精神科Q&A
【0967】日常生活は普通にできるのに会社に行きたくない私は擬態うつでしょうか
Q:
私は42歳の既婚男性(会社員),家族は妻と長男です。
現在,うつ病とパニック障害と診断され,通院治療中です。
二年ほど前から体調不良(頭痛,耳鳴り,倦怠感,なんとなく息苦しい)を感じることが多くなり,遅刻や早退,朝起きられなくて結局休んでしまうことが月に何回かありました。
ただ,朝方体調がすぐれなくても,出勤してしまえば終業まで勤務できる状態でした。
このような状態がしばらく続いていたのですが,半年ほど前から
「仕事をしていても集中力が続かない」
「些細なミスを何度も繰り返す」
「やらなければいけないことを先送りする」
といったことを自覚するようになってきました。
その後,こういったことを繰り返す自分自身に嫌悪感を持つようになり,仕事自体への意欲も薄れていきました。
上司にも相談し,仕事を減らしてもらったり,残業も減らして定時に帰るようにしたのですが,そのことで他の社員にしわ寄せが行っているような気がして,嫌悪感,後ろめたさを感じていました。
その後2ヶ月間は何とか出勤したのですが,3ヶ月目に入って「この週は絶対に休めない」という時に,風邪をひいて2日ほど欠勤してしまいました。
この時は上司から「明日は出勤してくれ」と連絡があり「出勤します」と答えたのですが,その出勤当日の朝,駅のホームで電車を待っている時になんとなく胸の辺りが苦しくなり,冷や汗や動悸が起こり,結局電車がホームに来ても足が動かず,乗る事ができませんでした。
しばらくすると落ち着いたので,何とか出勤したものの,この日はまったく集中力がなく,できればどこかに逃げてしまいたい気持ちを抑えるので精一杯でした。
更にそんな私の態度をみたお客様から「接客がなっていない」と指摘されたことで,再び冷や汗や動悸,手まで震えだしてしまいました。
上司もこの様子を見ていたのですぐに帰宅させてくれましたが,後日,風邪を診てもらっていた内科医にこのこと(動悸や手が震えたり)を告げると「うつ病」と「パニック障害」だと診断されました。
この内科の先生に「パニック障害」の診断書を書いてもらい,現在は休職中です。
服薬はメイラックス2mg/日とパキシル40mg/日(朝10+夕30)を処方してもらっています。
ほぼ3ヵ月近く休職していますが,現在は朝は普通に起きて,夜もまあまあ眠れます。
体調面では耳鳴り,倦怠感が時々ありますが,ごく普通の生活に支障はありません。
妻や子供の朝食の準備をしたり,最近は夕食も私がすることが多くなっています。
当然買い物にも出かけますし,子供たちと一緒に遊びに出かける事もあります。
ただ,復職することを考えると冷や汗や動悸まではいきませんが,不安感が襲ってきます。
不安感というよりも,単純に「あの会社に行きたくない」という気持ちと言った方が近いかもしれません。
自分自身,いつまでも今の休職状態を続ける事に不安もありますが,一方で「少々のことだったらがんばれるかも」と思えるのに,こと会社の事になると「なんとなく不安感が襲ってくるかも」と思うのは,ただ怠けるための口実のような気もしています。
本当に日常生活は普通にできるのです。
もう直っているのに会社に行きたくないから逃げているのではないかと思うのですが,
この私の状態は擬態うつ病なのでしょうか?
林: あなたはうつ病だと思います。擬態うつ病ではないでしょう。
あなたがご自身を擬態うつ病ではないかと疑っておられる理由は、おおむね良好な生活を送れているのに、会社のこととなると不安感が出てくることであると読み取れます。たとえば、
「少々のことだったらがんばれるかも」と思えるのに,こと会社の事になると「なんとなく不安感が襲ってくるかも」と思うのは,ただ怠けるための口実のような気もしています。
このような文章から読み取れます。
確かに、典型的なうつ病では、あらゆる事に関して興味を失い、楽しいという感情も生まれないという症状が認められるものです。逆に擬態うつ病では、仕事など自分の気が進まないことに接すると意欲が出なかったりうつの気分になったりする一方で、趣味などに関しては相当なエネルギーが出ることがしばしば見られます。【0406】や【0200】がその例になります。
しかしながら、うつ病であっても回復期や初期には、ストレスのかかる状況の時のみが調子が悪いという時期があるのもよくあることです。
ですから、「仕事の局面だけが不調」というある一時期だけを切り取って、それがうつ病か擬態うつ病かを判断することは困難です。その前後も経過も含めればかなりの判断が可能で、この【0967】のケースでは、発症からこれまでの経過を見れば、かなり典型的なうつ病であると言えます。仕事だけがダメ、といっても、【0406】や【0200】とは全く異なることは、読み比べていただければ明らかだと思います。
結論としては、冒頭にお書きしたとおり、あなたはうつ病だと思います。そして今は回復に向かっています。この時期に、このメールのような自責感を持つことは、かえって回復の妨げになります。あせらず今の治療を続けることをお勧めします。うつ病は治ります。