精神科Q&A
【0718】うつ病の再発に認知療法は有効でしょうか
Q: 30代前半の夫についての質問です。
まず、病気の経緯を説明させていただきます。
2年ほど前、仕事のストレスが主な原因でうつ病を発症しました。
当初は、不眠・食欲が全く無くなる・不安・ひどい落ち込みなど、典型的なうつの状態でしたが、抗うつ剤投与により2ヶ月ほどで状態は徐々に改善されてきました。と言っても、慢性的なダルさややる気の無い状態は抜け切れませんでした。
1年ほど経ち、また仕事での悩みから症状がやや悪化(その間、結婚や引越しなど環境の変化もストレスになっていたかもしれません)し、仕事が辛い、会社に行きたくない、と漏らすようになり、1ヶ月の病気休暇を取り復職。体調はやや良くなった程度だったと思います。
当時、
セニラン5ミリ・ドグマチール300ミリ・アモキサン50ミリを各食後、
パキシル20ミリを夕食後と就寝前、
マイスリー10ミリ、パルレオン0.5ミリを就寝前に処方されていました。
その時の主治医は体調があまり良くないことを訴えるとどんどん増薬する方で、診察に家族を同席させない(一度頼んで同席しましたが、怒られました)主義の方で、少々不安があったため、私の会社に来ている医師に夫には内緒で相談したところ、「薬が多いので、セカンドオピニオンをとってみては?」とアドバイスされました。
近所で評判の良いクリニックを訪れ、十分相談した結果、転院することにしました。
現在の医師は、少しずつ薬の整理をしていきましょう、との意見で、まずドグマチールを抜きました。
少しずつ様子を見ながらと指示されていましたが、本人の大丈夫そうだという判断で、ほぼ一気に抜いてしまいました。
幸い、1ヶ月ほど経っても反動は無く、むしろ体調は良くなったようだと言っていました。
悪くない状態が続き、「もうかなり治ってるんじゃないかな?」という言葉を聞いた時、嬉しくて、一人で泣きました。
しかしそれから2週間ほど経ち、また「会社を辞めたい」と言うようになりました。
家でも、疲れとやる気の無さが見て取れます。
ストレスの元は仕事で、「自分のやりたいことができない、なぜ自分がこんな仕事をしなければならないのか?」と考えているようです。
仕事内容以外の、例えば人間関係などは悪くないようです。
随分長くなってしまいましたが、お聞きしたいのは次の2点です。
・仕事がつまらないとか、辞めたいというのは一般の人もよく感じることだと思います。楽しいことばかりが仕事ではない。自分のやりたいこと以外はやりたくないというのは、甘えがあるのでは・・?と思う反面、過剰な眠気に襲われたり、ダルそうに横になっている姿を見ると、やはり病気なんだ優しくしなくては、支えにならなければ。とも思います。
この彼の状態は、うつ病と考えてよいのでしょうか。
・ある本で、認知療法を知りました。このホームページではあまり触れられていないようですが、一説には「投薬と同等の効果があり、投薬と並行して行うのも非常に有効」と言われていると聞きました。
夫の場合、もともとストレスを受けやすい性格だと本人が言っており、また、今回のような状態にはこの認知療法は有効なのではと思うのですが、どうなのでしょうか?
長くなってしまい、申し訳ありません。
夫には優しく穏やかに、不安など一切隠して接していますが、今の状態にどう対応すればよいのか、先の見えない不安と、何をしていても頭から離れない「うつ」という2文字で、心が潰れそうです。先生のご意見をお聞かせいただけたら幸いです。
林: ご主人様は、おそらくうつ病だと思います。メールに書かれている症状、経過、薬物療法への反応からはそのように判断できます。しかし、「会社を辞めたい」ということの背景についての情報が表面的なことしか書かれていませんので、なんとも言えないところもありますが、どちらかと言えばやはりうつ病の可能性のほうが高いでしょう。うつ病だとすれば、適切な治療を受ければ治ります。事実、いったんはかなり回復されたようですので、十分期待していいと思います。
認知療法については、少なくともこの【0718】のケースでは、あまり大きな期待をしないほうがいいでしょう。認知療法に期待すべきなのは、たとえば【0728】のような場合、それからうつ病が回復し、再発防止を考えるような場合です。
一説には「投薬と同等の効果があり、投薬と並行して行うのも非常に有効」と言われていると聞きました。
確かにそういう説はあります。しかし、投薬と同等の効果がある、というのは誤りだと思います。うつ病という言葉を、病気か否かはっきりしない気分の落ち込みまで拡大して用いれば、認知療法が有効なケースもあるでしょう。しかし、本物のうつ病を認知療法のみで治療するのは危険な行為だと思います。(投薬と並行なら、いい場合もあります。しかし常に勧められるわけではありません)
認知療法はカウンセリングとは厳密には異なるものですが、形式としてはカウンセリング的ですので、【0659】で言ったように、効果の判定は非常に難しいものがあります。
以上、認知療法についてのご質問が書かれていたので回答しましたが、あなたのご主人様のケースでは、認知療法を考慮する以前に、なぜ再発してしまったかをよく検討する必要があると思います。
もっとも考えられるのは、薬を減らすのが早すぎたということです。
経過を冷静に見れば、そう考えるのが最も自然でしょう。それにはあなたも気づいておられると思います。薬を一気に抜いてから約6週間で再発しているのですから、普通は誰が見ても薬を減らしたのが原因でしょう。ということは、薬を元の量に戻すのがまず最初に試みるべき治療であるのは明らかです。
家族には一切説明をしない、最初の主治医の姿勢には確かに問題があると思います。しかし、その医師の治療によって病状が改善したのは動かせない事実です。
そして次の主治医は、説明は十分してくださったようですが、病状が悪化したのはこれまた動かせない事実です。
どちらが良い医師だったでしょうか。ここは冷静に考えてください。あとのほうの医師は「近所で評判が良い」とのことですが、結果として病気を悪化させているのです。評判が良いというのは、単に愛想が良いだけということも考えられます。
良い医師というのは、病気を治す医師です。それ以外の基準はナンセンスです。
もう一度、しっかりと薬物療法をやり直すことをお勧めします。うつ病は治ります。