精神科Q&A

【0735】境界型人格障害と思しき人との金銭トラブル


Q: 私は40代の男性です。境界型人格障害と思われる女性(30代後半)に深く関わってしまい、挙げ句の果てに金銭トラブルに巻き込まれてしまいました。ぜひご相談致したくメールを差し上げる次第です。

 大まかに事の次第を申し上げます。
 一昨年の某日、彼女は犯罪の被害に逢い、旧知の私に助けを求めてきました。ホテトル嬢として派遣された先の客が薬物常習者で、約十日間にわたり監禁され、自らも薬物を強要され暴行を受け脅迫されたとの事でした。他に信頼できる人がいないという事で、警察に同行し当面の事態を打開する事から私の関与が始まりました。加えられた虐待は非常に酷かったようで、当初は犯人の幻影に怯え、自殺すら口走る程でした。
 その犯人にアパート自室を目茶苦茶にされたゆえ、彼女は帰宅ができなくなり、私は緊急避難的にウイークリーマンションを借りて住まわせました。その間彼女は重度のPTSDと診断され、費用一切を私が持ち2ヵ月間入院させ、退院後は再びウイークリーマンションに仮住まいさせます。その後、賃貸マンションに転居させました。4ヵ月後生活保護を受けられるようになり、ようやく落ち着かせる事ができました。

 私の援助は金銭面ばかりでなく、彼女の生活全面に及びました。精神状態を安定させる事、不安を取り除く事を常に念頭に置きつつ、できる限りの努力を惜しみませんでした。また、彼女自身も過去一切の清算を強く望み、懇願されてサラ金や交際していた男性からの数百万の借金について自己破産の手続きを手伝ったりするなどする一方、家族との仲を取り持ったりもしました。このような事ができたのも、私は自営業をしており時間をかなり自由にできたためです。
 生活保護を受けている事を前述しましたが、障害者3級の認定を受けております。それまでに彼女にかかった費用は9ヵ月余りで総額3百万円ほどになりました。途中で犯人から慰謝料が150万円入り、本人が納得した上で全額を返済して貰いました。それでもなお私の持ち出しは多額です。率直に言って相当に無理をしてしまったと思います。

何故深入りしてしまったのか…最初はせいぜい家族のサポート迄のつなぎ程度に考えていたのですが、彼女は異性や金銭でしばしばトラブルを起こしていたとの事で、家族からは見放された状態でした(家族から直接聞きました)。また、以前から気の毒な身の上話を聞かされており、少なからず同情していた事もあります(その後聞かされていた話は嘘だらけだと判りました…)。先の見通しが立たないなか、彼女を取り巻く状況は悪化するばかりで、ズルズルと深みにはまってしまったというのが実感です。中途半端嫌いの私の性格が災いした面もあります。やる以上は明確な成果を求めたいと思い、その事に固執してしまいました。今となっては己の不明を恥じ入る他ないのですが。

 彼女自身との人間関係にも苦労させられました。自らの意志で私の協力のもと縁を切った男に私の排除を相談したり、泣きながら感謝したかと思えば罵詈雑言を浴びせたり…。
叱責するにも威圧的な態度を控え、言葉を慎重に選び、タイミングを十分見極めた上で、と相当な注意を強いられました。
主治医の先生にも3回ほど面談しております。説明によれば、PTSDそのものは比較的順調に治癒しているものの、性格的に大きな問題を抱えているとの指摘がありました。大まかに言うと、私に対しての依存心が非常に強く、都合の悪いことは病気を隠れ蓑にするなど精神的に非常に幼く、彼女自身の問題を解決するためには投薬などの治療ばかりでなく、それ以上に教育的なものが必要だとの事でした。もちろん、人格障害であると具体的に告げられた訳ではありません。
 病名の事なのですが、実はこの問題で保健所に相談した際に事のいきさつを話したところ、保健士さんが『経験上、おそらく…』と前置きした上で人格障害という名を挙げて助言してくれたのです。情報収集を勧められ、御サイトをはじめ書籍にもあたってみたのですが、列記されている特徴の殆ど全部が彼女に合致しておりました。それまでの不可解な部分の全てに合点がいった次第です。

 今は関与をやめ、縁を切りました。昨年末頃に彼女の姉や息子に会い、家族としての精神的なサポートが更に必要な事を訴え、また改めて私なりの関与のしかたについて相談したのですが、彼女本人は不快に感じたようで、例の如く罵詈雑言を浴びせてきました。家族に伝え、協力を求めたところ拒否されてしまいました。私について、虚実織り交ぜてネガティブな情報を流したようです。その時点で完全に限界を感じました。

さてご相談の件なのですが、彼女は私に返済した筈のお金を帰せと言ってきております。取り合わずにいたのですが、弁護士に相談し、その弁護士が彼女の話を信じてしまっており、帰さぬと訴訟を起こすと息まいています。どうやら彼女は私の愛人であって、それゆえ私の用立てたお金は全額が彼女に贈与したものであって、彼女から受け取った分は私への貸し金だと言いたいようなのです。私はこちらの言い分を文書でその弁護士に伝えたのですが、やはり彼女の言い分を信じているようで裁判沙汰も覚悟しなければいけない情勢です。
 私自身は彼女が境界型人格障害であると確信しております。いざ裁判となればその事にも触れざるを得ないと思います。しかし、このようなデリケートな問題を明らかにする事には、正直言ってためらいがあります。また、仮に裁判沙汰を避けられるとすれば、担当の弁護士にこの事を告げる必要があると思われるのですが、当人にこの方面の知識がなければ彼女の治療に大きな妨げになるかもしれず、苦慮しております。

 今後の関わりはもちろんの事、不毛な争いを避けたいですし、でき得れば彼女自身にもマイナスにならないような解決方法を望んでいる次第です。実のところ、弁護士が指定した期限が迫っております。誠に勝手なお願いでただ恐縮するばかりですが、ご教示、ご助言を賜れれば幸いです。どうか宜しくお願い致します。


: 困っている人を純粋に助けようという気持ちからされた行動が、結果的には恩を仇で返されるようなことになり、ご苦慮のご様子をお察し申し上げます。
 しかし、ここまで問題がこじれた以上、法的な争いも覚悟しなければならないと思います。あなたが正当であることを裁判ではっきりさせるべきでしょう。そうでなければ、相手方の言い分とおり150万円を支払うか。そのどちらかしかないと思います。

不毛な争いを避けたいですし、でき得れば彼女自身にもマイナスにならないような解決方法を望んでいる次第です。

あなたのこのお考えはもっともですが、もっと前の段階ならともかく、現時点ではそれは難しいように思えます。また、この女性の利益を最大限配慮するというあなたの姿勢は、尊敬に値するものではありますが、それが結果的にはあなた自身の窮状を招いているという事実を見つめる必要もあるでしょう。

私はこちらの言い分を文書でその弁護士に伝えたのですが、やはり彼女の言い分を信じているようで裁判沙汰も覚悟しなければいけない情勢です。

この点についてですが、弁護士が本当に信じているのかいないのか、それはわからないと思います。この弁護士が、依頼人の利益になるように働くという職業的理由から、この女性の言い分を信じているという形をとっていることも考えられます。
 できればあなたがこの弁護士に直接会ってみることをおすすめします。弁護士といっても色々な方がいらっしゃいますので、会ってみて初めてわかる面も多いものです。そうでなければ(あるいは、直接会ったとしても)、あなた自身も弁護士に相談することが必要になるでしょう。法的争いになれば、相手方だけに専門家がついている状況では勝ち目はありません。

どうやら彼女は私の愛人であって、それゆえ私の用立てたお金は全額が彼女に贈与したものであって、彼女から受け取った分は私への貸し金だと言いたいようなのです。

この点に関しては、常識的にはあなたがこの女性の愛人と思われても仕方がないと思います。あなたがこの女性に与えた金銭的・精神的援助を見れば、愛人でないとあなたがいくら主張しても誰にも納得されないでしょう。

私自身は彼女が境界型人格障害であると確信しております。いざ裁判となればその事にも触れざるを得ないと思います。しかし、このようなデリケートな問題を明らかにする事には、正直言ってためらいがあります。

そのお気持ちもよくわかりますが、現実に裁判になった場合、診断名がどうであるということよりも、争いの中心は事実関係になるはずです。つまり、あなたが150万円を要求されることが正当か不当かということと、この方の診断名には直接の関係はありません。ですから回答は最初に記したとおり、法的に争うか、そうでなければ相手方の要求通り支払うかのいずれかしかないと思います。

なお、困窮しておられるこの質問者の方に対しては追い討ちをかけるようで気が重いのですが、事実を記すというこのサイトの方針にしたがい、少々付け加えます。

その時点で完全に限界を感じました。

ここに至るまでのあなたの行動は、境界型人格障害の人に利用されている人物の典型といえます。たとえば「「心の悩み」の精神医学」のp.142〜に出ているお助けおじさんと一致しています。ご本人は純粋に患者さんのためと思って行動しておられるのですが、実のところは利用されているだけで、嘘もそのままうのみにしてしまい、悪いのは周囲の人々だと信じこみ、結果としてはまわりに迷惑もかけてしまう。そしてそのように利用されいるうちは患者さんにとっても「頼れるいい人」なのですが、援助が限界に達し手を引こうとすると、患者さん本人から手の平をかえしたように激しい非難を浴びるというパターンです。

「「心の悩み」の精神医学」にも記されているように、こういう方が患者さんの付き添いとして病院にいらっしゃることはしばしばあります。精神科医の立場からすれば、そのままいけばこの質問者の方のような帰結になることはかなりの確度で推定できるのですが、それを指摘すれば今度はこちらが強烈な攻撃を受けることもまたかなりの確度で推定できますので、どう対応するかはその度に苦慮するところとなっています。

その後の経過(2005.3.5.)


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