーを減らしてみてはとおっしゃり、そのようにしてみましたが、駄目なのです。今度は眠れません。
 私の躁うつ病は薬では治らないのではと思い、神経科から大学病院の精神科に病院を変えました。そこでは、電気けいれん療法が行われていたからです。
 病院の先生は電気けいれん療法はあなたには適切ではないと話されます。薬だけで病気が治るか心配です。
 またそこの病院では睡眠障害外来というのがあり、それも頼っていたのですが、あなたの場合は躁うつ病からくるものなので睡眠と病気を分けて考えることはできないといわれました。
 自分の力で眠れるようになるまでは、病気が治ったという証が得られず不安です。自然と眠れるようになって安心感を得たいのです。それでないと復学が遠のきます。
 先生、躁うつ病だと全く眠気が来ず、自分の力で眠れないのでしょうか?躁のときに何らかのショックで脳に障害があるのではとも考えてしまいます。
 薬なしでは眠れない状態は半年続いています。どうかよきアドバイスをよろしくお願いします。
 

: あなたの診断名は躁うつ病で間違いないと思います。ここ3年間でうつ状態が軽いものを含めて3回、躁状態は1回ですがその1回は保護室への入院が必要になるほど激しいものですので、躁うつの回数と症状の強さから考えて、今後は再発防止のために服薬を続けるべきでしょう。

躁うつ病は、躁状態とうつ状態の時期を除けば無症状というのが原則ですが、わずかに何らかの症状が残ることもあります。あなたの睡眠障害はその一つでしょう。ですから、

睡眠障害外来というのがあり、それも頼っていたのですが、あなたの場合は躁うつ病からくるものなので睡眠と病気を分けて考えることはできないといわれました。

これは理にかなった指摘だと思います。あなたの睡眠障害は躁うつ病の一症状ですから、治療の中心は睡眠障害そのものではなく、躁うつ病です。

神経科から大学病院の精神科に病院を変えました。そこでは、電気けいれん療法が行われていたからです。
病院の先生は電気けいれん療法はあなたには適切ではないと話されます。


これにも私は異論はありません。躁状態またはうつ状態が非常に強い場合、あるいは薬が効かない、または副作用などのため薬が使いにくい場合以外は、躁うつ病やうつ病に電気けいれん療法を行ってもほとんど意味はありません。(電気けいれん療法の適応の実例は【0517】【0865】【0895】などをお読みください)。

結論としては、根気よく薬物の調整を続けていくことだと思います。

今は病院で処方してもらっている、レンドルミン2錠、リスミー、リスパダールで眠れはします。しかし朝が起きることができません。
すると先生はリスミーを減らしてみてはとおっしゃり、そのようにしてみましたが、駄目なのです。今度は眠れません。


上記のように困っておられることはわかりましたが、これ以外にもまだまだ試みるべき薬物療法はあります。薬ではうまくいかないと悲観するのは時期尚早です。

躁のときに何らかのショックで脳に障害があるのではとも考えてしまいます。

そういうことはあり得ません。

自分の力で眠れるようになるまでは、病気が治ったという証が得られず不安です。

そのような考え方をしないで、とりあえず薬の調整をしながら復学に向けていこう、という程度に軽く考えることをお勧めします。

それから具体的な薬物療法についてですが、私の印象としては、このメール全体のトーン、さらに、

自然と眠れるようになって安心感を得たいのです。それでないと復学が遠のきます。

このような睡眠へのこだわりから考えると、現在のあなたはまだ軽いうつ状態にあるのではないかと思います。だとすれば睡眠障害はうつ状態の一症状でしょう。その場合は、今後、睡眠を改善するために調整すべき薬は睡眠薬だけでなく、抗うつ薬も必要ということになります。あなたのように激しい躁状態が過去にあると、躁転を警戒してなかなか抗うつ薬を強くしにくいのですが、ここは睡眠障害の改善のためにも、抗うつ薬の慎重な増量を、私なら計画すると思います。それによって、

来年4月から復学することが今の私の望みです。

あなたのこの望みはスムースにかなえられると思います。



その後の経過(2006.6.5.)


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