精神科Q&A
【0517】7年も続いている私のうつ病は治るのでしょうか
Q: 46歳男性、家族は妻と子供2人です。
林先生のこのページを拝見しますと、うつ病は治ると随所で書かれています。私は今、その事について強く絶望的な気持ちになっています。是非、以下の私の病歴をお読みになっていただいて、絶望するような事なのかどうか、忌憚ないご指摘をいただければ幸いです。どうか、どうかよろしくお願いします。
発病は7年前(39歳)でした。営業職として順風満帆の状態でした。ただ、上司が非常に厳しい人でまた、社風として人間性の部分まで立ち入って指導する面があり、中間管理職となった頃から、次第にそれがこたえるようになりました。気がついたら、早朝覚醒・気分の落ち込み・出社しようにもできないような状態となり、すぐに心療内科を受診しました。軽いうつ病との診断でプロチアデン・ルジオミール(分量は忘れました)を投薬され、その時は半年ほどで寛解となりましたが、3ヶ月後再発し、今度は閉鎖病棟のある古くからの個人病院を受診しました。これまでその病院で6年間の間に2ヶ月ほどの入院を2回し、(2回目は自殺未遂によるものでした)それに伴って休職も3ヶ月ぐらいずつしました。
症状は、早朝覚醒・日内気分変動・気分の落ち込み・精神運動抑制などです。6年間いい時も少しの間ありましたがまたぶり返すといったような状態でした。その間の投薬内容は、SSRIやSNRIが出るまでは三環系抗うつ薬のアナフラニール75mgノリトレン75mg、それと四環系抗うつ薬のルジオミール30mg(1日あたり)をメインに、後はソラナックスやロヒプノール、レンドルミン等でした。アナフラニールの静脈点滴も1ヶ月ほど連続して行いましたが効果はありませんでした。ルボックスが出てからは三環系抗うつ薬にプラスして試しましたが効果がありませんでした。ただトレドミンは少し効果があり1ヶ月間ぐらいは今までになく症状が出ないこともありまして、その後は三環系抗うつ薬各75mg+ルジオミール30mg+トレドミン100mgで投薬を受けていました。
今年になって、希死念慮が出るぐらいまで落ち込み、また日内気分変動(午後2時ごろを過ぎると本当に霧が晴れるように気分が楽になります)も出たためトレドミンを150mgまで増量しました。6年間お世話になった主治医にどうしたらいいか聞いたところ、先生は身障者の3級の認定をするので会社をやめ静養するようにとの事でした。とてもショックでした。治らないと受け取りました。
が、その一方で私なりにいろいろなうつ病の本を読み、そのなかの一冊の本の著者のいらっしゃったある大学病院を受診してみました。そこでは私が自殺未遂事件を起こした頃から書き始めた病状を主体とする日記を持参しました。先生方の日記の分析によると悪い時もあるが、いい時もあるのは確かな事。それは双極U型とは言わないがもし双極V型があるのなら、そういうものであって6年間も治らなかったのは単なるうつ病ではなく、そういったいわゆる波のあるタイプだからそれなりの治療をする。といったものでした。
そこで5ヶ月ほど前から3ヶ月入院し、双極性障害に使うリーマスを血中濃度が1.0mgにあがるまで、最終的には1200mg飲んでいます。トレドミンも効果があったということで120mg。長年飲んだ三環系抗うつ薬及びルジオミールは徐々に0まで減らしていきました。寝る前にレンドルミンとテトラミド(30mg)です。病状は今までになく退院時までずっと上り調子で、このままいけばと願いました。
退院した翌月から下り坂になり、具体的には精神運動抑制状態で心のバッテリーがきれたような、ようは昼間から静養しているのになにもできずただ横になっているだけというような状態になりました。感情・情緒面は大丈夫だったのですがここ一週間また涙ぐんだり、希死念慮が出始めています。大学病院の先生はこれが一過性のものなのかどうか首を傾げています。私はまただめだったのかと絶望する状態です。このまま一生この病気と付き合わなくてはならないかと思うと本当に落胆してしまいます。
以上のような経過なのですが、林先生、私のようなうつ病でもいつかは治るのでしょうか。忌憚のないご意見教えてください。よろしくお願いします。
林: 電気けいれん療法を試みるべきだと思います。その効果は十分期待できます。これまであなたが受けておられた、薬を中心とする治療でも、いつかは治るとは思います。しかし、それにはまだ期間がかかりそうです。電気けいれん療法を試みる時期にきていると思います。
回答のポイントを先に言ってしまいましたが、まずあなたの診断はうつ病で間違いないと思います。うつ以外の症状についての記載がありませんが、もし双極V型があるのなら、そういうものであって6年間も治らなかったのは単なるうつ病ではなく、そういったいわゆる波のあるタイプ
と医師から言われたということは、うつ以外の、軽い調子の高さのような波があったのだと思います。しかもあえて「双極V型」と新語を使って表現するほどですから、ごく軽い波だったのでしょう。それがあなたの症状なのか、それとも薬によるものなのか、判断は難しいと思いますが、それまで6年間長引いていることとあわせて、リーマスの追加は適切な治療だったと思います。そしてリチウムの血中濃度が1.0になるまで増量されていますので、リーマスによる治療としては十分行われていると思います(これに対し、【0501】の方の受けられたようなリーマスの処方は意味がありません)。そして、その甲斐あって、上り調子で退院されている。
ここまでは良かったのですが、残念ながら
退院した翌月から下り坂になり、具体的には精神運動抑制状態で心のバッテリーがきれたような、ようは昼間から静養しているのになにもできずただ横になっているだけというような状態になりました。感情・情緒面は大丈夫だったのですがここ一週間また涙ぐんだり、希死念慮が出始めています。
というように短期間でまた悪化してしまっています。
私はまただめだったのかと絶望する状態
になるのもよくわかります。
実際には、まだまだ薬物療法の余地はあります。抗うつ薬の効果が不十分だった場合、他の薬を加えることで、症状が好転することは時々あります。この場合、加える薬のことを増強薬と呼ぶこともあります。その代表がリーマス(炭酸リチウム)ですが、その他に、デパケン(バルプロ酸)、テグレトール(カルバマゼピン)、チラーヂン(甲状腺ホルモン)、リタリン(メチルフェニデート)などがあります。ですから、あなたの症状を薬で完治させることができるかできないか、まだわかりません。
けれども、すでに7年もうつ病で苦しんでおられる。しかも、その期間の薬物治療は量的にも適切だった(これがポイントです。うつ病が長引いているとおっしゃる方の大部分は、十分な抗うつ薬の治療を受けていないものです)。そしてあなた自身、なかなか治らないことに落胆しておられる。おそらく職場やご家庭でも居心地の悪さを感じておられるのではないでしょうか。うつ病が長引くと、そうした二次的影響のため、余計つらくなってしまうものです。
こうした場合には、電気けいれん療法を試みるのが最善です。長年の間、薬で治療を受けて改善しなかったうつ病の方が、電気けいれん療法で奇跡のように改善されることはよくあります。いま奇跡のように、と言いましたが、電気けいれん療法の効果は奇跡ではありません。実証されている事実です。あなたのケースでは、この治療を第一にお勧めします。