精神科Q&A

 【1113】一人の女性のために職場が崩壊しそうです


Q: 今、小さな職場が一人の女性を中心に、崩壊しそうな状態です。
この女性が人格障害ではないか、といろいろと調べるうち思い当たりました。
境界性と同じくくりとされる自己愛性人格障害のチェックリストでは全項目にあてはまっています。
彼女の状態を知って、職場の人たちがうまく対処できないかと差し迫った気持ちでメールを差し上げました。
長くなり申し訳ありません。書けば書くほど彼女のそら恐ろしさがうまく伝わらない気がして…

私は30代の団体職員です。
年齢層の高い会社で、30〜50代の女性事務職員数名と60代の管理職数名、さらに高齢の役員兼務者という構成です。
問題の女性は50代で、18歳で学卒後は40代半ばまで勤めた経験はなく箱入り娘→箱入り奥様 だとの本人の話です。

この女性はとてもフレンドリーで第一印象が良く、能弁で、あまり関わりの深くない出入りの人達には、まず最初に顔と名前を覚えて頂けるということを誇りにしているような人です。
高齢者が多いので、彼女の年齢とはいえ女性としての可愛らしさを感じる方が多いのが、私の目からも分かります。
ところが、少し関わりを持ってみると、この印象が大変薄っぺらなことに気付きます。

出入りの人達にまめに声を掛けるのも、導入部はワンパターンで、たいていはその後自分の話になります。延々と自分の有能さを誇張した話で、内部の少し分かっている人が聞くとびっくりするような事実と違うことも事実と織り交ぜながら、都合の良いように作ってしまいます。
少し聞きかじったことは、他人の成果でも全部自分のものにしてしまうとか…
あまりに自然なので本人もそう信じているのではないかと思うほどです。

しかし実際には、勤めた経験がないというだけではないほど一人では何もすることが出来ず、また定型業務を定型どおりに出来ず、それをつねに周りに責任転嫁して怒っています。
仕事上トラブルを解決したいと他の職員が提案したり話を持ちかけるとあからさまに不機嫌になり、感情的に泣いたり怒ったりして話になりません。
あるいは定型どおりにすることをバカにして聞き入れません。

さらに悪いのは、またそれをわざわざ脚色して、詳細を知らない周囲の人達に、驚異的な能弁さで既成事実になるまで語り続けるのです。
職場のいじめをなくすには、ミスを誘発する事務処理システムの改善を、などという具合で、自分のことはすっかり棚に上げてしまい、経営問題を自分が告発しているとさえ思っているようです。

最初に職場の構成を書きましたが、これが今最も深刻な問題で、彼女のおかげで人間関係が悪化し、退職者も次々と出て、いまや小さい会社そのものが存続の危機といって良いような状態なのです。
問題は、管理職のうち、最も現場に近くて人事権もあるA氏です。
もともとイエスマン的なところのあるいわゆる“良い人”なのですが、すっかり彼女に取り込まれてしまい、彼が事実を直接知っていることでさえ、彼女が違うといえば、なぜか違うことになってしまう状態です。

一人ではメール1本も打てない彼女に一日中寄り添って、膝を突き合わせてずーっと一緒に彼女の仕事を代行しています。
「やあ、出来ましたね!やりましたね○○さん、さすが」なんてお世辞まで言いながら、女性(○○さん)の手となり足となって、話し相手にもなっています。
私達が彼女に仕事のことを訊ねると、子供のような(ちょっと説明しにくいのですが)甘えた目で彼女がA氏を見やり、子を守る親鳥のように彼が答えたりします。

一方で、誰にもまして彼女から酷い罵詈雑言を浴びているのもA氏なのです。
自分が気に入るように物事が進まないとき、あるいは自分の評価を否定されそうになり必死の言い訳をしているとき、それはもの凄い形相でA氏を恫喝したりせせら笑ったり、責任転嫁して激しく責め立てます。
そこまで大人の男性が言われたら、たまらず一喝するだろうというような酷い言葉でもA氏はそれに付き合い、また寄り添っているのです。
それを横で見ている他の管理職B氏、C氏などは、私達の訴えも併せて、これはどうも問題だ、と思っています。

最近、あまりに彼女のA氏依存と仕事の不履行が目に余るため管理職同士の会合が何度か持たれたのですが、彼女はそれを察知するとB氏、C氏を敵と呼んで、A氏にあらゆる吹込みをしました。
するとA氏は、あっさりB氏やC氏に否定的になってしまったのです。もしかしたらB氏C氏が彼女を問題視したこと自体、A氏は許せなかったのかもしれません。
最初の構成に書いたトップ(高齢の役職兼務者)や、彼と親しい出入りの人まで巻き込んで、彼女の言葉の操作だけでこれほど、と思うほど職場がばらばらな雰囲気です。

いわゆる自傷行為などはなく、遠目にはむしろ魅力的にさえ見える女性です。
ただ、彼女を直接糾弾して退職した人がいたのですが、その人に全部やらせて自分がしたことにしていた仕事が処理できないこともあり、彼女は激怒し、過重労働のための「うつ病」だとして4ヶ月以上会社を休みました。
いまでもうつ病の薬を服用しているそうで、その時のことをA氏と会社の管理問題だとして訴えてやる、と言っています。

彼女は何かの病気でしょうか?私達はどうしたら平穏な会社に戻れるでしょうか?
アドバイスをよろしくお願い致します。


林: この女性は境界性人格障害でしょう。うつ病ではありません(「うつ病」だといって休んでいるとすれば、それは擬態うつ病(2007年3月、復刊されました)というべきです)。そして、管理職のA氏は「お助けおじさん」にあたり、このままではあなたが危惧されている通り、職場は崩壊するでしょう。(「お助けおじさん」については【0735】、さらには【1111】もご参照ください)

彼女を直接糾弾して退職した人がいた

退職者も次々と出て、


このような人が出てしまう前に、何らかの手を打つべきでした。
が、それをいま指摘してもどうしようもありませんので、いま出来ることを考え実行しなければならないでしょう。それは、まず職場の全員が、問題となっている事実についての共通認識を持つことです。
【0233】などにもお書きしましたが、境界性人格障害の人は、他人を操作する術に長けています。この方の次のような行為がそれにあたります。

最近、あまりに彼女のA氏依存と仕事の不履行が目に余るため管理職同士の会合が何度か持たれたのですが、彼女はそれを察知するとB氏、C氏を敵と呼んで、A氏にあらゆる吹込みをしました。

このようなことは、境界性人格障害の方をめぐる対応では、とてもよくあることです。

そして明らかに、ここで最大の問題はお助けおじさんであるA氏です。一定の力を持つ管理職であるこのA氏が手玉に取られていては、状況の改善は全く期待できません。何よりも最初に、A氏に目を覚ましていただくことが必要です。そうなって初めて、実効ある対策が可能になるでしょう。周囲の方々がいくら説明しても万一A氏がお助けおじさんであり続けるようであれば、もう希望はないと思います。A氏に何とか変わっていただくこと。そこから始める以外に手はありません。


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