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ネットによる相談についての私の考えを少し述べてみたいと思います。(パソコン/ネット依存症の書斎というコーナーには適さないテーマかもしれませんが)

 

  匿名の質問にも、他人についての質問にも回答している理由(2001.10.5./2003.7.5.)

 Dr. 林のこころと脳の相談室には、毎月200通ほどのメールを頂く。質問者自身の悩みや医療についての質問がいちばん多いのはもちろんだが、家族についての質問もかなり多い。それだけでなく、友人や同僚についての質問を頂くこともある。さらには、関係のよくわからない知人などについての質問もある。精神科Q&Aでは、そういう質問に回答することも多い。それはよくないという意見もある。

ネットの利点は言うまでもなく、相手が誰かわからない、顔を合わせなくていい、ということである。それが同時に欠点にもなるというのもまた常識である。つまり、メールを書いて質問している人が、本当は誰なのかわからない。また、他人のことを質問している場合、その他人に対して、メールを書いている人が本当はどう思っているか、どういう立場かがわからない。悪意がないとは言い切れないのである。

もっともな意見である。質問者が何らかの悪意を持っている可能性も、零点何パーセントかはあるだろう。そういう可能性はあるが、大部分は、その他人のことを心配しての質問だと思う。少なくとも私はそう思っている。自分のことや、自分のまわりの人のことを、直接医師にはなかなか聞きにくいが、ネットでちょっと専門家に聞きたいという人は多いと思う。

そう思う理由のひとつは、日常からの実感である。つまり、ネット以外でも知り合いからそういう相談を受けることはよくあるからである。では、医者の知り合いがいない人は誰に質問したらいいのか。ネットが頼みの綱になるのではないか。それこそ藁にもすがる思いかもしれない。それには回答したい。

そういう考えは、ナイーブすぎると言われればそれももっともかもしれない。零点何パーセントでも、悪意の質問があったらどうするのか。たとえば、病気を隠そうとしている友人の病名を知るためにネットに質問していたらどうするのか。たとえば、何かの裁判中で、自分に有利な意見を引き出そうとしていたらどうするのか。

そういう問題を避けるためには、他人についての質問には一切答えないか、あるいは少なくとも住所氏名を明記することを条件にするという方法も考えられる。しかし、そんなものはいくらでもウソを書くことができる。ウソを疑っていちいち調べることなどできるはずもない。ごまかそうとする人は、ウソを書くであろう。誠実に質問する人は、本当のことを書くであろう。だからこれは現実には何の解決にもならない。それに、質問者に素性を求めるのは、ネットの利点を損なうものでもある。素性を隠して質問したいこともあるだろう。隠して質問できるからこそ、ネットを利用している人もいるだろう。それを、誰だかわからない人の質問には答えないという姿勢を取ったら、そもそも回答にネットを使う意味がない。だから、むしろ匿名で質問してほしいと私は考えている。ただし、できれば性別と年齢は書いて頂きたい。医療では必須の情報だからである。

匿名で質問してほしい理由はもうひとつある。セキュリティの問題である。もちろん頂いたメールをそのまま他に転送するなどということはあり得ないが、ネット上のメールは、特別なセキュリティをかけない限り、第三者でも読もうと思えば読む方法はある。あるらしい。私にはわからない。わからないから、どうやって防ぐのかもわからない。それを考えると、匿名で書いて頂いたほうがむしろ安心である。

とそれはともかく、誰だかわからない人からの質問に回答することの問題の話である。私はこの問題は、今の回答の方法、すなわち、直接メールで答えず、HP上、つまり精神科Q&Aの中だけで回答することによって、ほぼ解決できていると考えている。HPに質問を公開する際には、プライバシー保護のため、質問はどれも改変してある。かなり改変してあることもある。もし悪意を持って質問した人がいたとすれば、質問が改変されていることにより肩すかしになると思う。たとえば、自分に有利な意見を引き出す目的で質問した人には、役に立たない回答になっているはずである。

直接回答しないことの利点は他にもある。本当のことが言えるということである。直接だと、たとえばその人の病気が非常に重いと判断した場合には、その通りは答えにくい。また逆に、病気でないと思われる場合でも、そうは言い切れないので、もし直接返事をするとすれば、「念のため受診してください」が結びの決まり文句にならざるを得ない。メールだけから100%心配ないなどという判断はしきれないので、専門家としてはそう答えるのが誠実ということになる。ただしそうするとどのメールにも同じように「念のため受診してください」と答えることになってしまい、質問者にとっては結局ネットで相談する意味がなくなってしまう。それがHP上での答だと、より一般化した形になるので、心配なさそうなときは心配ないと明言できる。質問者も一般論として距離をおき、冷静に考えることができることを期待しているのである。

もちろん、質問内容を改変することにより細かいニュアンスが変わってしまい、質問者自身には役に立たないということがあるかもしれない。また、質問者自身は、精神科Q&Aの回答が自分の質問に対する回答だということに気づかないということもあるかもしれない。回答が遅れた場合はなおさらである。まれには半年くらい考えてから回答することもある。

そういう限界はあるが、どんなものにも限界はあるわけで、今のところネットの医療相談としてはこの形が妥協点としては最善であると私は考えている。

 


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