The Medication Merry-Go-Round (
薬のメリーゴーランド )
Science Vol.299 (2003.3.14.) pp.1646-1649. 


 子どもに向精神薬を飲ませることの是非についての論文です。成長期にある子どもへの向精神薬投与の安全性については確認されていないことについての警鐘から始まり、しかしかといって薬以外の治療法が事実上ない場合もありうるという現実について論じられています。リスクは避けたいと思うのは当然です。しかし、たとえばこの論文にはある医師の言葉として次のようなものが紹介されています。
 「リスクが完全にはわかっていない薬であっても、もし非常に重いうつ病の子どもがいたら、その薬で治療します。この場合、リスクとはあるかないかわからない抽象的なものです。けれども、うつ病の子どもは、抽象的なものではなく、現に目の前で苦しんでいるのです」
 また、薬で治療を受けたADHDの子どもの親の言葉もあります。
 「薬の影響が、私の子どもの脳や体に、今後どういう形で出てくるかはわかりません。でも、薬で治療を受ける前には、私の子どもは字を読むことさえできなかったのです。今は字を書くことも、野球をすることもできます。友達もいます。薬なしではこうしたことができなかったことは確かです」
 もちろん、これらとは逆に、薬で害を受けることもあるでしょう。それは今はわかりません。わからないということを理解したうえで、方針を決めるしかないのです。

 現在、この問題にかかわる規制は混乱しているといえます。どうするのが正しいのかは誰にもわかりません。たとえば抗うつ薬であるパキシルは、18歳未満の大うつ病患者に投与することは禁止、と添付文書に明記されています。
 この規制がはたして本当に正しいかどうかは難しいところです。もし他に治療法がない場合でも、子どもにパキシルを飲ませてはいけないのかどうか。
 現在のところは、子どもへの向精神薬の投与はリスクもあれば効果もあるということを認識したうえで、ケースごとに考えていくしかないと私は思います。もっともそれは大人への薬の投与であっても同じことですが。
 


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