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 自律神経とは?


私たちのからだを調節する神経は、自分の意志とは関係なく働くことがあります。たとえば、何かにとても驚いた時や、緊張した時。心臓の鼓動は速まります。皮膚にはしっとりと汗をかき、呼吸は速くなります。筋肉は緊張し、目は大きく見開かれることもあります。血圧が上がったり、毛が逆立ったりすることもあります。からだにこういうような変化を起こす神経をまとめて交感神経といいます。交感神経は、自律神経の一種です。

自律神経は、もちろん人間だけが持っているものではありません。たとえば、犬にほえられた猫のことを考えてみましょう。毛を逆立てて、目を大きく見開いて犬をにらんでいます。いつでも跳躍できる姿勢をとっています。血圧が上がり、心拍数も増えています。身の危険を感じているのです。もし犬がむかってきたら、すぐに逃げるか、そうでなければ闘わなければなりません。心拍数や血圧を上げるのは、からだのすみずみまでエネルギーを送ることによって、素早い運動の準備をしているのです。毛を逆立てるのは、自分を大きく見せて犬を威嚇するためでしょう。

生物が自然界を生き抜くためには、逃げるか、闘うかの場面で、素早くしかも適切に行動することが必要です。交感神経系は、もともとはそのために発達したものです。私たち人間が緊張したときの反応も、猫が犬にほえられたときの反応も、もともとは同じものです。ですから交感神経系の反応の中には、自然界で生きるためには必要でも、複雑な人間社会ではあまり役に立たなくなっているものもあります。たとえば、人前で話すときや試験の前などに緊張するとドキドキしますが、別に素早い運動をするわけではありませんから、ドキドキしても準備としては役に立ちません。これは、交感神経系がもともとは運動の準備として発達したという進化の名残と言えるでしょう。

ところで、人間も動物も、いつも逃げるか闘うかという状況の中で生きているわけではありません。静かに休んでいる時があります。ゆっくり物を食べ、消化し、さらには眠るという時があります。こうした休息の時に働く自律神経を、副交感神経といいます。副交感神経は、食欲や睡眠、消化管の運動を調節します。

逃げるか闘うかのための交感神経。休息のための副交感神経。交感神経と副交感神経は、バランスを保っています。このバランスは、自分の意志で保とうとする必要はありません。まわりの環境に応じて、からだが自然に調節しているのです。ですからこれを自律神経といいます。自律神経がきちんと働いていてはじめて、人間や動物は健康な生活を送ることができるのです。

では、自律神経失調症とは何でしょうか?

眠れない、食欲が出ない、なんとなく元気が出ない、急にドキドキする・・・などの症状があって、検査しても特に異常がないと、「自律神経失調症」と言われることが多いようです。確かにこういう症状は、自律神経系の症状です。けれども、原因が自律神経にあるというわけではありません。もし自律神経に原因があるのなら、自律神経は生物が生きるためにとても重要な神経系ですから、重大な病気ということになるでしょう。自律神経失調症というのは、そうではなくて、単に自律神経系に症状が出ている、という程度の意味です。交感神経と副交感神経のバランスは精妙ですから、ちょっとしたことで微妙なくずれが出やすいのです。たとえば心理的なストレスによってくずれることがあります。身体の病気があれば必ずくずれると言ってもいいでしょう。うつ病やパニック障害のこともあります。アルコールの飲みすぎも原因になります。つまり、あらゆる病気やストレスに対する反応として、自律神経系に症状が出てくるのです。

ですから、「自律神経失調症」といっても、原因については何もいっていないのと同じです。症状を表しているだけです。症状だけに基づいて病名をつけるのは、別に間違ったことではありません。ただ気をつけなければいけないのは、「自律神経失調症」という名前をつけることによって、患者さん本人も、それから時には医者の方も、何かその症状のことがわかったような気になってしまうと問題です。症状だけに基づいてつけた病名というのは、たとえば頭が痛いという患者さんに対して「それは頭痛ですね」と病名をつけているのと大して違いはありません。別の言葉で言い換えているだけなのです。自律神経系の症状が出ていると認識するところまではいいでしょう。次にどうするか、という姿勢が大切です。それがないと、「自律神経失調症」という曖昧な病名の弊害だけが出てきてしまうことになるでしょう。

 

 


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