精神科Q&A
【0681】14歳の娘のゴミ集めなどの異常行動
Q: 現在中2(14歳)の娘について御相談させて頂きたいと思います。私は34歳で主人はいません。実家で両親と子どもの4人家族です。
最近娘の様子が変わってきた様に思い、過去の病歴の再発ではないかと心配しています。
娘が最近ワケもなく突然涙ぐんだり、何に対してもやる気が出ず、記憶能力が著しく低下しているようで、さらに一日の大半を寝て過ごす様になりました。放っておけば睡眠時間は20時間を超える事もあります。なるべく規則正しい生活リズムをつけさせようとしていますが、私が仕事に出ている間は何もせずボーッとしてはウツラウツラ寝たり起きたりを繰り返しています。
現在夏休みなので特にそうなるのかもしれませんが、整理整頓のできるキレイ好きだった娘がここまで変われるのかと思うほど、部屋はゴミ屋敷の様です。叱ってもあまり反抗はしませんが、生返事ばかりで、後で注意した事を確認しても叱られた事さえ覚えていません。娘が話す内容も同じ事の繰り返しだったり、家族でその日にあった出来事を話していても、娘だけが一緒に体験した出来事の記憶がない場合もあるので、まるで痴呆の老人と話しているのかと感じるほどです。
実は娘は小学3年(10歳)の時に一時不登校となりました。成績は優秀で明るく友達の面倒見もよく、誰からも「優等生」と言われていました。
その娘がある日を境に、毎日学校帰りに大量の石ころやゴミを拾ってくるようになりました。最初は制服のポケットから数個の小石が出てきたのですが、小さい頃から小石を集めてはママゴトや石蹴りに使っていたので私や両親も気にもとめていませんでした。でも、日に日にその量が増えていきカバンや給食袋の至る所から小石やガムの包装紙、木くず、落ち葉、空き缶などが出てくる様になりました。その時は「何故ゴミを拾って帰るの?ゴミにはバイキン等がついている場合が多くてキタナイから拾わないように」と注意しましたが、その後もどんどんゴミの量は増える一方でした。
また、こちらが話した簡単な事(新聞をポストから取ってきて、裏庭の門のカギを掛けてきて等)が全く頭に入らない様で、まるで言葉を理解していないかの様な事もありました。本人も私が頼まれた事がよく分らないと言っていました。
加えて、いつも朝喜んで登校していた娘が「お腹が痛い、頭が痛い」と登校をグズる様になりました。それでも励ますと頑張って学校に通っていたのですが、次第に登校前に大声を張り上げて泣く様になりました。その泣き方が尋常ではなく、泣き叫ぶというカンジでした。あまり様子がおかしいので、本人が嫌がる時は学校を休ませる事にしましたが、担任の先生に相談すると、小石を拾い始めた頃から、学校でも様子が違っていた・・・との事でした。
具体的にはテストの時に自分の名前を書くときに「名前が上手に書けない。」と50分間消しては書きを繰り返し、結局白紙の答案用紙を提出する事になり、本人はショックを受けて先生の資料室に内側からカギをかけて4時間程閉じこもって、中で中国の漢文の本を広げ、一字一句間違わない様にノートにビッシリ(後でノートを見ましたが普段の娘の字とは思えない、明らかに異常性をもった字でした)写していたという事でした。その後も大人も読めない様な難しい漢字ばかりに興味を持ち、毎日それを書き写しては覚えようとしたり、同じ漢字をノート一冊にひたすら書き続けるという異常な執着もありました。
また、朝教室のドアの前に立つとボロボロ涙が出て、教室でも泣きながら「机が教室の横壁に平行に並べられない。」と言って授業の間中机のゆがみを直していた事もあったそうです。また校内で落ちていた手袋を拾って下校時に全校生徒1000人以上に一人一人に「手袋落としませんでしたか?」と聞きこうとして先生に止められました。一連の様子に対して娘にどんな気持ちでそんな行動をとるのか聞いてみた所「ゴミを拾ったり、落とした手袋を届けてあげるのは良い事でしょう。机をキチンと並べるのも良い事だし、丁寧に名前を書くのも良い事だし、そうせずにはいられない。」と話し、校医さんと神経科の先生に[強い抑圧を受けた事による小児神経症]と診断され児童相談所で3ヶ月ほどカウセリングを受けました。薬は使わず、カウンセラーの方と対話しながら自分のしたい事を好きなだけさせるという治療?でした。
幸い娘はカウンセラーさんや校医さんが驚くほど順調に元に戻り、3ヶ月後には不登校もなくなり、ゴミを拾ったり、小さな事にこだわる事もなくなりました。ただ、その際に先生に「子どもさんは今は幼いから回復は早いと思われますが、このような状態が思春期の頃に出てくると自殺などを考えるようになる事もあるので注意してください。その時は今のように早くは回復しにくいです」と言われました。
そして最近また以前の症状と一部重なる様子が娘に見られます。以前の様に細かい事に固執したりはしませんが、逆にゴミの中に座っていても平気でいたり、掃除の仕方が分らないようです。また、物忘れのはげしさや一日ボーッとしている、涙ぐむなどの様子は一度病院に連れて行った方がよいのでしょうか。自殺や失踪など手遅れにならないようにしたいと考えています。
林: 一日も早く病院を受診されたほうがいいと思います。
娘さんのこれまでの症状は、強迫症状とまとめることができます。
テストの時に自分の名前を書くときに「名前が上手に書けない。」と50分間消しては書きを繰り返し、結局白紙の答案用紙を提出する事になり、
大人も読めない様な難しい漢字ばかりに興味を持ち、毎日それを書き写しては覚えようとしたり、同じ漢字をノート一冊にひたすら書き続けるという異常な執着もありました。
朝教室のドアの前に立つとボロボロ涙が出て、教室でも泣きながら「机が教室の横壁に平行に並べられない。」と言って授業の間中机のゆがみを直していた事もあったそうです。
これらはいずれもはっきりした強迫症状です。
また、
先生の資料室に内側からカギをかけて4時間程閉じこもって、中で中国の漢文の本を広げ、一字一句間違わない様にノートにビッシリ(後でノートを見ましたが普段の娘の字とは思えない、明らかに異常性をもった字でした)写していたという事でした。
また校内で落ちていた手袋を拾って下校時に全校生徒1000人以上に一人一人に「手袋落としませんでしたか?」と聞きこうとして先生に止められました
これらも強迫の一種と判断できます。しかし、単なる強迫とは異なった、思考障害の色彩がある言動といえます。
さらに、
娘にどんな気持ちでそんな行動をとるのか聞いてみた所「ゴミを拾ったり、落とした手袋を届けてあげるのは良い事でしょう。机をキチンと並べるのも良い事だし、丁寧に名前を書くのも良い事だし、そうせずにはいられない。」と話し、
このようなご本人の説明は、通常の強迫神経症とは質が異なる可能性を示唆するものです。
ゴミ集めへの異常な執着や、集めたゴミに囲まれている様子も同様です。その他、メールに記載されている娘さんの状態をあわせますと、統合失調症(精神分裂病)の可能性が出てきます。統合失調症(精神分裂病)は、強迫症状の形で発症することがあるのです。【0595】もご参照ください。ただし、初期の診断は非常に難しいものです。けれども可能性は否定できません。
このような状態が思春期の頃に出てくると自殺などを考えるようになる事もあるので注意してください。その時は今のように早くは回復しにくいです
校医の先生のこの説明は、統合失調症(精神分裂病)のことを言っておられるのだと思います。そしてこの説明は真実です。薬物療法を考慮すべき状態だと思います。子どもに薬を投与することに関しては、【0496】、【0567】のような問題が確かにありますが、この【0681】のケースは、そうしたことを考慮しても、薬を早く投与すべき状態だと思います。一日も早く病院を受診してください。