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死への手拍子・・・イッキ飲みの科学


イッキ飲ませと訴訟

大学のコンパなどでイッキ飲みで死亡する人がいることを聞いたことがある人は多いと思います。この場合に、周囲にいた人が傷害致死で訴訟されることを知っている人は少ないのではないでしょうか。「イッキ、イッキ」と手を叩いてはやしたてている人は、自分が犯罪に加担しているという自覚を持つ必要があります。直接イッキ飲みをさせた人はもちろん、その場にいたのに止めなかった人、さらにはそこにいなくても飲み会そのものを企画した人まで訴えられたという例もあります。

アルコール血中濃度と症状

ここは法学部ではなく医学部の講堂ですから、法律の詳しい話は省略します。イッキ飲みはなぜ危険か、まずアルコールの薬理作用の講義から始めるのが本筋でしょう。アルコールは薬の一種ですから、脳やからだへの影響はからだの中のアルコールの量、すなわち血中濃度によって決まります。下の表のように段階的に進みます。

 ステージ 血中アルコール濃度(%)        症 状
爽快期

0-0.05

爽快感。感覚がわずかにマヒ。
ほろ酔い初期

0.05-0.10

不安・緊張の減少。多弁。
ほろ酔い後期

0.10-0.15

自己抑制解除。感情不安定。
酩酊期

0.15-0.25

平衡感覚マヒ。歩行障害。言語不明瞭。
泥酔期

0.25-0.35

嘔吐。意識混濁。歩行不能。
昏睡期

0.35-0.50

昏睡。大小便失禁。呼吸マヒ。死亡。

血中濃度の数字が、たとえば「0.25%」と言われてもピンとこないでしょう。本当に知りたいのはどのくらいのアルコールを飲むとその濃度になるかということだと思います。残念ながらこれは個人差が大きく、なんとも言えません。ただ言えることは、ふつうに飲んでいれば、上の表の「泥酔期」になるとそれ以上は飲めなくなるということです。嘔吐したり動けなくなったりするのはからだがアルコールから自分を守ろうとする反応です。

イッキ飲みではどうなるでしょうか。下の表のようになります。

イッキに昏睡

 ステージ 血中アルコール濃度(%)        症 状
爽快期

0-0.05

爽快感。感覚がわずかにマヒ。

   イッキ

                

昏睡期

0.35-0.50

昏睡。大小便失禁。呼吸マヒ。死亡。

このように、イッキ飲みでは、途中の症状が出ないうちに、イッキに昏睡から死に向かいます。アルコールによる酔いの実体は、脳がだんだんマヒすることです。ほろ酔いで気持ちがいいのは、脳の活動を抑制している部分がマヒするためです。このマヒはだんだん脳全体に広がり、運動機能や記憶機能に影響が出てきます。最後には呼吸機能がマヒして死ぬことになります。イッキ飲みはイッキに脳全体をマヒさせるという自殺行為です。したがってイッキ飲ませは他殺行為で、訴えられるのは当然です。

体質に注意 

アルコールは脳をマヒさせる薬ですから、誰でもイッキ飲みで命を落とす可能性はあります。しかし特に危険な人がいることも確かです。第1講で説明した「酒に弱い」体質の人です。ある程度お酒を飲んだ経験のある人は、大体自分の体質がわかっているものですが、大学の新入生のようにまだよくわかっていない場合は特に危険です。体質は遺伝的に決まっており(第1講)、飲んで鍛えようなどというのは馬鹿げています。医師になると夜中に急性アルコール中毒が救急車で運ばれてきて叩き起こされることを一度や二度は経験するでしょう。飲ませた人が一緒についてきたら、点滴をしながら、「このまま死亡した場合はあなたは傷害致死罪になる」とはっきり伝えることで、新たなイッキ飲みによる死亡を減らすことができるかもしれません。

 

 


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