精神科Q&A

【1646】極端な性格の叔母にほとほと困っています


Q: 叔母のことで長年悩んでいます。私は30代の主婦です。叔母は現在60代、独身、子供はなく、自営業(お稽古ごとの講師)をしています。人間関係のトラブルが絶えず、仕事にも支障をきたし、親類は経済的・精神的に負担を強いられてきています。最近になって、叔母は精神を病んでいるのではないかと考えるようになりました。昔からの話で長くなりますが、どうかお読みいただけますよう、よろしくお願いします。 

●叔母は三人兄弟の末っ子で兄と姉がいます。子供の頃は内気。成績よく、高学歴。20代で二度結婚し、どちらも数年で離婚。20代ごろ、二度の自殺未遂あり。30歳ぐらいで外国留学、40歳ぐらいからはじめた自営業を現在でも続けています。現在60代で独居、独身。 

●対人トラブル私が直接知っているのは40歳くらいの頃からの叔母ですが、人との付き合いが安定しませんでした。新しく知り合った人のことが気に入ると、最初は心酔しきって褒めちぎるのですが、しばらくすると手のひらを返すようにののしったり、周囲に悪口を吹き込んだりするようになります。褒めるにもけなすにも論拠に乏しく不適切で極端、思い込みの比重が極めて高い話を人に吹き込む印象で、はたから見ると「よく知らない人のことを勝手に理想化して褒め、理想と違うと気づいた途端にあしざまにこきおろしはじめる」といった感じ。相手に対してもひどく罵倒するため、関係はもつれにもつれ、最期は完全に壊れたかの様子に見えますが、しばらく経つと唐突に、彼女の方から連絡し、頼ったりします。このときの態度は何事もなかったような、無神経で能天気な態度で、それが相手の怒りを買って、さらなるトラブルに発展することも。こうしたことが公私を問わず、何十年も続いています。また、彼女が周囲に語る攻撃対象への悪口・陰口は、そのひとを悪く見せるためになりふりかまわず事実をつぎはぎした、という感じの話で、想像も加味されたひどく歪曲された中傷です。が、なぜだか必要以上の説得力がある語り口、事情を知らない人がそれを聞くと、彼女がまれにみる不遇(不運、ではなく不遇です)な悲劇のヒロインであるかに思える。その後なにかと彼女から頼られたりしているうちに、ついつい味方をしてしまう人も少なくないですが、そうした蜜月関係は長くは続きません。自分が信頼している人への暴言、自身への直接の攻撃をうけたりして、彼女のもとから離れていくことになります。

●金銭トラブルで信頼を失い人が離れる、自営業の彼女にとってこうした状況は収入に直結します。60代になる叔母ですが、長年経済的に自立できていません。経営が逼迫してきて何か手を打つことを進言しても、「まあ、私は経営者だし、どーんと構えている立場だからさぁ」などとへらへらしていて何の対処も講じず、いよいよもうダメとなると親戚の家にかけこむのです。祖父が生きている頃は、長年にわたり叔母の経済支援をしていたのですが、過保護としか言いようの無いその支援については誰も事実を把握しておらず(うすうす感づいていた程度)、正面からそのことを意見できる人が誰ひとりいない中で長年辻褄を合わせてきてしまってきました。祖父が亡くなってからは親戚に借金するようになりました。支援には疑問を感じていた親戚も、叔母の口八丁手八丁で仕方なく貸したり保証人になったりしておりましたが、だんだん返す気もない、返せるあてもないことがわかってきて怒り心頭に発しています。借りた後の態度に、とにかく誠意のかけらもないのです(返さない、返済を求めると激しく逆ギレする、保証人に借金の肩代わりをさせて平然としているなど)。ここ数年は、90過ぎた母親に送金させています。兄姉に信頼されなくなったため、母親にターゲットをしぼったようです。涙ながらに窮状を訴え、『電車に飛び込もうかと思うことがある』などと自殺をほのめかして脅したようです。昔は比較的厳しく接していた祖母も近年は衰えが見え、『自分がこんな子に育ててしまったのだからしかたない』といって、言われるままに金銭を与えるようになっていまいました。一時は年金受給日を狙って叔母が訪問していましたが、そのうち祖母のほうから振り込むようになりました。このごろは遠い親戚にも借金をして、兄姉の悪口を吹き込んでいるらしく、のちのトラブルが懸念されます。祖母が不憫でならず、叔母の老後を想像すると、暗澹たる気持ちになります。 

●親戚とのトラブル 親戚との関係は最悪です。10年ほど前には祖父(彼女の父親)の介護方針をめぐり、多数の揉め事を起こしています(祖父の病室で病院を中傷する、院長に直接怒鳴り込む、家族に院内で激しい罵声を浴びせる、などなど)。訴えの主軸となる考え方はさほどおかしなものでもありませんでしたが不適切極まりなく(理想的な介護はこうあるべき→自分はできなくても仕方ない事情がある、というか兄は義務があるのでやって当たり前→やらないお前らは頭がおかしい、自分の考えがいかに正しいか。といった激しい要求、ごりおし)で、とうてい呑まれるものではありませんでした。長年同居して自宅介護もこなしてきた長男夫婦に比べ、同居するでもお金を出すわけでもない彼女の意見が重視されないのは当然のことで、また伯父夫婦の介護方針も考え方の相違はともかくおかしなところは無かったですし、賛否はともかく病院には病院の事情もあったりと、諸事情をいくら説明しても理解ができないようで、その狂乱ぶりはたいへんなものでした。その後の度重なる金銭トラブルもあいまって、もはや現在では伯父夫婦には完全に無視をされている状態です。ひどい暴言を吐いて兄に叱責され、どんなにひどいけんかに発展しても、その後何事もなかったように同居の母親を訪ねて家に上がり、金の無心をしたり長時間居座って食事をしたりするため、近年では彼女の来訪を知ると祖母(母親)以外は皆外へ出払うようになってきました。正月など皆があつまる機会には、何年か前から来訪を固く禁じられています。 

●妄想?このほか、自分で紛失した物を「誰かに盗まれた」と言って騒いだり(結局あとからみつかる)、サインを偽造された(事実無根)、あの人が自分の足をひっぱっている(悪口を言われている?)、などの訴えがあります。想像だけで真実のように語る様子は、妄想状態のように見えなくもないです。無くした物が出てくるとすぐにさっきまでの疑念を忘れてあっけらかんと喜んだり、サインをした状況を説明すると記憶がよみがえってある程度納得したりと、いつまでも疑念を膨らませることはありません。 

●ここ数年ここ数十年、全てわかっていながらもそばにいた私ですがいろいろあって、数年前から距離をおくことにしました。できれば縁を切りたいつもりで、こちらからは一切連絡せず、かなり冷たい態度をとっていたつもりですが、ことあるごとに連絡がきました。どこかへいこう、催しにこないか、といった話であれば、「その日はちょっと」と言えば引き下がりますが、彼女の頼みごと(この日に何かを手伝ってほしい)などのときには、「なんの用があるの?どこで?何時?」としつこくきいてきます。普通に答えてしまうと、私の予定を把握した上でどうすれば来られるようになるかを勝手に考え始めてしまう。物を借りるときにも、似たようなしつこさです。もう嘘でもつかない限り断れません。うんざりして、一度「もうあなたに物を貸す気はない」とはっきり言ったら、ひどく逆上されました。いかにこれが不当であるかと激しく抗議され(貸してもらって当然なのにお前はおかしい)、「結局金なんだろ! いつもそうだ!」など中傷をうけ、私も頭に血が上って激しい調子で言い返したところ、途中でブツリと電話を切られました。直後にまたかかってきて、再びわめき散らされ、またすぐに切られました。(電話で誰かと喧嘩になると罵倒して切り、かけなおして罵倒して切ることを繰り返すことが、昔からよくあります)腹に据えかねて、私もかけなおしてやろうかと思ったほどでしたがそこは思いとどまり、メールで、さっきは言い過ぎたと前置きした上で、『人から無償で物を借りることを前提に予定を組むべきではない。必要なものは買うかレンタルで済む。物でもおかねでも、自分の範囲でみんなやっている。当然のようにあてにされると重荷だ』というような意味のことをつとめて冷静に書いたつもりですが、うまく理解されず、結局メールでも喧嘩になってしまいました。数日に渡り、30通近くメールをやりとりするなかで、自分自身罵倒され伯父や母(彼女の兄と姉ですが)を侮辱され、自分がいかに献身的に父親の介護をしたかを耽溺しきった様子で語られたり(毎日病院に通って手を握ったりしていたそうです。毎日排泄介助をしていた施設を非難し、自宅介護をしてきた伯父夫婦は父親を殺した犯人だと罵倒し、毎日手を握っていただけの自分は父親のことを唯一大切にしていた存在で彼にも自分が唯一の救いであったのだとかいう話です。きもちわるい‥)。本気で体に震えがくるほど気持ちが悪く、罵倒している兄にお金を借りたり踏み倒す神経もわからなかったり、最後にはもう二度と叔母の顔など見たくない気持ちでいっぱいになりました。 その後、直接連絡してくることはなくなったのですが、半年後ぐらいに前触れなく、突然家にやってきました。私と同居している母(彼女の姉、何年もまともに会話もしていません)に会いたいという用件でしたが、心根の優しい父は叔母の性格を知りながらも家に上げてしまい、私が気がついたときには叔母はリビングでコーヒーを飲みながら、父を相手にペットの話などベラベラ喋っていました。何時に帰んの? と、私が冷たくきいたら、夜に用事があるからその頃出ようかしら、などと、平然と何時間も居座るようなことを言います。母は体調が悪く、すでに自室にかえっていたため、母に会う用事が済んだならもう帰ってくれ、と言ったら、わかったわよ、わかったわよ、と、めんどくさそうに支度をはじめました。玄関で、来る前に連絡ぐらい入れるべきだと怒ったら、「だって、行くって言ったら来るなって言われると思ったんだもん! みんな私の事怒ってるから!!」と言います。びっくりして二の句がつげませんでした。普通の人間が、自分に怒っていると思われる人たちの家にわざわざ行って、一緒に時間を過ごしたいと思うでしょうか? その後も、時々自宅に電話してきたり家にきたりします。来る前に連絡をするようにはなりましたが、母が『今日は体調が悪いので遠慮してほしい』といっても、すぐそこまできているから、少しだけだから、と言ってあがり込んでしまい、結局長時間居座って、黙って下を向いているだけの母に向かってベラベラ喋ることをやめず、私が追い返すまで居座ります。最近かかってきた電話では、いきなり話し始めて途切れることがなく、「今は忙しいから」とこちらがいって切ろうとしても、「え、それってこういうこと? こういう意味?」などと強い調子で喰らいついてきて、自分が知りたいことを教えてもらったり話したいことを話し終わるまでは断固として話し続けます。何度も忙しい、あたし忙しいんだけど、悪いけど、切るよ、切るからね、と、最後は強引に切らないとこちらからは切れませんでした。質問の内容も非常に無神経なものでした。本当に、疲れます。 

●先生に質問です。叔母は境界性パーソナリティ障害ではないでしょうか? ネットでいろいろ調べ、先生の著書『境界性パーソナリティ障害』も拝読しましたが、かなり近いものに感じています。それともなにか、別の病気でしょうか? 何らかの発達障害?かもと思い、幼少期からの記述も多少ですが書きました。どうでしょうか。 叔母の対応には長年苦慮してきました。絶縁したいと思っても、電話や突然の訪問などを制御するのは、事実上不可能です。親類も苦しんでいますし、私自身、たまの電話や訪問を受けるだけで、大きなストレスを感じるようにもなってきました。どうすればこの苦しみから解放されるのかと考えこみ、夜眠れなくなったりするほどで非常につらく。母に相談しても、とにかく関わりたくない、放っておきたいというばかり、向こうから来たら帰るまで我慢していればいいのだといった様子で、体をちいさくしてやり過ごしています。伯父夫婦も無視したがっていて彼女の話題を向けることすらはばかれる雰囲気です。 自殺をほのめかしたり、いかに自分がつらいかを訴えるような話をしてくる彼女が一番元気そうです。仕事の人たちはみな逃げていきますが、親戚は逃げられずにほとほと弱ってしまっています。彼女が治療してこの状況が改善されるなら、どんなにいいだろうかと思います。 病気であると仮定した場合ですが、独身で子供もなく親戚との関係も悪く、この状況では治療が困難でしょうか? 親族の理解を得るだけでも苦労が予測できますし、叔母の性格を考えると、通院を薦めればその後依存の対象とされるか、逆ギレされてしつこくののしられるか、どちらにしろ事態が悪くなりそうな予感です。「境界性パーソナリティ障害」ともなれば治療が困難ともきくので、治療に向かって動くこと自体、リスクのほうが高いようにも思えてしまいます。 また、治療をすすめるとしたら、病識のもたせかたなどよい方法はありますか? 先生から見て、私にできることは何だと思いますか。もっとも、叔母が病気であるという考え自体が私の憶測であり、先生にご進言を求めること自体間違っているのかもしれません。いろいろ含めて、ご教示いただけると幸いです。 たいへんな長文になってしまい、失礼いたしました。読んでいただき、本当にありがとうございます。


林: 
叔母は境界性パーソナリティ障害ではないでしょうか? 

その通りだと思います。

最初は心酔しきって褒めちぎるのですが、しばらくすると手のひらを返すようにののしったり、周囲に悪口を吹き込んだりするようになります。褒めるにもけなすにも論拠に乏しく不適切で極端、思い込みの比重が極めて高い話を人に吹き込む印象で、はたから見ると「よく知らない人のことを勝手に理想化して褒め、理想と違うと気づいた途端にあしざまにこきおろしはじめる」といった感じ。

境界性パーソナリティ障害の大きな特徴の一つです。
公式の診断基準には「理想化とこきおろし」と記載されています。
境界性パーソナリティ 患者・家族を支えた実例集 では「めくるめく尊敬と罵倒」と表現したものに一致します。

想像も加味されたひどく歪曲された中傷です。が、なぜだか必要以上の説得力がある語り口、事情を知らない人がそれを聞くと、彼女がまれにみる不遇(不運、ではなく不遇です)な悲劇のヒロインであるかに思える。

他人を操作することに長けているのも、この障害の特徴の一つです。【1113】などをご参照ください。

その後なにかと彼女から頼られたりしているうちに、ついつい味方をしてしまう人も少なくないですが、そうした蜜月関係は長くは続きません。自分が信頼している人への暴言、自身への直接の攻撃をうけたりして、彼女のもとから離れていくことになります。

よくある経過です。

涙ながらに窮状を訴え、『電車に飛び込もうかと思うことがある』などと自殺をほのめかして脅したようです。

自殺のほのめかしは境界性パーソナリティ障害では非常によくあります。

妄想状態のように見えなくもないです。

境界性パーソナリティ障害では、一過性の精神病症状が見られることもあります。
しかしこの【1646】のケースの「妄想状態」は、むしろ虚言に近いという印象です。虚言もこの障害ではしばしばあります。【0486】などをご参照ください。


近年では彼女の来訪を知ると祖母(母親)以外は皆外へ出払うようになってきました。

「だって、行くって言ったら来るなって言われると思ったんだもん! みんな私の事怒ってるから!!」と言います。びっくりして二の句がつげませんでした。普通の人間が、自分に怒っていると思われる人たちの家にわざわざ行って、一緒に時間を過ごしたいと思うでしょうか?


もっともな疑問ですが、境界性パーソナリティ障害の方は、周囲の人とうまくいかない自分、周囲の人を怒らせてしまう自分に深く悩んでいることも多いものです。【0916】【1349】などをご参照ください。

何らかの発達障害?かもと思い、幼少期からの記述も多少ですが書きました。どうでしょうか。

非常に意味深長なご質問です。ご指摘の通り、現在、パーソナリティ障害(人格障害)と呼ばれているものは、実は何らかの発達障害であるというのも有力な見解です。今のところこの見解はむしろマイナーなものですが、私見としては将来はより注目されるようになると考えています。

この状況では治療が困難でしょうか? 

困難だと思います。

先生から見て、私にできることは何だと思いますか。

ここまでの状況からすると、自分の被害を最小限にすることをお考えになるべき段階だと思います。
この方のためにあなたが何かをしてさし上げたいとお考えになっているとしても、その前に自己防衛が必要です。それなしに、非現実的な献身を、たとえお考えになり実行しても、どこかで限界が来て破綻しますので、結局は何もしてさし上げられないということになるでしょう。


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