精神科Q&A

【0865】70歳の母のうつ病が悪化し、食事がほとんど摂れない


Q私は40歳女性です。 うつ病の母についての質問です。
お伺いしたいのは、(1)うつ病と診断されて治療を受けているにも関わらず、最近、急に症状が重くなったように見えることについて、どの様に考えられるのかと言う点と、(2)食事ができずに大変弱ってきているの ですが、どう対処すべきかと言う点です。もともと糖尿病を患っていることもあり、食事の面は大変憂慮しております。 

 以下に、経過・投薬についてまとめておりますが、一緒に暮らしていないこともあり、完全には把握していない点もありますことを御了承ください。 

 母は現在70歳、父と二人で暮らしています。7年程前より糖尿病の治療を受けていますが、こちらの方は概ね良くコントロールできていました。うつ病に関しては、1年半程前の初冬より、「食事の準備のために買い物に行っても何を買って良いのか分からない」、「深夜に目覚めてしまい、以後、朝まで眠れな い」、「習い事で続けていた茶道や習字に、気持ちが向かなくなってきた」等の症状が観られる様になり、半年前に精神科を受診してうつ病と診断されまし た。ここではパキシル10 mg /日と睡眠薬(薬剤名は分かりません)、頓服としてデパスが処方されました。 

 1ヶ月程この服用を続けた段階で、本人が糖尿病の主治医に精神科には通いたくない旨を相談し、以降はその内科でルジオミール25 mg /日とデパスの処方をして頂くことになりました。母はこの内科の主治医をとても信頼していた様子で、約1ヶ月半程度で大変元気になりました。4ヶ月程続いた症状は、概ね上記の様なもので、家事も今まで通りにできておりましたし、気が乗らないと言いつつ、習い事も中断せずに続けておりました。 

 症状が無くなっても、そのままルジオミールとデパスの服用を一年弱続けておりました。この間に、病院の都合で内科の主治医は別の方に変わっています。 4ヶ月前、薬にばかり頼っていては良くないと本人が希望し薬を中断したところ、以前と同じ様な症状が急に観られる様になり、2週間後より、同じ処方を再開して頂きました。1ヶ月経っても症状は徐々に重くなっていく一方なのに同じ投薬が続いておりましたので、さらに1週間程してから、以前受診した精神科とは別の心療内科を受診し、この時点では、ドグマチール100 mg/日、デプロメール50 mg/日とデパス、サイレースの処方を受けました。 

 3週間程この服用を続けておりましたが、この間に急に症状が重くなり、一日中寝たまま食事も取らないことが頻繁に起こる様になりました。体重も5kg程減り、また、糖尿病に関する数値(血糖値やヘモグロビン1Ac)も悪化してきました。心療内科の受診の際には、父も同伴して事情を良く説明するように勧めたのですが、本人が頑として聞き入れずに一人で受診し、全く同じ処方を1ヶ月分受けてきました。心療内科の医院に余り通いたくないので、自分から頼んで1ヶ月分出して頂いたそうです(現在はそれから2週間程です)。おそらくは、症状について先生に正直に話していなかったものと思われます。 

 この連休中に帰省し、私も直接母の様子を知ることができました。ベッドから出て着替えてはいますが、殆どソファーに伏せっているか、家の中をうろうろ している状態です。食事も飲み物も、半日以上、全く受け付けないことが続き、平均して一日に一食、通常の量の3分の1程食べるのがやっとです。本人曰く、「食べ物を見るのもいや」、「どうしても喉を通らない」、「食べても味がしない」と言った状態で、体重もさらに数キロ減少し、足腰も見る間に弱って きています。便も二十日近く出ていないため、糖尿病の主治医を受診したところマグネシウム剤が出ましたが、一日3回服用して6日目の今日の段階では未だ 便は出ていません。受診した際に輸液(おそらくブドウ糖液)を受け、その日はいつもより顔色も良く、多少、調子も良い様でした。糖尿病の主治医は、糖尿病のコントロールのためにも、まずはうつ病の改善が大事だとおっしゃっています。 

 数日前に心療内科を父同伴で受診し、症状についても詳しく説明しました。今回の処方は、ドグマチール150 mg/日、デパス1 mg/日、デジレル錠25 mg/日、サイレース、漢方便秘薬が1週間分です。当日、輸液(内容は分かりません)も受けました。新しい処方になって未だ3日目ですので効果について 云々できる段階ではありませんが、食事はいよいよ受け付けなくなり、少量の牛乳やリンゴジュースを父がなだめすかして飲ませている状態です。糖尿病のこともあり、食事の問題にどう対処すれば良いのか、食事が取れない日にはいずれかの病院でブドウ糖などを輸液して頂いた方が良いのか、御意見をお聞かせ下さい。また、上記の通り、2週間程の中断を除いてずっと抗うつ剤の服用を続けていたにも関わらず、この1,2ヶ月で急に症状が重くなっていることも心配です。母のうつ病の経過について、先生の御意見を伺えればと思っております。 
長々と書き連ねましたが、宜しくお願い致します。 


: 結論を先に述べますと、電気けいれん療法を早めに考慮すべきだと思います。躊躇していると手遅れになる可能性があります。

お母様の診断はうつ病で間違いないでしょう。ルジオミールが功を奏していたのが、中断により再発した形です。すなわち、

 症状が無くなっても、そのままルジオミールとデパスの服用を一年弱続けておりました。この間に、病院の都合で内科の主治医は別の方に変わっています。 4ヶ月前、薬にばかり頼っていては良くないと本人が希望し薬を中断したところ、以前と同じ様な症状が急に観られる様になり、

この時点が再発です。これに対し、

2週間後より、同じ処方を再開して頂きました。

これは自然な対応ですが、

1ヶ月経っても症状は徐々に重くなっていく一方なのに同じ投薬が続いておりましたので、

当然ながらこの治療は疑問です。ルジオミールを増量すべきだったでしょう。
もっとも、

さらに1週間程してから、以前受診した精神科とは別の心療内科を受診し、この時点では、ドグマチール100 mg/日、デプロメール50 mg/日とデパス、サイレースの処方を受けました。

この処方がよくないとは言えません。効果が出る可能性はあったと言えます。
しかし、

 3週間程この服用を続けておりましたが、この間に急に症状が重くなり、一日中寝たまま食事も取らないことが頻繁に起こる様になりました。体重も5kg程減り、また、糖尿病に関する数値(血糖値やヘモグロビン1Ac)も悪化してきました。

この状態を見ますと、この時点で薬を増やすか、あるいはルジオミールに切り替えるべきだったと思います。このあたりが、薬での治療の最後のチャンスだったように見えます。
もっとも、

心療内科の受診の際には、父も同伴して事情を良く説明するように勧めたのですが、本人が頑として聞き入れずに一人で受診し、全く同じ処方を1ヶ月分受けてきました。心療内科の医院に余り通いたくないので、自分から頼んで1ヶ月分出して頂いたそうです(現在はそれから2週間程です)。おそらくは、症状について先生に正直に話していなかったものと思われます。

このように、主治医の先生に病状が伝わっていなかったのであれば、薬の変更を望むのは無理だったでしょう。
そして最近の状態は、かなり悪いと言えます。

食事も飲み物も、半日以上、全く受け付けないことが続き、平均して一日に一食、通常の量の3分の1程食べるのがやっとです。本人曰く、「食べ物を見るのもいや」、「どうしても喉を通らない」、「食べても味がしない」と言った状態で、体重もさらに数キロ減少し、足腰も見る間に弱ってきています。

特に高齢の方でこのように食事が摂れなくなってくると、治療はどんどん難しくなってきます。衰弱してきて薬の副作用も出やすくなるからです。そして症状が薬の副作用なのかうつ病の症状なのかもわかりにくくなってきます。また、この方の場合は糖尿病もあるので、食事が摂れないことの悪影響はさらに大きいでしょう。

便も二十日近く出ていない

この原因は、食事が摂れないこと、薬の副作用、うつ病の症状のいずれの可能性もあります。この段階ですとそれを見分けることはほとんど不可能でしょう。そして、これだけ強い便秘は、イレウス(腸管麻痺)につながる可能性が大です。イレウスになりますと、抗うつ薬は中止せざるを得ず、うつ病の治療が出来ないばかりか、手術が必要になることもあります。

 数日前に心療内科を父同伴で受診し、症状についても詳しく説明しました。

残念ながら、これは遅きに失した感があります。

今回の処方は、ドグマチール150 mg/日、デパス1 mg/日、デジレル錠25 mg/日、サイレース、漢方便秘薬が1週間分です。

これまでの経過を見ますと、この処方で改善に向かうことはあまり期待できないでしょう。

新しい処方になって未だ3日目ですので効果について 云々できる段階ではありませんが

それはもっともですが、

食事はいよいよ受け付けなくなり、

このままでは衰弱がひどくなり、うつ病の治療はどんどん難しくなります。

2週間程の中断を除いてずっと抗うつ剤の服用を続けていたにも関わらず、この1,2ヶ月で急に症状が重くなっていることも心配です。

これは、症状の重さに対して抗うつ薬の量が少なすぎた(あるいは抗うつ薬の種類が不適切だった)ためです。抗うつ薬は、適切な量を飲んではじめて効果が出る薬ですから、1ヶ月飲もうが半年飲もうが、少ない量では全く効果はありません。

 それはともかく、問題は現在の状態です。
 高齢者のうつ病で、薬の効果がまだ見られず、食事が摂れず、衰弱が進んでいる状態と要約できます。このまま悪化が進めば(実際、悪化が進む可能性のほうが良くなる可能性よりずっと高いでしょう)、衰弱のため副作用が強く出て薬を減らさずを得ず、悪循環に陥るでしょう。つまり今の治療法ではいわゆるジリ貧になるのが見えているということです。対策としては、まずは入院です。入院して定期的に点滴し、また糖尿病のコントロールも緻密に行うべきです。そしてうつ病に関しては、この回答の最初にお書きしたように、電気けいれん療法しかありません。電気けいれん療法というと躊躇されるかもしれませんが、今のお母様の状態では、電気けいれん療法の副作用よりも薬の副作用のほうがはるかに危険です。そして、このまま躊躇していて衰弱が進むと、電気けいれん療法も出来なくなるおそれがあります。入院、そして電気けいれん療法。これが今のお母様には最善の治療法だと思います。迅速な決断が望まれます。



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