精神科Q&A

 【0788】境界型と思しき人への対応(【0735】の続き)


Q:【0735】で掲載して戴いた者(40代男)です。丁重なご助言をありがとうございました。私のような立場では精神科の医師に相談できる手立てはなく、御サイトにて建前論を排した真実をご教示下さった事にただ深謝申し上げるのみです。心より御礼申し上げます。この度は前回の事を踏まえ、改めてご相談したくメールを差し上げました。

 その後、既に私の側も弁護士と相談の上で対応しております。彼女(30代後半)の弁護士は、ごく大雑把に『金を払わなければ必ず提訴する』というような恫喝じみた通知書を何回も送り付けてきており、私はその都度、より具体的な事例を挙げての反論を繰り返している状況です。彼女の手紙が同封されて来ますが、私への中傷を交えつつ稚拙な架空話をしつらえ、必ず勝訴すると確信している様子です。

 私側の弁護士によれば向こう側の主張は立証がまず不可能であり、そもそもこのような案件で先方の弁護士が代理人を引き受ける事じたいが信じがたいとの事です。実際に私の具体的な事情説明や反論をほとんど無視する姿勢に撤しており、一般的に言えばかなり問題のある弁護士である疑いが濃厚です。結果に関係なくその弁護士が報酬が得られる仕組みがある以上は、勝ち目がないのを承知で提訴して来る可能性は捨て切れませんが、私の方は少なくとも金銭を収奪される心配はほとんどなくなったと思っております。

 林先生のご助言にあったように、私としても先方の弁護士と直接話せば理解が得られるのでは、との期待を当初は持っていましたが、『相手は状況を踏まえた上で確信的に合法的ユスリをしているようなものだ。言葉尻を取られるリスクが大きいので止めておきなさい』という私側の弁護士からの指示もあり、今のところ差し控えております。

 また、彼女の『境界型人格障害』に言及する事の是非についての件なのですが、私が彼女に与えた支援は『愛人だと思われても仕方がない』と林先生もおっしゃる程の厚遇だったのですから、それを逆手に取る事が彼女側の主張の唯一の論拠となります。実際にこれまで、先方の言い分もその点で一貫しています。いざとなれば私としてはそれを否定すべく、彼女の支離滅裂な言動や精神的な不安定さを指摘する必要が出てくる…という意味です。証拠となり得ないにしても、ただ言動や様子を羅列するよりは、それらを括るキーワードとして説明する方が第三者には理解を得やすいのではないかと考えています。なお、私が今なお彼女の利益を配慮するという事は、病状が快方に向かう事が巡り巡って私の利益、即ち彼女と完全に縁が切れる事を期待する意味もあります。もちろん自分の労苦が最終的に報われる事を願いたい気持ちもあっての事です。

お助けおじさん…。耳が痛いですが、その通りなのでしょう。今となっては私のような者を精神科の医師がどう見るのか容易に想像がつきます。実際に彼女の入院中の担当医(主治医も若いがさらに若い)は、私を『性格に問題がある人』だと彼女に解説していたそうです(嘘の可能性もある訳ですが、これはたぶん本当だと思います)。主治医との面談は、彼女の退院後に実現したのですが、今にしてみれば多少のヒント程度は出してくれていた事になるのでしょうが、私の『どのように関われば良いのですか?』という質問には全く答えて貰えませんでした。【0735】のお返事からは林先生でも同様にされたであろう事が拝察できますが、私は病的な世話焼き男ではありません。早い時期に詳しい情報が得られていれば、全く違った対応ができたと思います。主治医との接触にはもっと積極的であるべきでした。

 『強度のPTSD』という事しか頭になかった私には、彼女の数多くの嘘や支離滅裂な言動、いわゆる逆ギレ等もそのせいだとしか思えず、そのPTSDさえある程度治れば、彼女自身も本来あるべき姿に戻り社会復帰の緒に就く筈だとごく単純に考えておりました。最近になってPTSDが他の精神障害と合併している割合が、一説によれば8割もあるらしい事を知りましたが、やはり今となっては後の祭りです。

 以上、前回の質問とご回答に関して申し上げました。前おきが長くなりましたが、ここで再度伺いたく存じます。

 彼女は端的に言えば金欲しさから嘘をついている訳ですが、本人にはその自覚はあるものなのでしょうか。また、境界型人格障害の患者は、症状が悪化したり統合失調症に転じる事はあり得るのでしょうか。

 本人の中で『嘘』『良心』『罪悪感』などはどのような位置付けになっているのかが非常に気になります。仮に自分が嘘をついている自覚や後ろめたさが皆無で完全に被害妄想に取り憑かれているのであれば、金を取れないという結果が判明した後も、私に対する追求を諦めないかもしれません。彼女の妄執に今後も悩ませられる事を懸念しております。
 それから、このような事を彼女の主治医に(時期や可否は別にするとしても)相談する事は何らかの効果が期待できるでしょうか。誰かが彼女の『身の程』を納得させられるとすれば、それは主治医以外には考えられません(現在彼女の家族は、私から金を取ろうと彼女の後押しをしています)。治療に際して道徳や社会常識などの再教育のような事が行なわれるのであれば、主治医にこの件での情報を提供する事には意義があると思います。実際に私はかつて主治医から、『彼女が本当の事を言っているかどうか分からないので』という理由で、彼女の様子や言動などを伝える事で治療に協力するよう要請されていました。

 今後の対処や行動の指針をご教示下さいませんでしょうか。もちろん一般論でも構いません。宜しくお願い申し上げます。


: 経過のご報告をいただきありがとうございました。【0735】の私の回答には、質問者の方に対しては失礼な表現も多く、気分を害されることもあったのではないかと推測しております。それにもかかわらずこうしてご報告をいただいたことに感謝いたします。

私としても先方の弁護士と直接話せば理解が得られるのでは、との期待を当初は持っていましたが、『相手は状況を踏まえた上で確信的に合法的ユスリをしているようなものだ。言葉尻を取られるリスクが大きいので止めておきなさい』という私側の弁護士からの指示もあり、今のところ差し控えております。

適切だと思います。あなたの弁護士の先生のご指示通りにされるのがよろしいと思います。

 彼女は端的に言えば金欲しさから嘘をついている訳ですが、本人にはその自覚はあるものなのでしょうか。

大変難しい問題です。「人格障害」であることがはっきりしている人が、自分の言動を実のところどう考えているのか。悪いと思ってやっているのか、そもそも悪いという自覚がないのか。これは、本当のところはわかりません。さらに言えば、人格障害でない普通の人(ここで「普通」という言葉の意味が問題になりますが、今はそれは追及しないことにします)でも、自分の言動をどこまで自覚しているかは、想像することしかできないわけですから、わからないというのも仕方ないとも言えるでしょう。
 ただ、参考になるかどうかわかりませんが、人格障害の人が法に触れる行為におよび、裁判になった場合の多くは、完全に責任能力はある、とされるのが常です。ですから、あなたの表現を用いさせていただけば、「自覚はある」ということになるでしょう。もちろん法の慣習が絶対に真実とは言えませんが、少なくともこれが現在における有力な考え方と言うことはできると思います。(統合失調症などで、きわめて重度な幻覚妄想状態にある場合の言動については、責任能力が減弱あるいはごく稀には喪失とされるのと対照的と言えるでしょう)

境界型人格障害の患者は、症状が悪化したり統合失調症に転じる事はあり得るのでしょうか。

 境界型人格障害の医学部講堂にあるように、もともと境界型という精神医学用語は、神経症と精神病(統合失調症)の境界という意味でした。ですから当時の考え方としては、境界型人格障害が統合失調症に発展することも十分あるとされていました。しかし今ではもともとの意味は消滅し、境界型人格障害という用語のみが使われています。境界型人格障害は、悪化することはあっても、統合失調症に転ずるということはないと言っていいでしょう。もしそのような経過が見られた場合は、最初の境界型人格障害という診断に疑問が投げかけられるほうが普通でしょう。

 それから、このような事を彼女の主治医に(時期や可否は別にするとしても)相談する事は何らかの効果が期待できるでしょうか。

期待はできると思います。しかし、あなたも経験されている通り、弁護士といってもいろいろな方がいらっしゃるのと同じで、医師といってもいろいろな人間がおり、そうでなくてもこのケースのような人格障害は医師から敬遠されることも少なくありません。はたしてあなたが相談したことがプラスに作用するかどうかは、主治医を見て初めて判断できることだと思います。もっとも、相談する前にそれを判断することはかなり困難、というよりほとんど不可能とは思いますが、事実を回答すればこのようにならざるを得ません。

 以上、あまりお役に立てない内容の回答で申し訳ありません。
 【0735】では「お助けおじさん」と失礼なことをお書きしましたが、2通のメールからはあなたの優しい人格が端々に読み取れます。そしてその優しさゆえに今の困窮した状態に陥ってしまわれたことへの苦悩をお察し申し上げます。今後、状態が好転されることを願っております。


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