精神科Q&A
【0501】気分障害がないのでうつ病ではない?
Q: 現在51歳の夫は大手建築会社に勤務していましたが、約10ヶ月前ころより現在に至るまで、うつ病のため休社しています。15年前に一度躁うつ病で一年半入院した経験があります。
今回、寝たきりになってから、半年ほど前にはリチウム(20r錠)を昼間のみ一回服用していました。しかし効果がなくやめました。
その後2週間程、朝昼覚醒するための薬(薬名不明)を服用していましたが、合わなかったのでやめ、最近よりトレドミンのみ朝晩服用するようになりました。
10ヶ月前の発症から3ヶ月ほどは寝たきりで、その後2ヶ月ほどはプールに通う、家のことをするなど回復したかと思いましたが、その後は現在まで、寝たきりでトイレの時のみ起き上がるような状態が続いております。テレビを一日中つけていて、新聞も読んでいるようです。運動を全くせず、食事も日に一回程度少量しか食べないので、やせ細ってしまいました。
医者には2週間に一度、近所に通院しています。毎回の診察は5分くらいです。
また「○○さんを診療していると悲壮感などは感じられず気分障害、情緒障害はない」と医者に言われております。
ただ体がだるいのみで、医者はこういう症状を扱うのは初めてだと言っております。10割中の2割のうつの症状と説明されました。
このままこの医者にかかって、寝たきりにさせておいたままでよろしいのでしょうか。
林: 悲壮感のないうつ病もあります。ただ体がだるいだけといううつ病もあります。もちろん体がだるいというだけでは、うつ病以外にもいろいろな原因が考えられますが、このケースでは、これまでの経過からいって、うつ病の症状と判断できます。ということは、抗うつ薬できちんと治療すれば治るということです。
主治医の先生の言葉のなかの、「気分障害はない」という表現は、ひっかかるところです。うつ病は、気分障害の一種です。つまり気分障害というのは、症状ではなく、病名(あるいは複数の病名の総称)です。
しかし、言葉尻をとらえるのはあまり意味がないかもしれません。医師の患者への説明では、わかりやすくするためにあえて厳密な用語を使わないことも多いものです。
あなたのご質問のポイントの、
「このままこの医者にかかって、寝たきりにさせておいたままでよろしいのでしょうか」
についてお答えするには、メール記載の情報が足りません。もしこの医者が、「今の症状はうつ病ではない」と判断しているのなら、医者は変えたほうがいいと思います。メールの文面からは、うつ病といっているのかいっていないのか、わかりかねます。「10割中の2割のうつの症状」というのは、私には意味不明です。
また、うつ病と判断されていると仮定すると、次は今の治療が適切かどうかということになります。しかしこれは、薬の量が書かれていませんので判断できません。トレドミンを朝晩お飲みになっているとのことですが、抗うつ薬は十分な量を十分な期間飲むことが必要ですので、量の記載がないと残念ながら何も判断できません。
それから、今回寝たきりになってからリチウムを飲んだが効果がなくやめたと書かれています。リチウムは20mg錠と書かれていますが、20mg錠というのは存在しませんので、200mg錠の誤りでしょう。だとしても、一日200mgだけを飲み(ここでも期間が不明ですが)、効果がないのでやめた、というのは、それが事実だとすれば、薬物療法としてはでたらめな方法です。リチウムは、血中濃度を測定しなければ、量が適切かどうかはわかりません。また、測定するまでもなく、一日200mgで有効な血中濃度に達するとは通常は考えられません。つまり一日200mgだけのリチウムを飲むというのは意味のないことです。ですから、検査もせず、単に一日一錠のリチウムを飲み、効果がないのでやめた、というのは、でたらめな治療ということになります。もしこれを行ったのが今の主治医の先生だとしたら、その先生は薬物療法についてはあまり信頼できないということになるでしょう。
また、
「ただ体がだるいのみで、医者はこういう症状を扱うのは初めてだと言っております」
ここでの「こういう症状」が、正確には何を指しているか不明ですが、もし「体がだるいのみ」ということを指しているのであれば、うつ病でそういうことは十分ありうることですので、この医師のうつ病治療の経験は十分でないと推測することもできます。
というようなことは考えられますが、さきほど言いましたように、今の治療を続けるのがいいかどうか、このメールの情報だけからはわかりかねます。
ただひとつはっきり言えることは、ただ体がだるいだけで、悲壮感がないうつ病もあるということです。そしてそれは、うつ病が長引いて、他の症状がよくなったときに比較的よくみられるものです。あなたのご主人はうつ病だと思います。適切な治療を受ければ治るでしょう。