精神科Q&A

 【1269】41歳の姉が、うつ病とパニック障害で手がつけられません


Q: 41歳になる姉について相談です。約1年前にリストカットをしてある病院の神経科に入院をしました。そして、病気が治ったわけではないのですが、その病院から神経科がなくなるということで強制的に退院させられ、今は自宅で生活しています。姉の家族は、夫と子供3人(16歳女・14歳男・8歳女)です。

今までの経緯を説明しますと、姉の母(つまり、私の母)はヒステリックで潔癖症で子供に注意をするのにもいやみ的な口調で注意する人でした。私も母のことは反面教師にしていて好きではありません。姉は、小さいころから着る服も母が決め(そうしないと母が気に入らないので)行儀や清潔にすることに関してはとても厳しくしつけられていました。
そして両親は、昔からたまに喧嘩をしていたのですが、姉が中学生のころから仲が悪くなり、口もきかなくなり母は父に対してとても汚いものを扱うような態度をしていました。そのころから、姉はテスト前などに下痢をするようになり電車等に乗ることにも不安を持つようになりました。心療内科のようなところにも通っていたようです。

そして20歳で結婚をし、現在にいたるまでアルコール依存症で家事や育児を一切しない夫と、身体障害を持った次女をはじめとする子供の世話におわれ、だんだん精神状態も悪くなっていったように思います。

いつからかはっきりわかりませんが、数年前からパニック発作を起こすようになり、昨年春くらいにうつ病と診断され、その後リストカットをして、最初にお書きしたように病院に入院しました。
パニック発作とうつの症状は確かにでていました。呼吸困難になって泣き出してなんども病院につれていきました。リストカットする直前は、何もできなくて台所で座り込んだり寝転んだりしていたようです。

ここまでは、普通の精神的病の流れだと思うのですが、入院してからだんだん様子がひどくなり最初は、夫に対して攻撃的になり非難するようになりました。姉は、夫と生活している子供が心配(言葉の暴力や酔ったときのちょっとした暴力)だからと母や私に訴えてきてどうにかして欲しいというので、母が離婚を進め、子供たちも母の家の前に借家を借りすべての面倒をみていました。70近い両親にとっては送り迎えや洗濯等の世話は相当な負担でした。
ところが、離婚調停が進むうち、今度は母親を責めるようになり始め、「離婚するように入れ知恵された」とか「自分がこうなったのは母のせいだ。私の人生を返せ。」などというようになりました。
その間も発作を起こすたびにシャープペンシル等で自分を傷つけたり、リストカットをしていました。

退院後は、母に文句を言って離婚調停までしていた夫のもとに帰りました。ですが、今でも毎週くらいパニックを起こし、そのたびに大人一人では押さえきれないほどの力で暴れたり、外に飛び出したり、包丁でリストカットをします。
長女が顔を思いっきり何度たたき、「正気になって!」と叫ぶそうです。本人はそのときのことをあまり覚えていないようです。
でも、すごい力で手首を切ろうとする自分の手を、回りの人間に「この手を押さえて!」としばしば言います。
この前は、姉は、誰もいない家で仏壇の前に座り手首を切り、したたり落ちる血を見ながら大笑いしていたそうです。

パニック発作とはこのようにすごい力で暴れたり、そのたびにリストカットをしたり、その間の記憶がないということがあるのでしょうか?
ただのパニック障害とうつ病とは思えません。パニックも最初のころの過呼吸ではなく、暴れてリストカットをするという形に変わってきています。姉は何の病気なんでしょうか?
どうか教えてください。このままでは、周りの家族がまいってしまいます。
よろしくお願いします。 


林: お姉さまは境界性人格障害の可能性が強いと思います。パニック障害ではありません。うつ病でもありません。「パニック発作」は、あるのかもしれません。また「うつ状態」も、あるのかもしれません。けれどもそれらは境界性人格障害によるものであって、パニック障害やうつ病とは質が異なります。

境界性人格障害の診察室に、診断のための基準をお書きしてあります。これに照らしてこの【1269】の症状をみますと、

今でも毎週くらいパニックを起こし、そのたびに大人一人では押さえきれないほどの力で暴れたり、外に飛び出したり、包丁でリストカットをします。

は、「大量に薬をのんだり手首を切ったりするなどして自殺しようとする。自分を傷つける程度のこともある。これを繰り返す。」
にあたり、

長女が顔を思いっきり何度たたき、「正気になって!」と叫ぶそうです。本人はそのときのことをあまり覚えていないようです。
でも、すごい力で手首を切ろうとする自分の手を、回りの人間に「この手を押さえて!」としばしば言います。

は、

「一時的に精神病状態になることがある。すなわち、妄想が出て来たり、解離状態になったりする。」
の、「解離状態」にあたります。

また、

今度は母親を責めるようになり始め、「離婚するように入れ知恵された」とか「自分がこうなったのは母のせいだ。私の人生を返せ。」などというようになりました。
は、

「他人に対する評価が、最高と最低の間を極端に揺れ動く。理想的な人と思っていた人を、あるとき手のひらを返したように突然、最低の人間として軽蔑・攻撃するようなことが頻繁にある。」
の色彩があるエピソードといえます。

人格障害は、10代から20代にかけて症状がはっきりしてくるのが普通です。この【1269】のケースは、その時期には境界性人格障害であっても、あまり症状の激しくないタイプであったものが、ご結婚後の家族にかかわる様々なストレスによって、それまで潜在的であった症状が顕わになったと推定されます。

メールには退院後の治療についての記載がありませんが、この【1269】では、うつ病やパニック障害の治療では不適切で、境界性人格障害としての治療が必要なことは明らかです。


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