精神科Q&A
【0496】7歳の自閉症の息子に薬を飲ませるべきか
Q:
私は42歳の母親です。現在7歳の息子は、5歳のときに高機能自閉症と診断されました。多動もあるので、半年前からリタリンを処方され、朝学校(普通学級に通学しています)に行く前に一錠飲んでいましたが、3ヶ月程様子をみましたが食欲不振のようで体重が増えないと主治医に相談したところ、セレネースに変えられました。
しかし、それは統合失調症などの薬で怖い副作用も有ると知り、ショックでした。
看護婦さんが、微量だから大丈夫というので、朝、晩の二回飲むべきところ、朝だけ飲ませて様子を見ましたが、やっぱり効果があまり感じられませんでした。
その後、食欲は改善されてきたようなのでまたリタリンに戻していただけるよう主治医に話しましたら、なんと今度はセレネースを朝晩とリタリンを朝飲むように指示されました。
私はたった7歳の子供に(それも小柄で体重は20キロしかない)抗精神病薬を飲ませるのが、どうしても抵抗があります。
こちらの希望を受け入れて下さらない主治医に疑問を感じるようになりました。
主治医には黙って今はリタリンだけ飲ませて学校に行かせています。
主治医は高名なベテランでカウンセリングにおいては信頼できる先生です。
どうしたらよいのでしょうか。
林: 息子さんの治療について、あなたが感じておられることの内容は、理にかなったことと、不合理なことが混じっています。(それは、よくあることです)
まず理にかなったことは、ご質問の中心である、
「たった7歳の子供に抗精神病薬を飲ませるのが、どうしても抵抗があります」
という点です。
子供への向精神薬の投与については、専門家のなかでも統一した見解はなく、多くの論争があります。
誰もが当然持つ疑問は、脳の成長に対して薬が悪影響をもたらさないか、ということです。
これについては、安全だという確固たるデータはありません。つまり、そういうリスクはあるということです。
けれども、飲ませなかった場合にもリスクがあります。
それは、心身ともに成長するという大切な時期に、精神症状があるということが、やはりここでも成長に悪影響をもたらす可能性があるということです。
たとえば多動のために、友達ができなかったり、あるいはいじめにあったりしたら、こころの成長に対する影響は甚大になるでしょう。そしてそれはあとからでは取り返すことができないものです。とすると、薬を使って精神症状を抑えたほうがいいというのももっともな見解ということになります。
したがって、7歳の子供に向精神薬を飲ませるのがいいかどうかは、非常に難しい問題です。個々のケースで判断していく以外ないでしょう。
ですから、
「たった7歳の子供に抗精神病薬を飲ませるのが、どうしても抵抗があります」
というあなたの直感は、医学的にも正しいといえます。この問題は専門家の間でも議論のあるところです。(たとえば最近Scienceという科学雑誌の2003年3月14日号にも出ていました)
しかし、あなたの感じておられることのなかには、不合理なこともあります。
その第一は、
「(セレネースは)統合失調症などの薬で怖い副作用も有ると知り、ショックでした」
という点です。
確かにセレネースは統合失調症などの薬です。怖い副作用もあります。
しかし、怖い副作用のない薬というものは存在しません。どんな薬にも怖い副作用はあります。「あります」ではなく、「あり得ます」というのが正しい表現ですが。
また、あなたのセレネースの処方に対するショックの少なくとも一部は、これが統合失調症などの処方される薬であるということだと思います。そしてその理由の少なくとも一部は、あなたが統合失調症に対して悪い印象を持っておられるからではないでしょうか。
以上の二つの意味で、あなたの感じられたショックは不合理なものといえます。セレネースでショックを受けるのであれば、リタリンを処方されたときも同様のショックを受けてしかるべきです。薬には必ずリスクがあるのです。
また、
「こちらの希望を受け入れて下さらない主治医に疑問を感じるようになりました」
というのも不合理な感情です。逆に、なんでも希望を受け入れるのが良い主治医とお思いでしょうか。もし医師がなんでも希望を受け入れれば、その時は確かに良い印象を持たれるかもしれませんが、それが最善の治療になるとは考えにくいことです。【0473】や【0488】もご参照ください。
また、これに関連して、あなたは処方された薬の一部を飲ませたり、飲み方を独自に判断したりしておられます。これは最悪のやり方です。お子様のためになんのプラスにもなりません。主治医の指示とは違うのみ方をさせて(その飲み方にはなんら医学的根拠がありません)、なにか害が出たとき、あなたには責任が取れるとお考えでしょうか。もしどうしても主治医の指示に疑問があるのなら、主治医を変えるべきでしょう。
以上のように、あなたの持っておられる治療に対する疑問は、基本的には理にかなった正しいものですが、不合理なものもあります。しかし、いずれにせよ、主治医の指示から外れた治療を続けていいということにはなりません。(それは治療を受けているとさえいえません)
疑問は疑問として、それでも主治医の指示にしたがうか、そうでなければ主治医を変えることをお勧めします。
参考文献
● The Medication Merry-Go-Round (薬のメリーゴーランド )
Science Vol.299 (2003.3.14.) pp.1646-1649.● Developmental Pharmacology --- Drug Disposition, Action, and Therapy in Infants and Children. by Kearns GL and Others
New England Journal of Medicine Vol. 349 (2003.9.18.) pp.1157-1167.